安定冠動脈疾患における虚血評価を再考する

ISCHEMIA試験における冠動脈CT検査の役割・位置づけ

第2回ディスカッション ~ポイント~
  • 非侵襲的な負荷イメージングによる虚血評価で中等度以上の虚血が証明されなければCAGなど侵襲的評価を積極的に実施する必要はないのか?

  • 症状の有無だけでCAGやiFR/FFR等の侵襲的評価を行うことは妥当なのか?

  • 日本において、CTAが実臨床の上流に位置している実態がある。そこで、冠動脈CTAでプラーク性状を評価して内科的治療を強化しながらフォローするなど、心筋虚血を評価せずに診療していくことは妥当なのか?

香坂 第2回ディスカッションでは、COURAGE試験やORBITA試験の対象ではなかった中等度以上の虚血を示す症例への侵襲的評価の必要性について最初に議論したいと思います。図1にISCHEMIA試験の概要を示します。 ISCEMIA Trialの概要 ISCHEMIA試験では8,518名の中等度から重度の虚血が証明された安定した冠動脈疾患症例が登録されており、登録後のブラインドの冠動脈CT(CTA)によって狭窄のない症例やLMT(左冠動脈主幹部)病変を有する症例はあらかじめ除外されています。ISCHEMIA試験におけるCTAの位置づけについて、本試験に参画された永井先生にご説明いただきたいと思います。

永井 ISCHEMIA試験では、ブラインドのCTAによって評価された被験者のうち14.3%がintact coronary(冠動脈狭窄がない)でした。私はこの結果は重要な示唆を与えていると考えます。なぜならば、CTを施行していなければ、狭窄の無い患者にCAGが施行されていた可能性があるからです。また、軽度の虚血であったとしても、multivessel disease(多枝病変)の場合は、虚血を過小評価してしまう可能性があり、LMT病変を見逃してしまうリスクもあります。したがって、シンチが完璧ではないということ、すなわちシンチの一つ限界が数値で示されたと考えています。

香坂 約14%がintact coronaryであったという結果は、シンチの感度、特異度が一般的に80%、85%程度であることとおおよそ一致しているような印象を受けますね。中等度以上の虚血を示す患者では、CTAを行えばCAGなど侵襲的評価を積極的に実施する必要はないのでしょうか。

永井 CTAの結果、LMTに病変が認められるような場合には、CAGを施行する必要性があると思います。しかし、最終的な結論には至っていませんが、ISCHEMIA試験の結果を見た限りでは、all-or-noneな患者以外に関しては、CAGを行わずにフォローアップできる可能性はあると考えています。

香坂 CTAとシンチの役割分担によって予後を損なうことなくフォローアップできるという意義は大きいですね。ISCHMIA試験の結果は、今後世界各国のCTの役割や位置づけにも影響を与えるかもしれません。