日本メジフィジックス 医療関係者専用情報

ポケットマニュアル TOPへ

心筋SPECT製剤

TI

・Tlは歴史的に長く心筋血流検査に用いられており、虚血の検出や心筋生存能(心筋viability)の評価に優れている。

・再分布現象があるため、1回の投与で負荷時と安静時の画像が得られ、正常と虚血と梗塞の鑑別が可能である。

Tlの再分布現象について( 図1

・負荷時像において、冠動脈狭窄領域では冠血流が充分に増加しないため、Tlの心筋摂取量も正常領域と虚血領域で差を生じる。

・時間経過とともにTlは徐々に心筋から洗い出される(wash out)が、冠動脈狭窄領域では洗い出しが低下するため、後期像(再分布像)では正常領域と虚血領域の心筋内Tl濃度に差がなくなる。

→この現象を「再分布」といい、虚血心筋の存在を意味する。

図1Tlの心筋動態の経時的変化
図1 Tlの心筋動態の経時的変化

Tc標識製剤(TF、MIBI)

・Tc標識製剤は半減期が短く、大量投与が可能であるため、Tlより高画質であり、心電図同期解析にも適している。

・再分布現象はほとんどないため、負荷時と安静時で2回の投与が必要である( 図2

図2Tc標識製剤の心筋動態の経時的変化(負荷先行の場合)

図2 Tc標識製剤の心筋動態の経時的変化(負荷先行の場合)

心筋血流製剤(Tl、Tc標識製剤)の特徴の比較

 

Tl

TF

MIBI

物理的半減期

73時間

6時間

6時間

放射線エネルギー

低い
70〜80KeV

好適
140KeV

好適
140KeV

性  状

水溶性

脂溶性

脂溶性

剤  形

注射液

注射液
キット(室温、15分)

注射液
キット(100℃、15分)

集積機序

能動輸送

受動拡散

受動拡散

心筋抽出率

85%

55%

67%

心筋摂取率

4%

1.5%

1.5%

再分布現象

あり

ほとんどなし

ほとんどなし

投与量

74〜111MBq

185〜740MBq

370〜740MBq

撮像開始までの時間

5〜10分以内

15分以降

30分以降

食事制限

必要

不要

不要

各製剤を用いた検査の特徴

 

Tl

Tc(TF、MIBI)

薬剤投与回数

1回投与で、負荷時・再分布時の
撮像可能

負荷時・安静時の2回投与が必要

プロトコル

負荷先行プロトコルのみの評価

施設状況に合わせて、
負荷先行/安静先行プロトコルが選択可能

投与量

大量投与ができない

大量投与が可能

収集時間

収集に時間がかかる

短時間収集が可能

心電図同期

心電図同期解析の精度はやや低い

心電図同期解析に最適

画  質

Tcに比べて画質が悪い

Tlに比べて画質が良好

食事制限

食事の影響を受ける
検査時は絶食

食事の影響を受けない
待ち時間に食事が可能

その他の特徴

WORの測定は、多枝病変の評価に
有用である

TIDにより、多枝病変の評価が可能
日本人の核医学エビデンスあり

WOR(wash out rate:心筋洗い出し率)

・運動負荷Tl検査で利用される心筋からの洗い出し率。

(負荷後像カウント)-(再分布像カウント) ×100(%)
(負荷後像カウント)

・3枝病変の診断に有用であり、正常部位では40〜50%程度、心筋虚血部位では低下し、
40%以下を異常値とすることが多い。


TID(transient ischemic dilatation:負荷時一過性虚血性内腔拡大)(図3

・心筋虚血の誘発により左室には気絶心筋を伴う壁運動異常が発生し容積は拡大する。

・3枝狭窄やLMT狭窄のような重症病変ではTIDが高値となる。

・TIDが正常範囲でも重症冠動脈病変は否定しきれない。

・TIDは負荷〜撮像までの時間や再構成条件によって変化する。

・TIDは報告書に記載すべき数値である。

TIDの異常の目安

運動負荷Tl検査

1.26以上

運動負荷Tc検査(1日法)

1.20以上

安静Tl/運動負荷Tc 2核種検査

1.22以上

安静Tl/薬剤負荷Tc 2核種検査

1.35以上

図3TIDが異常の例

負荷時

安静時

TID=1.8
LAD領域である前中隔に軽度の虚血を認めるのみであるが、
CAGではLMT病変であった。

負荷時

安静時

BMIPP(心筋脂肪酸代謝障害の検出)

・健常心筋では脂肪酸代謝が主なエネルギー源であるが、虚血心筋では脂肪酸代謝が抑制され、糖代謝が主なエネルギー源となる。

・脂肪酸代謝は虚血により容易に障害され、虚血が回復してもしばらく抑制されているため、脂肪酸代謝イメージング製剤であるBMIPPを用いて、虚血の早期診断やメモリーイメージが評価できる。

・心筋血流製剤との2核種同時撮影の集積乖離所見(ミスマッチ)も種々の病態把握に有用である。( 図4図1

図4気絶心筋と壊死心筋

A.気絶心筋

(ミスマッチあり)

TI BMIPP TI BMIPP
  TI BMIPP

B.壊死心筋

(ミスマッチなし)

TI BMIPP TI BMIPP

A:前壁中隔から心尖部領域に集積低下→ミスマッチあり

B:下後壁から側壁に集積欠損→ミスマッチなし

表1 主なミスマッチのパターン

 

安静時BMIPP

安静時Tl

負荷時Tl

正常心筋

正常集積

正常集積

正常集積

虚血心筋

正常or低下

正常集積

集積低下

気絶心筋

集積低下

正常集積

正常or低下

冬眠心筋

集積低下

正常or低下

集積低下

梗塞心筋

高度集積低下

高度集積低下

高度集積低下

     :ミスマッチの頻度が高い

MIBG(心臓交感神経機能障害の検出)

・MIBGを用いた心臓交感神経イメージングは心不全の重症度と予後評価、心不全の治療効果の評価に用いられている。

・MIBGの臨床的な評価法( 図5
H/M比 : 心臓交感神経の分布・密度およびノルエピネフリンの取り込み能を反映する。
WR(WOR) : 心臓交感神経活性の亢進の度合いを反映する。

図5H/M比とWR(WOR)(日本心臓核医学会ホームページより)

1)H/M比

【心筋カウント】÷【上縦隔カウント】

交感神経の分布、密度、ノルエピネフリンの取り込み能を反映

2)WR(WOR)

【初期像カウント】-【後期像カウント】 ×100(%)
【初期像カウント】

交感神経活性の亢進を反映

・心臓交感神経機能が障害されると、H/M比は低下し、WR(WOR)は高くなるが、H/M比やWR(WOR)の基準値は施設により異なるため、得られた値の解釈には注意を要する。

PYP(心筋梗塞巣の検出)

・PYPは壊死心筋を陽性描出する製剤である。

・AMI発症後12時間後より陽性になり、48〜72時間で集積ピーク、1〜2週間後には陰性化する。

・以前はAMIの診断にPYPの梗塞イメージングが用いられていたが、最近は心筋灌流と心機能を同時に評価できるソフトウェアや血清マーカーの普及により、使用頻度は減少している。

・原発性あるいは家族性アミロイドーシスに合併する心アミロイドーシスにおいて、PYPは高頻度に陽性所見を認めるなど有用性が報告されている。

心臓核医学に用いられる放射性医薬品の被ばく線量

心臓核医学に用いられる放射性医薬品の被ばく線量は、Tlと比べてTc製剤の方が少なく、近年、欧米では患者さんの医療被ばくを考慮するとTc血流製剤の方が望ましいと考えられている( 図5 )。

表2 心臓核医学に用いられる放射性医薬品の実効線量

核種

投与量

実効線量

Tl(負荷・再分布)

111MBq

24mSv

Tc(負荷・安静)

1,000MBq

8〜9mSv

BMIPP

111MBq

2.8mSv

MIBG

111MBq

1.4mSv