読影道場2

読影道場2

紹介した症例は臨床症例の一部を紹介したもので、全ての症例が同様な結果を示すわけではありません。

 

*紹介した症例は、2016年7月に京都で開催されたセミナー「読影道場」で使用されたものです。

 

診断に迷う症例における心筋血流シンチグラフィの読影:読みすぎ?バイアスをかけて評価する
患者背景
70歳代男性。 主訴は労作時の息切れ。 狭心痛なし、冠動脈に石灰化あり。
冠危険因子:高血圧
安静時心電図:正常 負荷時心電図:ST低下なし
ドブタミン負荷心エコー図(DSE):前側壁にPost-systolic shortening(PSS)を認めるがボーダーラインの所見

 

SPECT結果:薬剤負荷Tetrofosmin

TID(負荷時一過性虚血性内腔拡大)が認められるが、負荷時に明らかな集積低下部位は認められない。安静時には下壁に集積低下を認め、一見逆再分布のような所見を認める。

 

 

QGS画像:収縮末期 安静時と負荷時

 

負荷時LVEF:56%
安静時LVEF:60%

左室のEFは保たれているが、見かけ上 収縮能の低下が認められる。

 

読影のポイント SPECT画像 負荷時 安静時

心筋SPECT画像では、CTなどによる補正を実施しない場合、通常は吸収の影響によるエネルギーの減弱により、下壁は若干集積が低下したような画像が得られる(安静時参照)。しかし本症例では、負荷時の画像(上段)において下壁の集積低下は明瞭ではなく、心筋全体で均一な集積となっている。このため、相対評価であるSPECT画像の特徴として、下壁以外の領域において虚血が存在し、心筋全体の集積にコントラストが付いていない可能性がある(イメージ図参照)。TID所見もある事から、LCA領域に虚血がある可能性を疑い、他検査による精査を勧める読影レポートを作成した。

 

 

実際の読影レポートのコメント

明かなperfusion defectは認めませんが、TID(負荷後の左室内腔の拡大)が認められる点、下壁の集積が安静時に低下(横隔膜アーチファクトと考えられます)して見えるにもかかわらず、負荷後には下壁の集積が正常に見える点(前壁の集積が低下したために相対的な均一なperfusionとなって見えている可能性)からは左前下行枝の虚血があるかもしれないと考えられます。DSEの結果も併せて考えるとCAG(FFR)を行って評価することが望ましいと考えられます。

冠動脈造影 FFR画像

冠動脈造影を行った結果、LCxは異常所見はなかったものの灌流領域は非常に小さく、LADにおいてLCxに相当する様な対角枝が存在し、その手前に75%狭窄があった(黄色矢印)。
FFRの測定値は、LADにおいてdistal 0.59、mid 0.67となり明らかに有意な低下を認めた。 RCAには病変部位は認められず、本症例はLADの1枝病変と判断された。

 

 

まとめ

本症例の負荷時のSPECT結果は、一見すると正常に見え虚血は認められないが、患者背景(息切れ、石灰化、高血圧)からバイアスをかけて画像を見直すと、通常の画像とは異なる点に気付く。TIDの所見やDSEの結果も考慮すると、本症例にはLAD領域に虚血が存在する可能性が疑われた。実際にFFRを実施した結果、LADに有意な低下が認められた。 疾患の見落としを防ぐためには、画像所見に加えて患者情報や他の検査結果を含めて総合的に判断し、必要に応じて更に検査を加えて精査する事が必要である。