若年発症アルツハイマー型認知症が疑われた症例

症例 50歳台後半 女性

 掲載にあたり患者本人と家族から同意を得ている。また個人が特定されることのないよう、内容を一部改変している。

              

症例背景

生活歴 短大卒、銀行員を経て24歳で結婚、3子あり。事務やスーパーのパートでX-2年まで稼働。
既往歴 急性肝炎(16歳)、右手骨折(X-2年)
合併症 なし
家族歴 認知症・神経疾患なし、兄がうつ病で入院中
現病歴
数年前から年齢以上のもの忘れを家族は感じていた。
X-2年 : 骨折を機にパートをやめてから、もの忘れが顕在化してきた。
X-1年 : 話がかみ合わない、同じことを何度も聞く、しまい忘れ、もの探し、重ね買い。しゃぶしゃぶをするのにフライパンを出してくる。
X年 : もの忘れはさらに進行。メニューが単純化して冷凍食品が多くなる、料理の味付けが一定しない。毎日ソーセージを買ってくる、レジでは小銭を使わない。TVはメモをとりながら見ている。電話勧誘で高額なサプリを契約するが覚えていない。実家に行くのに地図がないとたどり着けない。街中で同級生と待ち合わせをして迷う。 他院を受診。MMSE:20、アルツハイマー型認知症を疑われ、当科を紹介され受診。
初診時診察 初診時は、忘れっぽくなったという自覚はあるが深刻味はない。質問のたびに同伴した家族の方を向く。最近のニュースは陳述できず、キーワードを出しても答えられない。明らかな抑うつはなく、意識は清明である。気分障害エピソード、レム睡眠行動障害、嗅覚低下のいずれもなし。一般内科学的診察に異常なし。
検査所見 血液検査(血算、一般生化学、空腹時血糖、電解質、ビタミンB1・B12、葉酸、甲状腺機能、梅毒)は異常なし。
MMSE:17, HDS-R:16, RBMT:SPS6, SS2, BGT:14(5’30”), JART88(87/91)など、注意・近時記憶・遂行機能・構成>語想起・時間場所見当識の障害主体に中等度の認知障害を呈する。CDRは1。神経学的には特に所見なし。
  本例はX-2年から記憶障害が顕在化、以後認知機能障害、生活機能障害が進行性に経過、症状・経過から臨床的にはアルツハイマー型認知症を疑った。頭部MRI上脳血管障害は認めず、海馬領域、後部帯状回や楔前部に強調した萎縮はなく、年齢に比して軽微な大脳萎縮を認める。脳血流シンチでは左側優位に側頭頭頂連合野主体に血流低下がみられ、123I-ioflupane SPECTやMIBG心筋シンチには明らかな異常は認めず、若年発症のアルツハイマー型認知症としては矛盾のない神経画像所見を呈していた。
  臨床的にはアルツハイマー型認知症を支持しているが、若年発症例のため、診断の精度を高めるために、フルテメタモル(18F)(以下、FMM)を用いたアミロイドPET検査を施行した。前頭葉、側頭葉、頭頂葉、後部帯状回・楔前部、線条体すべてにFMMの集積を認め、アミロイド陽性と判断した。これにより本例はアルツハイマー病が認知症の主要な背景疾患であると判断した。

*MIBG効能効果外の内容を含みますが、使用を推奨するものではありません。

頭部MRI (X線)
頭部MRI画像

頭部MRIの視覚的評価では年齢に比して軽微な大脳萎縮がみられるが、海馬領域、後部帯状回や楔前部に強調された萎縮はない。

VSRAD advance2 (X年)
VRRAD advance2でのZスコア解析結果.png

VSRAD advance2でのVOI内萎縮度(Z-score)は1.57、全脳萎縮領域の割合は4.41%であった。

脳血流シンチ [99mTc-HMPAO/3D-SSP] (X年)
99mTc-HMPAO 3DSSP画像png
3D-SSPでは左側優位に頭頂連合野、前頭葉・側頭葉、後部帯状回・楔前部に血流低下を認める。
 
123 I-ioflupane SPECT [DaTView; 散乱補正あり、CTによる減弱補正あり] (X年)
123I-ioflupane SPECT DaTView解析結果.png

視覚的には尾状核、被殻とも123I-ioflupaneの集積は良好で、年齢別NDBとの比較ではSBRは正常範囲内で、平均値より若干低めとなっている。

 

3D-SSP及びDaTViewによる画像解析は株式会社AZEのAZE VirtualPlace隼を使用する事で実施可能です。

アミロイドPET (X年)

PET画像はGEヘルスケア社 Xeleris workstation上で表示し、カラースケールはrainbowを使用。Pons(橋)の集積が最高輝度の90%となるように表示条件を調整した上での、横断面と矢状断面を以下に提示する。

 

🔲横断面
前頭葉、側頭葉、頭頂葉、線条体にFMMの集積を認める。

 

アミロイドPET 横断面.png

 

🔲矢状断面
後部帯状回・楔前部、前頭葉にFMMの集積を認める。

 

アミロイドPET 矢状断面.png

 

参考 アミロイド陽性/陰性典型画像

FMMによるアミロイド陽性、陰性典型PET画像.png
FMMによるPET画像。 陰性画像(左)及び陽性画像(右)
(GEヘルスケア社、社内画像資料)
若年性アルツハイマー型認知症におけるアミロイドPETについて

収集条件

肘静脈よりボーラス投与後90分間の安静の後、収集開始。
撮像に使用したPET装置は島津製作所製Eminence-B。
セシウム線源を用いて約6分のトランスミッション用収集後、3Dモードで30分のstatic収集を行った。再構成はOSEM、条件はsubset16、iteration5。再構成後、Post-filterとして3D Gaussian 4mmを適応し、画像マトリックスは128×128、スライス厚は3.25mmでPET画像を作成した。

若年性アルツハイマー型認知症におけるアミロイドPETについて

 

  • 臨床症状と従来の神経画像検査に基づくアルツハイマー病の臨床診断は間接的・除外的であり、その精度は、十分経過観察を行った症例でも剖検病理診断との対比では80%程度1)、早期の症例や観察期間の短い症例では更に診断精度が下がることが知られている。FMMを用いたアミロイドPET検査はアミロイドβの脳内沈着の有無を直接判定することができる2)3)
  • 若年性アルツハイマー型認知症は、認知症としては発症年齢が非典型的で稀な疾患である。そのため、診断を行うにあたっては脳血管障害など想定されうる疾患を、MRIなどの画像診断を使って除外しながら絞り込んでいくが、診断が困難な場合も少なくない。このような場合、出来るだけ早期に若年性アルツハイマー病と診断する精度を上げるためにはFMMを用いたアミロイドPET検査は有用な方法である4)
  • 若年性アルツハイマー型認知症は発症年齢が非典型的(65歳未満の発症)であり、病初期にはうつ状態やストレスなどの背景が疑われることも多く、診断が困難であり、また、回復への期待も相まって、診断に至るまでに長い観察期間を要し、不必要な検査や不適切な治療が繰り返される可能性がある。また、その間に退職などを余儀なくされるなど社会的影響も大きく、さらに進行が急速なことも多い。そのため、その医学的影響や社会的影響を考えると、早期に正確な診断を得る意義が大きい。
  • FMMを用いたアミロイドPET検査は今後一般医療機関において診療に利用されていく可能性があり、アルツハイマー病の診断、アルツハイマー病の除外、アルツハイマー病理の合併など、認知症の背景疾患をより正確に把握できることが期待され、治療戦略にも寄与するものと期待される。

アルツハイマー病・・・・・アミロイドイメージング等のバイオマーカーを含む病理組織学的診断によって確定する病理学的状態を指す。
アルツハイマー型認知症・・・・・アルツハイマー病の病理学的変化を背景として、臨床的に認知症を発症した状態を指す。

1) Cure S et al. J Alzheimers Dis. 2014;42(1):169-82
2) Leinonen V et al. Acta neuropathol Commun 2014;2:46
3) Ikonomovic MD et al. Acta Neuropathol Commun 2016;4(1):130
4) Zwan et al. Alzheimer's Research & Therapy,2017;9:2