安定冠動脈疾患における虚血評価を再考する

ISCHEMIA試験の結果を受けて

永井 ISCHEMIA 試験の結果の中で、図3にはとても重要な示唆が含まれていると思います。先程の図1のプライマリーアウトカムのカプランマイヤー曲線と、図3の心筋梗塞発生までの時間曲線を合せて見てみると、前者の結果が心筋梗塞のデータに引っ張られているように思われます。このことは、一般的にProcedural MI(手技による心筋梗塞)は予後には影響せず、Spontaneous MI(自然発症の心筋梗塞)が予後に影響することや、インターベンションを行った群でSpontaneous MIが有意に低い結果を示していること(図3)が関係しているように思われます。

 

ISCHEMIA trial イベント発生までの時間曲線(心筋梗塞の基準別評価)

 

   また、各治療法の心血管死への影響について着目してみると、有意差はないものの約5年の経過の中で徐々に差が開いてきているように思われます(図4)。現在、10年間のISCHEMIA-EXTEND 試験が進行中ですが、個人的にはその結果が出るまではインターベンションの効果を評価できないと思っております。

 

ISCHEMIA trial 心血管死のイベント発生までの時間曲線

中田 ISCHEMIA試験ではOMTで十分にコントロールできなかったような狭心症の増悪や、不安定化したような症例の場合には、カテーテル検査やインターベンションを施行することが認められています。待機的なインターベンションについても、COURAGE試験のようなサブグループ解析の結果が今後発表されれば、治療戦略に関する議論がさらに深まると思いますので、期待したいと思います。

香坂 たしかに中田先生のご指摘のとおり、保存的治療戦略群に割り付けられてもACS やACS に近い病態の患者に対しては血行再建をためらわないということが、ISCHEMIA試験のプロトコルでは担保されています。実際、登録後4年時点で保存的治療戦略 群の20%以上に心臓カテーテル検査や血行再建術が施行されています(図5)。図1のプライマリーアウトカムのカプランマイヤー曲線では、侵襲的治療戦略群の初期でイベント発生率が高い傾向にありました。これは、手技による急性腎障害、出血、脳梗塞等の合併症が影響しているのかもしれません。

 

ISCHEMIA trial 心臓カテーテル法と血行再建の累積発生率

 

永井 ISCHEMIA試験のサブグループ解析では、病変枝 数が多いほど予後が悪いという報告もあります。このことは、病変枝数が多いと手技による負の側面が現れやすくなることを示唆しているようにも思われます。

香坂 侵襲的治療戦略群に血行再建に伴う影響を打ち消すだけの長期予後の改善効果が得られるのかどうか、今後のISCHEMIA-EXTEND試験の動向に注目したいですね。

 

   今回のISCHEMIA試験の結果を受け、血行再建を行うことのデメリットやリスクを考慮しながら治療方針を検討していくことの重要性にあらためて気づかされました。虚血心筋量だけでなく、外来診療を通じ患者の全身像も加味しながら総合的に治療戦略を勘案できる時代に入ったと感じています。中田先生、永井先生、ありがとうございました。