安定冠動脈疾患の診断・治療戦略 ~JCS・ESCガイドラインを踏まえて~
監修
山田 愼一郎 先生
北播磨総合医療センター 内科診療部長
先端医療センター低侵襲心臓血管治療部門センター長
ISCHEMIA試験1)において、安定冠動脈疾患患者に対する血行再建は薬物治療に対して優位性を示すことができなかった。このような状況において欧州心臓病学会、米国心臓病学会/米国心臓協会/関連学会、日本循環器学会の安定冠動脈疾患のガイドラインは見直しが行われた。
今回、「2022年 JCSガイドライン フォーカスアップデート版 安定冠動脈疾患の診断と治療」2)および2024年に改訂された
「2024 ESC Guidelines for the management of chronic coronary syndromes」3)をもとに日本の臨床病院で実践可能な安定冠動脈疾患の診断・治療ストラテジーについて考察した。
安定冠動脈疾患のガイドラインでは、閉塞性冠動脈疾患の検査前確率(PTP※1)や臨床的尤度(CL※2)に応じて、適切な検査モダリティを選択して診断することを推奨している。図1のように、JCSガイドライン2)では、PTPおよびCLが中等度(5%- 85%)の場合には冠動脈CTAによる冠動脈疾患(CAD)の除外診断を、比較的高いPTP(>85%)もしくはCAD 既往患者には負荷イメージングによるリスク評価を推奨している。
一方、ESCガイドライン3)では、閉塞性冠動脈疾患のCLが低~中等度(>5%-50%)の場合は冠動脈CTAによるルールアウト、中等度~高(15%- 85%)の場合は負荷検査による虚血診断とイベントリスクの推定を推奨している。
JCSおよびESCガイドラインにおける閉塞性冠動脈疾患のPTPまたはCLと推奨される検査モダリティの関係
両ガイドラインでは、PTPおよびCLの設定範囲に差はあるものの、冠動脈CTAと負荷検査の役割が異なることがわかる。

JCSガイドライン2)図4、ESCガイドライン3)Figure6から作表
ESCガイドライン3)における慢性冠症候群の初期管理の考え方を図2に示す。
閉塞性冠動脈疾患のCLが極めて高い場合は、血行再建を想定して侵襲的評価に進むことが妥当とされる。一方、CLが中等度から高い場合は、尤度に応じて冠動脈CTAまたは心筋血流SPECTなどの機能イメージングが推奨されている。
しかし、日本ではCT装置が広く普及しており4)、冠動脈CTAファーストの診断戦略が確立している。
冠動脈CTAは高リスク病変の検出やプラーク評価を用いた血行再建の計画に有用であるが、閉塞性病変が必ずしも虚血を伴うとは限らない。
ESCガイドライン3)では、左主幹部病変やLVEF低下例を除き、まず生活習慣改善と薬物治療(GDMT※3)を優先し、心筋血流SPECTなどによる非侵襲的虚血評価・リスク評価の後に、必要に応じて侵襲的評価を行うことを推奨している。
ESCガイドライン3)における慢性冠症候群の初期管理の考え方

Hachamovitchら5)は、心筋血流SPECTで虚血心筋量が中等度(10%以上)の場合、早期血行再建が予後を改善すると報告した。
しかし、同基準をもとに実施されたISCHEMIA試験1)では、中等度以上の虚血を有する患者においても、侵襲的治療は保存的治療に比べて死亡や心筋梗塞を抑制できなかった。
さらに、Millerら6)は、心筋血流SPECT施行例の解析から、早期血行再建の有効性を示す虚血TPD※4のカットオフ値が、2009~2014年では6.5%であったのに対し、2014~2021年では14%へ上昇したと報告している(図3)。
早期血行再建がイベント抑制効果を示す虚血TPDカットオフ値の研究時期による違い
The Relationship Between Quantitative Ischemia, Early Revascularization, and Major Adverse Cardiovascular Events
A Multicenter Study
Miller RJH, et al. JACC Adv 2025; 4: 101440. (一部改変)
主要評価項目
全死亡、心筋梗塞
登録症例数
40,449例
選択基準
REFINE SPECTレジストリに参加した12施設(米国、カナダ、イタリア、イスラエル、スイス)において、 SPECTを受けた既知の冠動脈疾患またはその疑い患者
追跡期間
中央値3.5年

薬物治療の進歩により早期血行再建が予後改善を示す虚血心筋量のカットオフ値は高くなったと推察される(図4)。
ISCHEMIA試験1)においても積極的な薬物治療の厳格な順守が、薬物治療に対して早期血行再建が予後を改善できなかった一因と推察されている。
薬物治療とイベントリスクの変化(概念図)
中等度虚血の場合、以前の薬物治療より血行再建のイベントリスクが低かったが、薬物治療が進歩して、血行再建より薬物治療のほうがイベントリスクが低くなった。
しかし、高度虚血の場合は薬物治療のイベントリスクが高くなり、血行再建のほうがイベントリスクが低くなる。

薬物治療の進歩により、FFR≦0.80や心筋血流SPECTの虚血心筋量≧10%を基準に血行再建を行う従来の考え方は、再検討が必要と考えられる。
Hanら7)は、同程度のTPDでも糖尿病患者は非糖尿病患者よりMACEリスクが高いことを示した。
またLopesら8)は、ISCHEMIA試験のサブ解析で、心不全既往またはLVEF35~45%の患者において保存的治療戦略群よりも侵襲的治療戦略群のイベントが有意に少ないことを報告している(図5)。
心不全既往または左室機能障害のある患者における治療戦略と予後

Initial Invasive Versus Conservative Management of Stable Ischemic Heart Disease in Patients With a History of Heart Failure or Left Ventricular Dysfunction Insights From the ISCHEMIA Trial
Lopes RD, et al. Circulation 2020; 142: 1725‒1735.(一部改変)
主要評価項目
心血管死亡、非致死性心筋梗塞、蘇生された心停止、不安定狭心症による入院、心不全による入院の複合エンドポイント
登録症例数
5,179 例(うち解析対象数398 例)
選択基準
ISCHEMIA試験に登録された患者(慢性虚血性心疾患、非侵襲的負荷検査における中等度以上の心筋虚血、運動負荷心電図による高度虚血)のうち、心不全の既往またはLVEF35-44%の患者
除外基準
左主幹部病変(50%以上の狭窄)、CCTAにより確認された非閉塞性冠動脈病変、eGFR30mL/min未満、登録2か月以内の心筋梗塞、LVEF35%未満、NYHA心機能分類ⅢまたはⅣ、至適薬物治療下でも許容できない狭心症症状、登録1年以内のPCIまたはCABG
追跡期間
中央値3.2年
さらに福本ら9)は、心電図同期心筋血流SPECTによる位相解析で算出した負荷時entropyが高いほど、主要心イベントのリスクが増加することを示した。
このように虚血心筋量が同じでも、危険因子、LVEF、左室非同期などにより、イベントリスクは異なるので、総合的にリスク評価を行い、テーラーメイドな治療戦略を考えることが重要ではないだろうか?
北播磨総合医療センターは、北播磨地区および神戸市北区・西区において、循環器内科と心臓血管外科を常勤医による24時間体制で運用する唯一の施設である。
図6に示すように、2014年から2025年にかけて緊急PCIは77件から209件へと約3倍に増加した一方、待機的PCIに大きな変化はなく、2025年の待機的PCIの割合は47.1%であった。これに対し、2023年の全国データでは待機的PCIの割合は67.3%と報告されている10)。
当院では、安定冠動脈疾患患者に対し至適薬物治療を前提に非侵襲的画像検査でリスク層別化を行い、高リスク症例に限定して血行再建を実施しており、これが全国平均との差につながっている可能性がある。
北播磨総合医療センターにおけるPCI件数推移

ISCHEMIA試験1)の結果から、虚血の存在のみを根拠に血行再建を行う妥当性は低下している。冠動脈CTAは、ACS発症時に致命的となり得る左主幹部病変などの高リスク病変を検出できる。
一方、心筋血流SPECTは虚血情報だけでなく、バイアビリティ、瘢痕心筋、LVEF、左室同期不全を評価し、薬物治療のみではイベントリスクの高い患者を特定できる。
両者を活用し、侵襲的アプローチ(CAG、FFR/NHPRs、PCI/CABG)へ進むかを判断するテーラーメイドな治療戦略が求められる。
当院での自験例を紹介する。非典型的な労作性の息切れ症状があり、肺気腫の既往がある患者である。冠動脈CTAでLAD近位部および対角枝に高度狭窄を認めたため、心筋血流SPECTにより虚血評価を行った。
薬剤負荷心筋血流SPECT

冠動脈CTA/SPECT fusion画像(A:Stress B:Rest C:Reversibility D:Territory)

当院では冠動脈CTAと心筋血流SPECTを組み合わせたfusion画像も参考にしている。
Reversibility画像と冠動脈CTAのfusion画像(C)では、LADおよび対角枝を含めた領域に明確な再分布を認めた。ボロノイ法を用いたテリトリーマップ(D)から当該灌流領域の心筋量は全体の53%であることが示されたことから、高リスクな症例と判断した。
当該領域の血行再建を行い、労作時の息切れの症状は改善した。
このように、冠動脈CTAで狭窄を検出し、心筋血流SPECTで虚血が確認されれば、血行再建を積極的に検討できる。
