治療後の慢性期では心筋シンチで虚血評価を!
「警告・禁忌を含む使用上の注意」等については添付文書を参照ください。
紹介した症例は臨床症例の一部を紹介したもので、全ての症例が同様な結果を示すわけではありません。
本コンテンツで使用している核医学画像提供元:福井県立病院

治療後の慢性期では心筋シンチで虚血評価を!

PCI治療や薬物治療後の慢性期(8か月以降)の心筋シンチによる虚血評価の利点

チェックボックス高い陽性的中率による残存虚血や新規の虚血の評価ができる

チェックボックスPCI後の残存虚血量による予後評価ができる

チェックボックス心電図同期法(gated SPECT)の併用による心機能評価により治療の効果判定にも役立てることができる

慢性冠動脈疾患診断ガイドライン(2018年改訂版)において、
心筋血流イメージングや冠動脈造影(CAG)は、治療後のルーチン検査として推奨されていない。1)

矢印

 

ポイント

ただし、心筋シンチは

「既知冠動脈疾患の残存虚血の存在と部位診断を行う場合」、
「治療効果を判定する場合」などについては推奨されている。

ルーチン検査ではなく中等度以上のリスクを持った症例に対して、
心筋シンチによる残存虚血評価、さらには新規虚血の存在診断は臨床上重要

中等度以上のリスクを持った症例とは具体的には下記が想定される

■post-FFR<0.88の病変(FAME、FAME2)もしくはびまん性病変を伴うpost-FFR未実施の病変を持つ症例

 →DES留置後においてpost-FFR<0.88ではイベントを起こしやすく2)、また残存のびまん性病変により圧較差が生じて術後のFFRが改善しないことが報告されており残存虚血の評価が必要なため

■腎機能低下(eGFR<60ml/min/1.73m2)でアルブミン尿・蛋白尿の確認された症例(J-ACCESS 3)

 →腎機能低下およびアルブミン尿・蛋白尿は、心血管病(CVD)による入院および死亡・総死亡の独立した危険因子であり、腎機能低下およびアルブミン尿・蛋白尿の両者が併存すると、そのリスクはさらに高まるため

■冠動脈疾患の既往があり糖尿病を合併している症例(BARI 2D, J-ACCESS, J-ACCESS 2)

 →閉塞性冠動脈疾患が進行しやすいが、無症候性もしくは症状が出にくいため

■急性心筋梗塞(AMI)の既往もしくは心不全症例3)

 →AMI既往例は心イベント率が高く、心不全症例では急性・慢性心不全診療ガイドラインおよびISCHEMIA心不全解析結果から心筋シンチによる虚血評価が重要であると考えられるため

■2枝以上(PCI未施行含む)の多枝病変例で脂質異常がコントロール不良(LDL≧100mg/dL)な症例

 →残枝に対する動脈硬化の進行がある程度進むことが予測され、新規の虚血評価が必要なため

冠動脈疾患の既往があり糖尿病を合併している症例のフォローアップ時期で心筋シンチが有用であった一例
[20XX年-9年]

年齢性別:50歳代の男性
冠危険因子:高血圧、糖尿病、脂質異常症、喫煙

 

経緯:20XX年-9年
胸痛を主訴に救急外来受診し、心電図でⅡ、Ⅲ、aVFでST上 昇を認め急性下壁心筋梗塞と診断した。緊急心臓カテーテル検査で#1に完全閉塞を認めた。また#13にも完全閉塞を認めた。#1に対してmultilink vision stent 4/23mmを留置した。退院前に、急性心筋梗塞に対するPCIの治療効果と残存虚血の有無を同定する目的で、99mTc-tetrofosminによる運動負荷心筋シンチを施行した。

CAG所見

 

治療前

治療前CGI画像

矢印
治療後

治療後CGI画像

 

運動負荷心筋血流シンチグラフィ所見(退院時)

 

運動負荷心筋血流シンチグラフィ所見画像

100W負荷可能であり、負荷誘発性心筋虚血を認めなかった。急性下壁心筋梗塞症例ではあるが、心筋シンチでは欠損を認めず、血流低下はわずかでよくサルベージされている。 また、回旋枝に慢性完全閉塞を認めたが、心筋虚血は認められ ず、内科的治療を優先させることとした(上図)。 その後、3年間はきちんと内科的治療が継続されていたが、その後すべての内科的治療を自己中断していた。

矢印

[20XX年-1年] 1回目のPCI治療から8年後
運動負荷心筋血流シンチグラフィ所見

 

運動負荷心筋血流シンチグラフィ所見

左上肢脱力を主訴に救急外来受診し、右大脳半球多発性脳梗塞の診断で脳神経内科入院となったが、保存的治療により軽快した。症状安定後、脳神経内科より循環器内科に紹介となったが、 時に労作時胸痛を認めるため、心筋虚血評価を目的に運動負荷心筋シンチを施行した。
125Wの運動負荷により、前壁中隔から心尖部および下側壁に広範囲の負荷誘発性心筋虚血を認めた。

 

CAG所見

 

治療前

治療前CGI画像

矢印
治療後

治療後CGI画像

左前下行枝の亜閉塞病変、対角枝の高度狭窄病変、右冠動脈末梢の高度狭窄病変に対してPCIを施行した。

矢印

[20XX年] 2回目のPCI治療から1年後
運動負荷心筋血流シンチグラフィ所見

 

運動負荷心筋血流シンチグラフィ画像

2回目のPCIから10か月後、明らかな狭心症発作は認めないものの、登山で間歇性跛行を認めることと、高リスク群であり、PCI の治療効果と残存虚血を検討する目的で、99mTc-tetrofosminによる運動負荷心筋シンチを施行した。
2回目のPCI治療により虚血の範囲は小さくなっているが、心尖部にも下壁にも負荷誘発性心筋虚血を認めたため、再狭窄が疑われる。

 

冠動脈CT所見

 

冠動脈CT所見画像

冠動脈CTでは、左前下行枝のステント内再狭窄が疑われる。
運動負荷心筋シンチの結果では虚血範囲は小範囲であり、明らかな狭心症状も認めないため、厳格な至適薬物治療を継続し、患者と話し合いながら治療方針を決定していくこととした。

本症例は、急性心筋梗塞に対するPCI治療後の運動負荷心筋シンチは正常であった症例であり、その後8年間は予後良好であった。1回目のPCI治療の3年後以降に内科的治療を中断してしまったことにより 全身の動脈硬化が進行し、その結果脳梗塞を発症したものと考えられるが、この脳梗塞に伴う心臓精査により、新規の虚血病変を同定し、残存虚血評価に役立った症例である。
 A. CAGにおける異常を捉える検査前確率
 CAGにおける異常を捉える検査前確率

 

B. FFRにおける異常を捉える検査前確率
FFRにおける異常を捉える検査前確率

図の説明

上図はESC2019年度版のガイドラインからの引用で、各モダリティによる診断に最適な検査前確率の範囲についてまとめている4)。閉塞性CADを疑い非閉塞性CADを除外する目的では、腎機能の低下が無い症例であれば上図Aが示す通り、解剖学的CADをルールアウトできる検査前確率の範囲(緑バー)が広い冠動脈CTAを用いて評価することが多い。 また一方で、PCI後の慢性期では、冠動脈疾患のある患者であるため、新たに虚血 が生じていないかを確認する目的で心筋シンチを採用することが多くなっている。これは、上図Bが示す通り SPECTが機能的虚血のルールイン(赤バー)において冠動脈CTAより優れているためで、治療後フォローアップにおける新規虚血病変の確認には、特異度や陽性的中率が高い心筋シンチによる評価が適切と言える。

POINT
中等度以上のリスクを持った症例では、治療後慢性期において、 特異度や陽性的中率が高い心筋シンチを用いて評価することが重要。
1) 慢性冠動脈疾患診断ガイドライン(2018年改訂版)-日本循環器学会
2) Li SJ, et al. JACC Cardiovasc Interv. 2017; 10: 986-995.
3) Lopes RD, et al. Circulation. 2020; 142:1725-1735.
4) Knuuti J, et al. European Heart Journal 2020; 41: 407-477.