安定冠動脈疾患における虚血評価を再考する

はじめに

香坂 安定冠動脈疾患の治療分野では、その治療戦略に関するメガトライアルが数多く発表されています。これらの試験の結果は研究者にさまざまな問題や課題を投げかけてきました。最初に大きな話題を呼んだのが2007年に発表されたCOURAGE試験です。COURAGE試験では、主に一枝に有意狭窄が認められた患者(虚血証明80%程度)を対象に、PCI治療群(至適薬物療法+PCI群)と至適薬物療法群のランダム化比較が行われましたが、予後改善効果に差は認められませんでした。一方で、その後のサブグループ解析においては、結果的に5%以上の虚血改善が得られた群で予後改善が認められました。我が国からも多施設前向き研究であるJ-ACCESS4 study により、5%以上の虚血改善を得た群の予後改善が報告されています。また、2018年にはORBITA試験の結果が発表されました。

 

   ORBITA試験では、安定冠動脈疾患(1枝病変・70%以上の狭窄)の患者をランダムにPCI 群105名とシャム手技群95名に割り付け、6週間後の運動負荷試験による運動時間の増加量の比較が行われましたが、有意差は認められませんでした。そして、その後の2020年に発表された論文がISCHEMIA試験です。ISCHEMIA試験では、COURAGE試験よりも重症と考えられる「中等度または重度の虚血を示した患者」に対し、侵襲的治療戦略群と保存的治療戦略群の予後を比較しています。4年間の追跡調査の結果、虚血性の心イベントには大きな差は示されませんでした(図1)。しかし、侵襲的治療戦略群では狭心症関連の健康状態に有意な改善が認められました。

 

   これらのメガトライアルの結果を踏まえ、「安定冠動脈疾患における虚血評価を再考する!」というテーマで専門医の先生方と3回のシリーズにわたってディスカッションしていきたいと思います。

 

1 ISCHEMIA trial図