SPECTを用いた虚血心筋の評価による治療選択と予後

はじめに

 FAME試験(文献1)では、冠動脈造影(CAG)による冠動脈の形態的狭窄度よりも、冠血流予備能比(FFR)による生理学的な狭窄度評価(虚血評価)を行って治療適応を決定した方が予後良好であることが示された。この研究が契機となり生理学的虚血評価を用いた冠動脈疾患の治療方針決定が、血管治療に携わる循環器医に見直され浸透している。

 

 心筋の生理学的虚血評価の手法として従来からよく使用されているものの1つに負荷心筋SPECTがある。ここでは、心筋SPECTで得られる虚血心筋の半定量的評価とエビデンス、さらに日常臨床での利用について述べる。

負荷心筋SPECTによる虚血評価方法

 負荷時・安静時の心筋血流SPECT画像をそれぞれ17または20セグメントに分割し、0(正常)~4(無集積)の5段階評価をおこなってスコア化して評価する。

 

 SSSは負荷時の合計スコア、SRSは安静時の合計スコア、SDSはSSSからSRSを差し引いた虚血心筋スコアである。 SDSを%表示し虚血心筋量を半定量的に評価したものが%Ischemic(%SDS)である(図1)。

 

図1 心筋血流SPECT画像のスコアリングと%Ischemic

%Ischemicと治療選択

 Hachamovitchらは2003年に、虚血心筋量(%Ischemic)が左室心筋全体の10%以上の場合、薬物治療よりも血行再建術が予後を改善すると報告している(文献2、図2)。その後、同一著者らが追試を行い、心筋梗塞の既往のない患者において、やはり虚血心筋量10%が血行再建術による予後改善の閾値であること、虚血心筋量が大きいほど血行再建による予後改善効果が大きいことを2011年に報告している(文献3)。

 

図2 虚血心筋量と治療法と予後の関係

Real worldでの%Ischemicの考え方

 実臨床では虚血心筋が左室の10%に満たない症例の頻度も多いが、このような症例に血行再建をする必要は本当に無いのであろうか?

 

 COURAGE研究(文献4)では、安定狭心症例における早期血行再建が予後の改善に寄与しないという結果であったが、治療前後で心筋SPECTを施行した症例を抽出・解析したサブ解析では、5%以上の虚血改善が予後改善につながることが示唆された(文献5)。本邦でも堀ら(文献6)がレトロスペクティブな検討で同様の結果を報告している。すなわち5%以上の虚血改善があれば予後を改善し得るということになる。

 

 さらに、2018年に報告された前向き多施設共同研究であるJ-ACCESS 4において、99mTc-tetrofosminを用いた心筋SPECTによって評価される虚血心筋量をターゲットとして、5%以上虚血を改善させることが虚血性心疾患の予後を改善すること、また治療後の残存虚血が無いことが確認された症例は予後良好であったことなどが証明された(文献7)。

 

 一方、多枝病変によるbalanced ischemiaに伴う%Ischemicの過小評価については注意を払う必要があるが、TID(一過性虚血性内腔拡大)、201Tlのwashout rate、肺野集積などの所見を併用することによって冠動脈疾患の重症度の 評価が可能である。

Real worldでの%Ischemicの算出

 心筋SPECTを熟知した医師であれば、視覚的評価でスコアリングと%Ischemicの算出を行う場合もあるが、日常臨床では時間的制約等で難しい場合がある。

 

 現在ではSSS、SRS、SDSなどのスコアや%Ischemicは、種々の解析ソフトウェアで解析可能である。図3にHeart Score View(現在のHeart Risk View-S)で解析した狭心症の一例(文献8)を示す。

 

 但し、臨床使用の場合は、画像が適切に撮像できていることと、心筋SPECT読影の基礎知識があることが要件となるであろう。

 

図3 Heart Score Viewを用いた心筋血流SPECT画像のスコアリングの一部(狭心症)

今後の展望

 虚血心筋を有する症例に対し、冠血行再建術が予後の改善につながるか否かを評価する前向き無作為化国際研究が現在進行中である(ISCHEMIA study、文献9)。また、相対的な心筋血流評価を補う方法として半導体検出器カメラを用いた心筋血流定量(myocardial flow reserve算出)の臨床的有用性(文献10)も示唆されている。今後はこのような多方面からのエビデンスの蓄積や定量法の普及が望まれる。

 

 

文献1) Tonino PA et al: Fractional flow reserve versus angiography for guiding percutaneous coronary intervention. N Engl J Med. 360: 213-24, 2009

文献2) Hachamovitch R et al: Comparison of the short-term survival benefit associated with revascularization compared with medical therapy in patients with no prior coronary artery disease undergoing stress myocardial perfusion single photon emission computed tomography. Circulation. 107: 2900-7, 2003

文献3) Hachamovitch R et al: Impact of ischaemia and scar on the therapeutic benefit derived from myocardial revascularization vs. medical therapy among patients undergoing stress-rest myocardial perfusion scintigraphy. Eur Heart J. 32: 1012-24, 2011

文献4) Boden WE et al: Optimal medical therapy with or without PCI for stable coronary disease. N Engl J Med. 356:1503-16, 2007

文献5) Shaw LJ et al: Optimal medical therapy with or without percutaneous coronary intervention to reduce ischemic burden: results from the Clinical Outcomes Utilizing Revascularization and Aggressive Drug Evaluation (COURAGE) trial nuclear substudy. Circulation. 117:1283-91, 2008

文献6) Hori Y et al: Myocardial ischemic reduction evidenced by gated myocardial perfusion imaging after treatment results in good prognosis in patients with coronary artery disease. J Cardiol. 65:278-84, 2015

文献7) Nanasato M et al: Prognostic impact of reducing myocardial ischemia identified using ECG-gated myocardial perfusion SPECT in Japanese patients with coronary artery disease: J-ACCESS 4 study. Int J Cardiol. 267:202-7, 2018

文献8) Nakata T et al: Prognostic value of automated SPECT scoring system for coronary artery disease in stress myocardial perfusion and fatty acid metabolism imaging. Int J Cardiovasc Imaging. 29: 253-62, 2013

文献9) https://clinicaltrials.gov/ct2/show/study/NCT01471522(ISCHEMIA studyのホームページ:https://www.ischemiatrial.org/)

文献10) Ben-Haim S et al: Quantification of myocardial perfusion reserve using dynamic SPECT imaging in humans: a feasibility study. J Nucl Med 54: 873-9, 2013