読影道場4

読影道場4

*紹介した症例は臨床症例の一部を紹介したもので、全ての症例が同様な結果を示すわけではありません。

 

*紹介した症例は、2017年7月に京都で開催されたセミナー「読影道場」で使用されたものです。

 

多枝病変における心筋血流シンチグラフィの読影 ~バイパス術後症例の特徴を捉える~
患者背景
70歳代 男性。胃癌術前の心精査目的にて紹介受診。手術で全身麻酔を施行するにあたり、虚血範囲の確認と心筋バイアビリティ評価の目的で、99mTc-tetrofosminによるアデノシン負荷心筋血流SPECT検査を実施した。

 

(既 往 歴)
  • 5年前に不安定狭心症で緊急搬送され、右冠動脈に高度狭窄を伴う三枝病変を認め、冠動脈バイパス術(LITA-LAD #8、SVG-LCX #14、GEA-RCA 4PD) が施行された。
  • バイパス術後6か月(4.5年前)の血管造影検査ではバイパスは良好に開存されていた。
(冠危険因子)
  • 糖尿病(HbA1c 7.6%)、高血圧、脂質異常症(スタチン内服中 LDL-cholesterol 76mg/dL)

 

冠動脈CT画像

バイパス術後3年目(現在から2年前)に冠動脈CTを実施した。三枝とも末梢まで血管が描出されバイパスの開存が確認されていた。

 

 

アデノシン負荷心筋血流SPECT

負荷、安静ともに短軸像(SA)、および長軸像(VLA&HLA)で心尖部の血流は保たれている。また負荷短軸像の心基部スライスの集積は保たれているが、心中部の前壁中隔(赤色矢印)で集積低下所見を認める。同部位に安静画像にてfill-inが認められた。

 

 

冠動脈CTと心筋血流SPECTの対比

 

冠動脈CTではLITA-LAD#8の吻合部より近位部側のLAD#7に狭窄を認めた(黄色矢印)。今回、SPECT検査で認められた虚血所見は、バイパス吻合部より近位部側のLAD領域(黄色リング)を反映する所見と考えられた。

 

 

今回のSPECT読影レポート 薬物負荷時に心中部の前壁および中隔のみに集積低下所見があり、安静時にはcomplete fill-in所見を認めます。心尖部には所見がないため、バイパス吻合部より近位部の病変による(比較的灌流域の狭い)虚血所見と判断します。軽度の虚血所見のため、全身麻酔による観血的処置は可能で、高リスクでは無いと判断します。
その後の経過 全身麻酔による胃全摘出術が施行された。術中、術後に血管拡張剤の点滴等の心臓に対する処置は施さなかったが、大きな合併症はなく、また心血管イベントも発症せず、経過良好にて退院した。遠隔期についても治療の変更をすることなく、現在も外来加療中である。

 

冠動脈バイパス術を受けた患者の読影の注意点

LAD#7の狭窄病変例
① 虚血性心疾患では、心筋SPECTの異常領域が冠動脈の走行に一致する。病変部を心筋SPECT画像から推定する際は、短軸像、長軸像における冠動脈支配領域との関連性を考慮して読影をすることが基本となる。通常の冠動脈走行は、心基部側で集積低下を認めた場合、常にその遠位側の集積低下を伴う(右図参照)。
② 本症例のような冠動脈バイパス術後では、グラフトの吻合部から末梢の血流が保たれているため、心尖部の心筋集積は保持され、 心尖部にも集積低下を認める近位部のみに異常が認められることがある。冠動脈バイパス術後の心筋SPECT読影に関してはグラフトの吻合部を考慮して評価することを薦める。
参考1 灌流域を見極める ~融合画像の活用~
LADの末梢♯7~8や、分枝(対角枝)♯9などの虚血所見では、灌流域は限定されるものの、遠位側の集積低下所見は認められる。
右図は冠動脈CTにて、LAD♯7と対角枝♯9の両方に狭窄(水色矢印)が認められた症例である。そこで、負荷心筋血流SPECT画像とのフュージョン画像を作成した(Heart Risk View-S使用)。
本例は♯9のみの軽度虚血であったので、OMT(至適薬物療法)で経過観察となった。 バイパス術後の症例で、腎機能の兼ね合いからCT撮像が困難な場合は、冠動脈及びバイパス走行と虚血領域を照らし合わせ、読影をする必要があり、読影の技術と経験が必要となる。

 

冠動脈CTと負荷心筋血流SPECTとのフュージョン画像
参考2 冠動脈の走行に一致しない集積異常の際に意識する

日常診療にて、虚血性心疾患以外で冠動脈の走行に一致しない集積異常を認める事がある(左脚ブロック、心サルコイドーシス、二次性心筋症、拡張相肥大型心筋症など)。
集積低下部位と疾患を対比させ、場合によっては他のモダリティ所見を参考にして、読影しなければならない。また、ガンマカメラ特有(撮像条件や画像作成条件など)のアーチファクトや、患者要因によるアーチファクトを生じる時があるため、普段から個々の施設での正常画像を把握しておく必要がある。
日々、心臓核医学の画像に触れることで、読影力を磨いてスキルアップして頂きたいと思っている。