パーヒューザミン注/ダットスキャン静注 パーキンソン症候群 症例アトラスシリーズ 多系統萎縮症(MSA-P) 症例提供 千葉大学医学部附属病院 千葉大学医学部附属病院 神経内科 平野 成樹 千葉大学医学部附属病院 放射線科 堀越 琢郎
「警告・禁忌を含む使用上の注意」等については添付文書を参照ください。
紹介した症例は臨床症例の一部を紹介したもので、全ての症例が同様な結果を示すわけではありません。
3D-SSP/3D-SSPTomo/DaTViewによる画像解析は、核医学画像解析ソフトウェアmedi+FALCON*を使用する事で実施可能です。
(*認証番号:301ADBZX00045000)
本コンテンツで使用している画像提供元:千葉大学医学部附属病院

診断病名 多系統萎縮症(Multiple System Atrophy, MSA-P)

60歳代 女性 右利き( 喫煙・飲酒歴 なし)
主 訴 右手の使いづらさとふるえ。
既往歴 血小板減少、2年前に一過性の排尿困難 アレルギー・常用薬なし。
現病歴 X-1年:字が小さくなり、右足が上がりにくく感じるようになった。
X-10カ月:右小指にふるえが出現するようになり、パソコンなどの細かい作業が困難になった。
X年:当科受診。
神経学的所見
明らかな認知機能低下は認めない。失行や失認はなく、感情は正常。会話・言語は流暢で失語はない。
MMSE :30/30点
睡眠障害・便秘・失神はない。眼球運動に制限や眼振はなく、動きは滑らかである。
嚥下障害はない。右環指と小指に限局した振戦と右上下肢の中等度寡動および筋強剛を認める。
筋萎縮や筋力低下はない。深部腱反射は正常で対称、病的反射は無い。感覚障害や疼痛は無い。
指鼻試験・膝踵試験は異常なし。
生化学検査所見
血液検査は血小板(67,000mm3)以外正常。髄液は正常。
治療・経過 パーキンソン病(PD)、多系統萎縮症(MSA-P)、大脳皮質基底核変性症候群(CBS)が疑われる。
レボドパ・カルビドパ配合剤 900mg/日まで増量するも無効。
X+8カ月:転倒。
X+1年:自律神経機能検査を実施する。
起立試験では起立性低血圧を認めず(臥位血圧:119/70 mmHg、脈拍:64/分、起立3分後血圧:
123/72mmHg、脈拍:62/分)、心電図R-R間隔変動係数は正常。
外肛門括約筋筋電図では神経原性変化を認めた。膀胱収縮はほぼ消失し、残尿100mL、排出障害を認めた。
臨床症状および画像検査所見から多系統萎縮症(MSA-P)と診断された。
画像検査所見
MRI X+3カ月

T1強調像 横断面
T1WI

T2強調像 横断面
FLAIR

 

画像検査所見

明らかな大脳皮質や小脳皮質、脳幹の萎縮は認めない。
橋十字徴候は認めないが、左線条体外側に極軽度線状T2高信号を認める。

 
パーヒューザミン®注(123I-IMP) X+1カ月

Original 画像
Original画像
 

3D-SSP/Tomographic解析画像(血流画像/Decrease Z-score画像)
3D-SSP/Tomographic解析画像(血流画像/Decrease Z-score画像)

画像検査所見

左線条体と右頭頂葉の血流低下、小脳の軽度血流低下、両側側頭葉の血流の上昇を認める。
左線条体の血流低下は右半身のパーキンソニズムを反映している。PDでは線条体や小脳の相対的血流増加が特徴的であるが、本例では低下しており、PD以外の疾患が疑われる所見である。

ダットスキャン®注(DaTSCAN) X+1年

Original 画像
Original画像
 

DaTView 結果画像
DaTView結果画像

※SBRは使用機種、コリメータ、画像再構成法等によって変動します。

画像検査所見

両側性に低下しているが、右半身のパーキンソニズムと一致する左優位の被殻、尾状核の集積低下を認めドット状となっている。本例の症状が黒質線条体ドパミン神経の脱落と被殻の変性に起因している事が確認された。

まとめ

パーキンソニズムを呈する症例ではPDとMSA、CBS、進行性核上性麻痺などのパーキンソン症候群(PS)との鑑別が必要になるが、小脳症状、自律神経症状、失行、眼球運動障害などPSに特徴的な症状を認めない場合はPDとの鑑別が困難となる。
当施設では受診後早い段階で脳血流SPECT検査を行い、症状を説明できる病変の有無を確認し、病理変化と症候の裏付けを行うことで、その後に実施すべき検査や診療の方向付けの判断材料としている。また画像所見結果から、見逃されうる症候や異なる鑑別診断の気づきにつながることもある。
本例は受診時にはPSに特徴的な症状を認めなかった。しかし脳血流SPECT検査ではMSA-Pを疑う所見が確認され、抗パーキンソン病薬による治療効果が不十分であったことから、詳細な自律神経系の問診および検査を行い、外肛門括約筋筋電図で神経原性変化、膀胱収縮はほぼ消失し残尿を100mL以上認めたことより、排出障害と結論し、MSA-Pと診断した。
PSの鑑別診断において、脳血流SPECTを含む画像診断が診療の方向性決定に役立った1例である。

SPECT 収集・再構成条件
  パーヒューザミン® ダットスキャン®静注
機種名 Infinia Hawkeye4 Infinia Hawkeye4
データ処理装置 Xeleris ver 2.1753 Xeleris ver 2.1753
使用コリメータ ELEGP ELEGP
投与量 111MBq 167MBq
撮像開始時間 投与 15分後 投与 180分後
収集モード Continuous Continuous
収集角度 4度/step 4度/step
ステップ数 90 90
収集時間 24min(3min×8) 30min(3min×10)
収集拡大率 2 1.5
マトリックスサイズ 64×64 128×128
ピクセルサイズ 4.42mm 2.94mm
スライス厚 4.42mm 2.94mm
前処理フィルタ Butterworth Butterworth
再構成フィルタ ramp
オーダー 8 8
カットオフ周波数 0.5cycles/cm 0.5cycles/cm
画像再構成法 FBP OSEM(Iteration: 5, Subset:10)
減弱補正 Chang(μ=0.07cm-1) Chang(μ=0.07cm-1)
散乱線補正 無し 無し