症例紹介

*紹介した症例は臨床症例の一部を紹介したもので、全ての症例が同様の結果を示すわけではありません。

正常例
63歳男性 (症例提供:順天堂大学医学部附属順天堂医院)

健康成人、パーキンソン症候群との鑑別が必要となる本態性振戦、及びレビー小体型認知症との鑑別が必要となるアルツハイマー型認知症など、黒質線条体ドパミン神経の脱落を伴わない疾患では、本剤SPECT画像で両側の線条体の集積が保たれている。下記の健康成人画像では、水平断層像において、尾状核及び被殻にほぼ均等の放射能分布を認め、その集積は左右対称の三日月型又はカンマ型を呈する。バックグラウンドとのコントラストは良好である(MRIでは異常なし)。

健康成人の本剤SPECT像 (投与後3時間像、本剤185MBq投与)

脳内薬物動態 (Time Activity Curve)

国内第Ⅰ相臨床試験において、日本人健康成人8例にイオフルパン(123I)167MBqを静脈内投与後0~6時間の動態脳SPECT撮像を行い、脳内放射能分布を検討した。
線条体、中脳、後頭葉及び小脳の放射能濃度の推移を図1に示した。線条体の放射能濃度は投与後60分で最大となり、その後1時間あたり3%の割合で減少した。後頭葉及び小脳の放射能濃度は線条体に比べて低く、投与後15分で最大となった後、速やかに減少した。
後頭葉を参照領域に設定し、線条体における特異的結合の指標としてT/B比((線条体の放射能-後頭葉の放射能)/後頭葉の放射能)を算出した結果、投与後3時間以降は同様の値で推移した(図2)*)
 *高野勝弘、 他:核医学 36(9):1013-1022、 1999

図1 線条体、中脳、後頭葉及び小脳
における放射能濃度の推移


図2 T/B比の経時的変化

 
疾患例

パーキンソン症候群(パーキンソン病、多系統萎縮症及び進行性核上性麻痺)やレビー小体型認知症など、黒質線条体ドパミン神経の脱落を伴う疾患では、線条体への集積が低下する。以下にパーキンソン病及びレビー小体型認知症の画像を提示する。

パーキンソン病 69歳男性 (症例提供 : 順天堂大学医学部附属順天堂医院)

X-3年に小刻み歩行、すくみ足が出現した。L-dopaが有効であり、パーキンソン病と診断された。X-2年に歩行障害が進行し、ドパミンアゴニスト(プラミペキソール)、セレギニンが追加され、改善した。
X年4月にすくみ足が増悪し、前傾姿勢も出現した。
X年7月に当科を受診した。パーキンソン病の診断で抗パーキンソン病薬(アマンタジン、レボドパ・カルビドパ配合剤、セレギニン)が処方され、Hoehn & Yahr の重症度分類3度で経過した。
wearing offも認めた。糖尿病、腰痛症の罹患があった。
X年9月に通常のMRI又はCTで脳に異常を認めず、年齢相応の脳室拡大、萎縮、正常変異、中高齢者でみられる白質病変は無かった。

本剤SPECT像(投与後3時間像、185MBq投与)

レビー小体型認知症 79歳男性 (症例提供:順天堂大学医学部附属順天堂東京江東高齢者医療センター)

X-4年に健忘がみられた。X-3年に人物幻視、錯視、動作が遅い、易転倒性を認めた。
X-2年5月に当科を初診した。記銘・記憶障害、時間の失見当識、注意、構成不良など認知機能障害を認めた。人物幻視、錯視など精神症状、歩行障害、寡動、振戦などパーキンソニズムを認め、通院・薬物療法を開始した。この時点でレビー小体型認知症と診断された。
X年10月に精神症状は改善しているが、認知機能障害及びパーキンソニズムは進行していた。
X年10月のMRIでは、脳実質は萎縮しており、側脳室周囲に高信号域を認めた。大脳白質にはラクナ梗塞による高信号域があった。大きな梗塞巣や出血は無かった。

本剤SPECT像 (投与後3時間像、185MBq投与)

疾患例における画像の特徴

●  画像パターンは大きく分けて次の2つである。

  ⇒尾状核での集積低下に先行して、被殻での集積低下を認める。このような症例では、尾状核のみが描出され、集積は円形又は卵形の形状を呈する。

  ⇒線条体への集積が全体的に低下する。

 

●  パーキンソン病では、運動症状が片側で始まり対側に進展していくように、線条体における集積低下も、運動症状が見られる側の対側の被殻に始まり、左右非対称に進行することが多い。

 

●  多系統萎縮症、進行性核上性麻痺及びレビー小体型認知症では、左右の対称性及び三日月型の形状を維持したまま、尾状核を含む線条体全体への集積低下を示す傾向があり、バックグラウンドとのコントラストが低下することがある。