Optimal PCIのための負荷心筋血流シンチグラフィ 読影の極意 心筋シンチグラフィの情報を残さず読み取るには

監修 新古賀病院副院長心臓血管センター長 川ア友裕 先生
金沢大学附属病院核医学診療科臨床教授 滝 淳一 先生

紹介した症例は臨床症例の一部を紹介したもので、全ての症例が同様な結果を示すわけではありません。

冠動脈CTでは3枝病変が疑われたが、心筋SPECTでは1枝病変と評価された症例

症例 70歳代、女性(身長:159cm、体重:57kg)
主  訴 軽労作時の胸部圧迫感
冠危険因子 糖尿病、高血圧症、脂質異常症
腎 機 能 Cr 0.64mg/dL、eGFR 77mL/分
心 電 図 洞調律、ST-T変化なし、不整脈なし
現 病 歴 50歳より糖尿病で近医にて経過観察中。HbA1c 9.0%とコントロール不良。
2年前から歩行等の軽労作で胸部圧迫感を自覚していたが、徐々に症状が増悪してきたため、今回紹介受診となった。
心臓CTでは3枝病変が疑われ、虚血の評価目的で心筋血流シンチグラフィ(201TlCI、エルゴメータ負荷。目標心拍数到達により負荷終了)を行った。
冠動脈CT

RCA#3、LCX#13、LAD#8にびまん性の高度狭窄を認め
(#6-#7は高度石灰化で評価不可)、3枝病変と評価した。

心筋SPECT

普段から心筋SPECT画像の評価は、心筋全体を評価しやすいPolar map画像で行っている。

心筋SPECTではLCX領域の虚血を捉えているが、前壁領域や下後壁には虚血を認めない。
CTとのfusion画像で確認したところ、やはりLCXのみの虚血と判断した。

CAG

RCA #3:75% tandem
LAD #6:25%、#7:75%、#8:75%
LCX #11:50%、#13:90%、#14:90% を認めた。
さらにFFR値の評価ではいずれも有意であり、機能的3枝病変と診断した。

まとめ

心臓CTによる形態評価が全盛となってきた中、患者の予後に影響する心筋虚血の評価は重要である。

心筋虚血の評価における負荷心筋SPECTの安全性や有効性は確立され、さらに心臓CTとのfusion画像を利用することで、病変枝ごとに視覚的に虚血の判定を容易にし、その診断精度も向上する。
しかし基本的には相対的表示であるため、本症例のような多枝病変例では偽陰性となる病変枝があることも知られているが、FFR値の測定ではより虚血重症度の高い病変枝が明示されていることも明らかとなり1)、治療の優先順位の一助となる。

本症例では、LCXのFFR値が最も低値であったことから、負荷心筋SPECTでとらえた虚血は3枝の中で最も強い虚血を捉えているといえる。

本症例のように腎機能の軽度低下がある場合、3枝を一度に治療することは造影剤使用量などの点からはなるべく回避することが望ましく、心筋SPECTを利用したfusion画像により最も優先して治療を行うべき病変を同定できた意義は大きい。

1)Kawasaki T. J Am Coll Cardiol. 2013; 61 (Supplement A): A438

  • ● まずSPECT全体像をながめ、運動負荷時の集積低下と安静時の再分布またはfill-inを確認する。
  • ● 負荷時の一過性虚血性左室拡大(Transient ischemicdilatation:TID)の有無を確認する。
まず、ここを見る!
SPECT全体像 短軸像 水平長軸像 上段:Stress 下段:RD

側壁に限局性の中等から高度の集積低下を認め( ← )、安静時にほぼ完全な再分布を示している( ← )。
従って運動負荷により誘発された虚血が疑われ、心筋viabilityは良好に保たれている。

SPECT全体像 さらに、ここに注目!! TID所見

負荷時像の心内腔が安静時像に比べ大きく見える()。
短軸像、水平長軸像では集積低下に目がとられ、ややわかりにくいが、各断面を内腔の大きさに注目して見直すと、その差が見えてくる。
いわゆるTIDの所見であり、広汎な心内膜下虚血を示唆する所見である。

読影のポイント

  •  側壁をculprit lesionとする、重症多枝病変が疑われる症例である。
    この症例では側壁の虚血所見に加え、運動負荷時の左室内腔が、安静時の再分布像より大きく見える。
  •  短軸像、水平長軸像、垂直長軸像いずれにおいても心内腔は安静時像に比べ負荷時像で拡大している。
    これは負荷時の心内膜の血流増加不良による内腔拡大を反映した所見であり、一過性虚血性左室拡大(TID)と言われているものである。
    重症の多枝病変の可能性を示唆する重要な所見である。
  •  側壁を灌流するLCXをまずPCIのターゲットとし、血行再建後に再度負荷心筋SPECTを行えば次の虚血領域が示される可能性が強いと考えられる。
POINT

負荷心筋血流シンチグラフィでは負荷法として運動負荷薬剤負荷がある。

  •  運動負荷では運動により心筋酸素需要を増加させ、それに対応できない血流増加不良部(虚血を生じている)を検出する方法である。
  •  血管拡張薬による薬剤負荷では、冠血流を増加させ、冠動脈狭窄による相対的な心筋血流増加不良(虚血は通常喚起されず血流予備能の低下をあらわす)を検出する方法である。
  •  いずれも健常部との相対的なトレーサー分布の差として病変部を評価する。
    全く健常部がない場合は、虚血や血流予備能低下度の相対的な評価となる。
    従って最も虚血が強い部位、または血流予備能の低下している部位が検出されることが多い。
  •  また心筋全体が均等に虚血をおこすような状態では、いわゆる “balanced ischemia”となり、負荷時の相対的血流分布差が検出できないことがある。
    このような病態には広範な心内膜下虚血を生じる場合があり、負荷時像にて心内腔が拡大して見える TID現象として認識される。
    これは重症多枝病変における重要な所見であり注意して読影する必要がある。

画像所見の読み取り方

  • 注射漏れ等で生じるカウント低下による統計ノイズ及び撮像時のモーションアーチファクトの有無をみる。
    Planar像や、プロジェクション画像にて、重症左心機能低下を反映する肺野のカウント上昇の有無も確認する(特に 201TlClの場合有効)。
    また肝、胆嚢、心臓周囲の高カウント部によるアーチファクトの可能性を検討する。
  • 各断層像にて負荷時のトレーサー分布をみる。有意の集積低下部を認めた場合は、安静時像(再静注・再分布像)にて fill-inや再分布の有無を確認する。
    Polar map像は、最後に確認のため参考にすると良く、読み落しを防ぐ意味で役に立つ。
  • 重症多枝病変における広範な心内膜下虚血、または血流増加不良による内腔拡大を反映したTIDの所見は、各断層像全体を良く観察しその有無を判定することが重要である。
    QGSなどで算出される容積データによる TID指標の参照も有効である。
    心電図同期が負荷・安静時ともに行われていれば、負荷後の心機能と安静時の心機能との比較により左心全体と局所の機能予備能や “post ischemic stunning”も評価することができる。