
1. CCTAファースト時代の 心筋SPECTの活用法
座長
沖崎 貴琢 先生
旭川医科大学
石井 秀樹 先生
群馬大学
演者
山田 愼一郎 先生
北播磨総合医療センター
冠動脈CTAは近年稀に見るスピードで普及してきた。2008年には64列マルチスライスCTを用いたCORE64試験において、侵襲的な冠動脈造影(CAG : coronary angiography)にほぼ匹敵する精度を有することが示された1)。現在は320列Area DetectorCTも普及しており、非常に詳細な解剖学的情報が非侵襲的に得られるようになっている2)。
冠動脈CTAにより、狭窄のみならず冠動脈プラークの性状も評価できることがわかってきた。急性冠症候群(ACS : acute coronary syndrome)と安定狭心症(SAP:stable angina pectoris)の責任病変を冠動脈CTAで比較した研究では、ACSの責任病変は陽性リモデリング、低吸収プラーク、微小石灰化が安定狭心症よりも多く認めることが報告されている(図1)3)。
Multislice Computed Tomographic Characteristics of Coronary Lesions in Acute Coronary Syndromes
Motoyama S, et al. J Am Coll Cardiol. 2007; 50(4): 319-326.
(安定狭心症)待機的PCIを推奨された患者(33人)
(急性冠症候群)胸痛症状があり心電図でST上昇が認められトロポニン値が上昇したST上昇型心筋梗塞で24時間を超えて入院して症状が消失したST上昇型心筋梗塞患者(10人)、胸部不快感があり心電図でST上昇が認められずトロポニンが上昇している非ST上昇型心筋梗塞患者(9人)、CCSクラス3または4で心電図のSTおよびトロポニン値に異常がない不安定狭心症患者(19人)
さらにFFRCTの登場により、冠動脈CTAの画像情報のみから虚血の機能的評価を行うストラテジーも提案され、血管ごとの評価において侵襲的FFRとの高い相関が確認されている4)。
JROAD(The Japanese Registry Of All cardiac and vascular Diseases)の2023年の循環器疾患診療実態調査報告書によると、本邦では待機的PCIの施術件数が緊急PCIの倍以上に上る。
米国では、CCS(chronic coronary syndrome: 慢性冠症候群)へのPCIに関する適応適切性基準(AUC : appropriate use criteria)が制定されている。同基準を本邦の循環器病データベースに当てはめると、待機的PCIが非適切に該当する割合はAUCの2009年版で約6分の1、AUCの2012年版で約3分の1となり、本邦のPCIの現状に疑問を投げかける結果となっている5)。
日本心血管インターベンション治療学会(CVIT)のPCI Registryの2014-2023年のデータでは、CCSを原疾患とする患者へのPCIが計12万件以上実施されていた。このうち何らかの方法で事前に虚血の評価を行っていたのは4万件に満たなかった。
なぜ、多くのCCS例で虚血評価をせずにPCIが施行されているのか。その原因は、本邦における冠動脈CTAの施行率の伸びにあると考えられる。JROADの2023年(2024年度実施・公表)循環器疾患診療実態調査報告書によれば、現在、冠動脈CTAは年間50万件以上登録されており、CAGを上回る。おそらく冠動脈CTAで解剖学的狭窄を認めた場合、それのみを基準にPCIに進むケースも多いのではないかと推測される。
「2022年JCSガイドライン フォーカスアップデート版 安定冠動脈疾患の診断と治療」では、検査前確率(PTP : pretest probability)5~85%の広い範囲を中等度とみなし、rule-out目的での冠動脈CTAの施行を推奨している6)。
それに対し2024年の欧州心臓病学会(ESC)のCCSガイドラインでは、冠動脈CTAはよりPTPが低い(5~50%)患者においてスクリーニングとして使用することが強く推奨されている7)。それよりも高確率の患者に対しては心筋SPECTなど負荷イメージングの施行が推奨されている(PTP 15~85%での使用を推奨)7)。
欧州でこのような検査選択が推奨される背景を考えてみた。心筋SPECTと機械学習ベースのFFRCTによる虚血評価を比較した研究では、冠動脈CTAで判定した狭窄や動脈硬化の重症度にかかわらず、一貫してFFRCTが心筋SPECTよりも虚血陽性率が高かった8)。この陽性率の高さが適切な予後対策につながるならCT検査の正当性があるといえよう。同研究では両検査の予後予測能の比較も行っている。FFRCTでは、陽性と陰性で心臓死・非致死的心筋梗塞の発生率(図2左上)および主要有害心事象(MACE : major adverse cardiac event)発生率(図2左下)に差はなかった。それに対し、心筋SPECTの陽性と陰性で比較した結果では、心臓死・非致死的心筋梗塞(図2右上)、MACE(図2右下)共に早期からイベント曲線に分離がみられ、陽性群(緑の線)の予後が明らかに悪かった。
Prognostic Value of Computed Tomography-Derived Fractional Flow Reserve Comparison With Myocardial Perfusion Imaging Ahmed AI, et al. JACC Cardiovasc Imaging. 2022; 15(2): 284-295.
この結果を踏まえてか、ESCの最新(2024年)のCCSガイドラインでは、FFRCTは虚血の過大評価もありうることから推奨クラスⅡbとされている7)。
前述のように、ESCでPTP5~50%のCCS患者への冠動脈CTAが強く推奨されるようになった根拠の一つにSCOT-HEART試験がある9)。同試験では、安定冠動脈疾患が疑われる患者に対し、標準的な検査に冠動脈CTAを追加することで、より積極的な至適薬物治療(OMT : optimal medical therapy)が行われたと報告されており、これが予後改善に寄与したと考えられている。こうした知見を踏まえれば、低~中等度リスクの患者にはまず冠動脈CTAを施行し、有意狭窄はないがプラーク等が検出された場合には速やかにOMTを開始し、狭窄病変があれば機能的虚血の有無を確認するというストラテジーは理にかなうと思われる。
では、実際に冠動脈CTAで狭窄を認めた場合、どのように虚血を評価するべきか。FFRCTも選択肢であるが、前述の報告8)が示すように、予後悪化に関連する虚血を確実に検出するためには心筋SPECTが望ましい。
自験例を示す(図3)。冠動脈CTAでLAD(左前下行枝)と対角枝に高度狭窄を認め、虚血の有無を確認するために心筋SPECTを施行した。LAD領域および対角枝領域に明らかな虚血所見が存在する(図3左 緑の領域)。

【図3】
このように冠動脈CTAで狭窄を検出し、心筋SPECTで虚血が確認されれば躊躇なく血行再建を行うことができる。
本講演のTake home messageを示す(図4)。冠動脈CTAをゲートキーパーとして施行することは今の時代において正しい考えといえよう。冠動脈CTAによる解剖学的評価に続いて行う虚血評価には、心筋SPECTが優れたモダリティであると考える。

【図4】