特発性正常圧水頭症と進行性核上性麻痺の併存例 MMSE 27点 歩行障害 もの忘れ特発性正常圧水頭症と進行性核上性麻痺の併存例 MMSE 27点 歩行障害 もの忘れ

 

「警告・禁忌を含む使用上の注意」等については添付文書を参照ください。
紹介した症例は臨床症例の一部を紹介したもので、全ての症例が同様な結果を示すわけではありません。
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本コンテンツで使用している画像提供元:岐阜大学

特発性正常圧水頭症と進行性核上性麻痺の併存例

診断病名 特発性正常圧水頭症と進行性核上性麻痺の併存  年齢 70歳台   性別 男性 

  • 主 訴
  • 歩行障害
  • 既往歴・併存症
  • 糖尿病、高血圧
  • 家 族 歴
  • 類症なし、血族婚なし
  • 現 病 歴
  •    
  • X 年:
  • 歩行が遅くなり、小刻みになって歩きにくくなった。
  • X + 2 年:
  • 夜間頻尿で数回目が覚めるようになった。また、何もないところでバランスを崩して転倒してしまうようになった。
  • X + 3 年:
  • 日常生活は問題ないが、少し前に話した内容を思い出せない等のもの忘れが気になるようになった。
  • X + 5 年:
  • 精査目的で入院した。
  • 常 用 薬
  • メトホルミン1500mg、インスリングルリジン10-8-6-0単位、インスリングラルギン0-0-0-12単位、カンデサルタン8mg

神経学的所見
認知機能:MMSE 27/30点(3単語の遅延再生-3)、HDS-R 26/30点(3単語の遅延再生-4)、FAB 14/18点
脳神経:垂直方向の核上性眼球運動制限あり、運動系:運動緩慢あり、筋トーヌス:頸部・体幹に限局した固縮あり、不随意運動:安静時振戦なし、感覚:正常、立位・歩行:ロンベルグ徴候陰性、前傾姿勢で小刻み歩行・開脚歩行、継ぎ足歩行不可。方向転換ですくみ足は認めない。姿勢保持障害あり(pull testで易転倒性あり)

Timed up and go test(TUG):23秒(歩数:30歩)

※ TUG:椅子に坐位でいる状態から3 m先の指標を回り、再度椅子まで戻ってきて坐位となるまでの時間を計測する試験

臨床経過・神経所見より・垂直方向の核上性眼球運動制限を有し、発症3年以内の転倒傾向やすくみ足が出現している点は、進行性核上性麻痺(progressive supranuclear palsy:PSP)を示唆している。MDS-PSP基準1)ではPSPとして典型的なprobable PSP-RSに該当する。・5年の経過で杖歩行を維持できている点はPSPとしてはやや進行が遅いが、10年以上の長期生存例(long-duration PSP)は稀ではなく、「3年以内の眼球運動障害」が有意に少ないとの報告がある(本症例では不明)・やや非典型的な点は、開脚歩行を呈していた。

1) Clinical diagnosis of progressive supranuclear palsy: The movement disorder society criteria. Mov Disord. Jun 2017;32(6):853-864.

画像検査 123I-IMP脳血流SPECT/MRI

123I-IMP脳血流SPECT/MRI画像

画像検査 123I-IMP脳血流SPECT 3D-SSP/Two-tail view

123I-IMP脳血流SPECT 3D-SSP/Two-tail view画像

画像検査 123I-IMP脳血流SPECT 3D-SSP

123I-IMP脳血流SPECT 3D-SSP画像

画像検査 123I-ioflupane SPECT

123I-ioflupane SPECT検査画像

 

自験例MRI画像

 

SPECT所見を踏まえた鑑別結果 MRI 脳血流シンチ123I-IMP ドパミントランスポーターシンチ

 

画像所見より
・MRIでは脳室拡大、シルビウス裂の開大、高位円蓋部の脳溝の狭小化を認め、これは典型的な特発性正常圧水頭症(idiopathic normal pressure hydrocephalus:iNPH)のDESH所見である。・脳血流シンチではMRIのDESH所見と矛盾しない、脳室周囲・シルビウス裂での集積低下ならびに高位円蓋部の血流上昇(CAPPAH sign)を認める。また、iNPH以外のその他の併存症を疑う所見はなかった。・ドパミントランスポーターシンチではバックグラウンドの相対的な集積亢進が目立ち、線条体全体の集積低下が示唆された。

脳脊髄液検査(タップテスト)

    • 一般検査
    • 初圧
    • 色調・性状
    • 細胞数
    •  単核球
    •  多核球
    • 一般検査
    • 16
    • 無色透明
    • 1
    • 100
    • 0
    •   
    •   cmH20
    •  
    •   /μL
    •   %
    •   %
  •  

    • 生化学
    • 蛋白
    • リン酸化タウ
    • アミロイドβ1-42
    •  
    • 42
    • <25
    • 426
    •   
    •   pg/mL
    •   pg/mL
    •   pg/mL

 

  • 時間
  • タップテスト前
  • タップテスト2日後
  • タップテスト7日後
  • TUG
  • 23秒
  • 15秒
  • 13秒

L-Pシャント術後の経過

L-Pシャント術後の経過

タップテストとL-Pシャント術の経過
・脳脊髄液検査ではアルツハイマー型認知症で認めるようなリン酸化タウの上昇は認めず、アミロイドβ1ー42の明らかな低下は認めなかった。・神経学的所見ではPSPを考えるが画像上は典型的なiNPHの所見を認め、タップテストを施行した。・タップテストでTUGは明らかに改善しiNPHと診断のうえ、L-Pシャント術が施行された。・入院2週間目でTUGは8.2秒とさらに改善した。術後の2年の経過はごく軽度の歩行障害の増加はあるものの概ね落ち着いている。

まとめ

本症例はiNPHとPSPの併存と考え、フォローアップしている。iNPHにおいて脳血流シンチやドパミントランスポーターシンチは臨床症状やMRI画像と矛盾のない所見か評価するため、その他の併存症が無いかを確認するために重要である。画像検査からiNPH様の所見を呈する場合、臨床的にPSPと考えられる場合でも必要に応じてタップテストを施行することが重要である。併存症の診断はタップテストで改善があっても、シャント術後に併存症による症状が進行する可能性があることを患者・家族に説明することに役立つ。