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これからの虚血評価を考える1

虚血評価の未来 ―FFRとCFR―

中村 それでは次のテーマ「これからの虚血評価を考える」に移りたいと思います。おそらく今後また診療報酬の何らかの改定が加わるのではないかと言われています。その改定を見据えた場合、これからの虚血評価をどのようにしていくべきかをまず横井先生から伺いましょうか。

横井 今の日本の医療の出来高払いを考えると、病院経営のためにやれる検査は全部やれ、みたいなことも現実に今までやってきたのかなと思います。ただ、日本の財政を考えると当然そういうわけにはいかない。だから、虚血評価が重要であることは間違いないですし、そうした部分について今年改定されたことは、本当に松本先生が言われるように画期的な第一歩だと思います。今度はどう適正に虚血評価を行っていくか、どのように行うことが費用対効果としてもよいのかを、われわれも臨床の現場で考えながら検査をやっていく必要があるのかなと思っております。

 

   福岡山王病院では、ハートフローFFRCT(以下 FFRCT)を昨年から研究の目的で使わせていただいていますが、個人的にはFFRCTはFFRの代わりにはなる気はしています。今まではCAGをやって、FFRを測って、それでPCIをするかどうか決めていましたが、カテ室に入れる前に判断できるので、診断のFFRはほとんどなくなったんですよね。また、CAGで正常と診断される頻度も60~70%減りました。ただ一方で、FFRというのはその病変の局所の虚血は分かるし、そこをPCIするかどうかという適応決定においてはいいんですけれど、患者全体の虚血の範囲は評価し切れない。

 

   うちの若い先生たちと話していると、心筋シンチは虚血評価だけではなく機能も分かるという話が出ています。また、最近CRT-Dの適応を決めるときにも、心筋シンチが非常に有用だということですよね。

 

   昨今、先生方の病院の循環器もそうだと思うのですが、入院患者さんに心不全の患者さんが多くなっています。心不全で入院してきた患者さんに、繰り返す心不全入院を減らすための虚血評価で、いきなり造影剤を使って冠動脈CTとはならない。そういうときに、虚血のみならず機能的な評価もできるというのが心筋シンチの強みですよね。FFRCTを使うようになった若い先生たちが「心筋シンチってちょっとまた違いますね」ということを言っておりました。今後、特に心不全のパンデミックな時代においては、CT、FFRCTとはまた別の流れとして、虚血評価もできて機能評価もできる心筋シンチが有用な患者さんも結構いるのかなと考えております。

中村 ありがとうございました。CT、FFRというモダリティが出て、おそらくゲートキーパーの上の段階でのCAGの件数自体は減ってくる可能性があるだろうという中で、心筋シンチは、機能評価を含めた違う面での有用性というのが明らかに差別化できるというご指摘でした。そうは言いつつも、われわれが今後考えていかなくてはいけないのは効率化という問題です。全ての検査をすればいろいろ分かっていいというのは間違いないですけど、それをどのように進めて行くのが最も効率的で、より費用対効果が高いかを確率論で明らかにしていくことが重要かなと思います。実際にそれぞれ今後を見据えて、松本先生、汲田先生からこの画像診断における将来像を少し教えていただけますでしょうか。

松本 近年導入が増えつつあります半導体カメラについてお話します。高感度ガンマカメラであり、被ばく量を低減させることができ、撮像時間をも併せて縮めることができます。もう一つは、コスト的なメリットです。アイソトープの使用量を減らして検査を多く行うことができますので、患者さん1人当たりのメディカルコストが減るというメリットがあります。心筋シンチは、FFRとは異なり冠血流予備能(CFR)を検出する検査であるということを強調しておきたいと思います。Heart Risk View-Sでも得られるような虚血心筋の大きさの指標とCFRの大小によって患者さんの予後がどのように分類されるかわかります13)。最も予後のよい患者さんというのは、虚血心筋がなくCFRがよい患者さんです。一方、虚血心筋が検出されていなくても、CFRが下がっている患者さんでは心事故が多くなります。また、FFRの大小とCFRによって患者さんの予後がどのように分類されるかについては、CFRが高いもしくは正常な患者さんにおいては、FFRの大小は患者さんの予後に大きな影響を与えていませんが、CFRが低い患者さんにおいては、FFRが正常であっても実はMACEが多くなるケースもあると言われています(図12)14)

 

図12 FFRとCFRのdiscordanceとMACEの関係

   

   実は、半導体カメラでDynamic SPECT検査を行いますと、本来PETでなければ求めることができなかったCFRを計算することができるようになりました。半導体SPECTによるこのCFRが有用なケースとして、カルシウムスコアが5,800、冠動脈CTで3枝に非常に多くの石灰化がある患者さんで、実は先ほどから問題になっているように、負荷心筋シンチでは正常と判断せざるを得ないというような結果でしたが、この患者さんにおけるCFRは左心室全体で1.46と極めて低い値でした。画像上では正常に見えても、CFRが低い患者さんは冠動脈疾患を持っているということになります。実際、この患者さんのCAGでは、LMT病変、RCA#3にも狭窄がありました。いわゆるmultivessel diseaseにおいて、従来の相対的な判断だけでは過小評価されていましたが、CFRを調べることによって異常を見逃す確率は低くなるということです。

 

 

13) Murthy VL, et al. Circulation. 2011; 124: 2215-2224.
14) van de Hoef TP, et al. Circ Cardiovasc Interv. 2014; 7: 301-311.