
2. 読影&レポーティングの極意
座長
工藤 崇 先生
長崎大学
皿井 正義 先生
藤田医科大学
演者
仁科 秀崇 先生
筑波メディカルセンター病院
「2022年JCSガイドライン フォーカスアップデート版 安定冠動脈疾患の診断と治療」では、負荷イメージングである心筋SPECTは、冠動脈CTAに比べ検査前確率の高い患者に対してrule-in目的で使用することが推奨されている1)。しかし、心筋SPECTが正常所見の場合の予後は、非常に低リスクであることが知られており(図1)、心筋SPECTで心筋虚血を認めない症例では、内科的治療による安全な管理が可能であることが示唆されている。

【図1】
一方で、心筋SPECTで中等度または重度の虚血を示した患者を対象としたISCHEMIA試験の結果では、初期からの侵襲的治療戦略が、保存的治療戦略と比較して必ずしも患者の予後改善に結びつかないことが報告されている(図2)2)。したがって、心筋虚血の存在やその程度は確かにリスクファクターであるものの、それだけでは侵襲的治療の対象とするには不十分であるというのが、現時点のエビデンスに基づく結論と言える。
Initial Invasive or Conservative Strategy for Stable Coronary Disease Maron DJ, et al. N Engl J Med. 2020; 382(15): 1395-1407.
心筋SPECTを白黒画像で読影する際、どこが欠損しているかを判断しづらい面があるため、状況に応じてカラー画像と切り替えながら評価を行うことが肝要である。ただし、あまりにもカラー表示に依存すると、全体的に異常に見えてしまう可能性もあるため注意しなければならない。
心筋SPECT画像の読影は「まずはありのままの姿を見る」ことが基本である。正常か異常かという判断に進む前に、画像全体の状態を確認することが重要である。例えば、画像の歪みが強調されている場合、その背景には体動などによるアーチファクトが潜んでいる可能性がある。
自験例においても、肩の痛みのために腕を上げることが困難であった症例にアーチファクトを認めたことがある。本症例には、腕を下げた状態で心筋SPECTの再撮像を実施した結果、再撮像前に気になっていた画像の歪みや欠損が解消され、自信を持って正常と判断することができた。
BMIで30を超えるような肥満患者に対してもアーチファクトに注意が必要である。このような患者の心筋SPECT画像では、梗塞であるかアーチファクトであるかの判断に悩む場面も少なくない。そこで役立つのが、心電図同期心筋SPECTを用いた評価である。心電図同期心筋SPECTにより心臓の動きなどの心機能を評価に加えることで、診断がより明確になる可能性がある。実際に、心筋血流と心機能を同時に評価することで、「おそらく正常」や「おそらく異常」といった曖昧な判定が減少し、より明確な診断につながることが報告されている3)。前述のような肥満患者に対しては、Prone Imaging(うつぶせ撮像)による評価も有用である。うつぶせの状態で撮像することで、下壁の集積低下が正常であるかアーチファクトであるかを判断しやすくなる。Supine Imaging(仰向け撮像)とProne Imagingの両方を活用することで、感度を落とさずに特異度を向上させることも知られている4)。
女性患者では、Shifting breast artifactにも留意が必要である。安静時のSupine Imagingでは乳房が心臓上に比較的均一にかぶさるが、負荷時では乳房が心臓の上半分を隠してしまうことがある。そのため、安静時と負荷時の乳房の位置の差が評価に影響を及ぼす可能性がある。このような場合にも、Prone Imagingが有用である。Prone Imagingでは、枕を置いて乳房がより均一な減弱体になることで、負荷時と安静時との乳房の位置の差による影響を抑えることが期待できる。女性患者におけるSupine Imagingでは、ブラジャーのカップサイズが大きくなるにつれて特異度が低下する傾向にあるが、Prone Imagingと組み合わせることで、特異度を向上させることが報告されている5)。
心筋SPECTによる診断で最も避けるべきは、最初の読影で「正常」または「軽度の異常」と判断した後に3枝病変などの高リスク所見が後日判明するようなパターンである。こうした展開を回避するためには、臨床背景を踏まえた上での閾値調整、すなわち検査前確率や臨床的尤度などのバイアスを考慮した工夫が求められる。
しかしながら、前述のとおり心筋SPECTでは「まずはありのままの姿を見る」ことが重要である。初見では「何となくぱっと見てもよく分からない」、「少し怪しいかな」といった印象に留まることもあるかもしれないが、ひとまず適当にスコアを付けた上で次のステップへ進むとよい。
一見すると心筋SPECT画像を正常と判断できそうな自験例を紹介する(図3)。

【図3】
本症例は70代男性であり、患者背景として息切れ、冠動脈の石灰化、高血圧、脂質異常症を有していた。LVEFの著明な低下は認めず、心筋SPECT画像は非常に均一な結果であった。そこで、まずは本症例が心筋SPECTを受けた原因について着目した。その結果、ドブタミン負荷エコー時の有意なST低下と、左前下行枝(LAD)領域における駆出期以降に生じる心筋の収縮(PSS : post-systolic shortening)があることが判明した。こうした臨床的バイアスを考慮し、次に心筋SPECTで得られたデータの深読みを行った。安静時と負荷時のLVEFに大きな変化はなかったものの、一過性左室内腔拡大(TID)が認められた。また、安静時では下壁の集積がやや低下しているのに対し、負荷後には完全に正常な状態に改善している点も確認された。これは、前壁の集積低下が原因で相対的に下壁が均一な灌流として写っている可能性が考えられ、LAD領域の虚血が示唆された。ドブタミン負荷エコーの結果も考慮し、本症例では冠動脈造影(CAG)をはじめとした精査、治療が必要であることをレポートとしてフィードバックした。その後、本症例に対しCAGが実施され、LADの近位部に非常に高度な狭窄(FFRが0.59)が確認されている。
心筋バイアビリティの評価では冠動脈の解剖を評価することも重要である。
自験例を紹介する。本症例は60代男性の透析患者で、心電図異常とLVEFの低下を理由に、心筋SPECTのオーダーがあった患者である。負荷時と安静時のSPECT画像を比較すると、どちらもLAD領域に広範な欠損があり、ほとんどがnon-reversibleのように見えた。ここで問題となるのが「虚血の有無」、「バイアビリティの有無」、「血行再建の必要性」である。こうした症例では、一見するとバイアビリティは期待できず、血行再建の必要はないと判断されるかもしれない。しかし、冠動脈の解剖を評価せずにバイアビリティを判定してはいけない。本症例の場合、実際にCAGを実施したところ、LADの近位部に石灰化を伴う非常に高度な狭窄と、右冠動脈にびまん性病変が認められた。したがって、最初にnon-reversibleのように見えたのは、安静時からの高度な虚血が影響していると考えられる。それならば、バイアビリティがないとは断定できない。本症例は、その後冠動脈バイパス手術(CABG)を受け、虚血およびLVEFが改善している(図4)。

【図4】