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安定冠動脈疾患における虚血評価の現状3

治療戦略における心筋シンチとFFRの役割

中村 図4は、虚血性心疾患の診断のフローを示した図です。検査前に冠動脈疾患の可能性が低度または中等度の患者さんをどのように振り分けるかですが、例えば腎臓が悪くて造影検査ができないような患者さんは、間違いなく心筋シンチにダイレクトに行くと思います。比較的若くて腎機能に問題がない場合には、日本は非常にCTが普及していますので冠動脈CTを用いられる先生が非常に多いのではないでしょうか。冠動脈CTで全く病変がなかった場合、これは陰性的中率が非常に高い検査ですので、間違いなく何もないと言えるため、薬物治療でOKということになります。一方、冠動脈CTで何らかの病変はあるが虚血があるかどうか分からないので心筋シンチで虚血を評価する。または冠動脈CTでダイレクトにAd hocで冠動脈造影を行うような場合には、FFRで評価する手順が日本の日常診療では行われていると思います。

 

図4 虚血性心疾患の診断・治療戦略

 

   しかし、FFRは表在の冠動脈の狭窄部位の虚血を評価するものであり、心筋の微小循環を含めて評価しているものではありません。両方を加味したものにCFRという指標がありますが、 CFRは予後予測に重要であることが示されています。そういうことを踏まえて実際に診断のプロセスがあるわけですが、上野先生、横井先生からは、こういったFFRを含めた機能的虚血評価の実際についてコメントをいただきたいと思います。

上野 最近はなるべく入院を短くしようという動きもあることから、冠動脈CTを行い、そして心筋シンチを行うのが一般的だろうと思います。ところが時間的な制約等があって、ダイレクトに入院してCAGという場合も出てくるんですね。そうなったときに、FFRを用いることが多くなってくるとは思いますが、心筋シンチとは見ているところが少し違う気がしています。FFRが見ているのは、今までわれわれが半定性的に言っていた冠動脈狭窄度を数字化しているような意味合いがあり、心筋シンチはその狭窄度がもたらすエリアの虚血の評価ということで、厳密に言うと少し違うものを見ているのではないでしょうか。先ほど松本先生からお話がありましたけれど、心筋シンチとFFRというのは上手に使わなければと思っています。

中村 確かに、FFRによる虚血が、LADで出やすくRCAやLCxで出にくいのは、灌流域の大きさもある程度影響していると言われていますが、むしろ狭窄度のほうがFFRの値に影響しているでしょうね。横井先生、いかがですか。

横井 私は今現場においては、初診とフォローアップで対応が異なると思っています。初診の方は胸部症状が典型的か非典型的かでまず見分けていて、非典型的な方で運動負荷ができる人は、運動負荷試験を行っています。冠動脈疾患を疑うリスク因子があって症状もある人は、腎機能が保たれていることを確認して冠動脈CTに回ることが多いですね。腎機能の悪い方はその時点で、外来レベルで心筋シンチを考えます。冠動脈CTの結果で50%以上の狭窄を一つの目安にして、50%以上の方は入院してもらう流れを取っています。入院してから、基本的にはCAGをやって、FFRも必要なケースには行います。また、入院中に心筋シンチを行う人もいます。高齢者が増えてきて、運動負荷試験がなかなかできない方も増えてきていますので、運動負荷試験ができず、腎機能が悪くて冠動脈CTも実施しにくい方には、やっぱり心筋シンチを選択したくなりますね。

 

   もう一つのフォローアップの方については、また後ほどディスカッションポイントになるかと思いますのでそこでお話しします。

中村 先生方のご意見をまとめると、日本では冠動脈CTが普及しているので、外来から予約を入れやすいというということで、比較的汎用されている。その結果CAGをやるべきか判断しづらい患者さんはおそらく心筋シンチを実施し、そのあとCAGをやるかどうかというステップを踏んでいる先生が多いのではないかと思います。

 

   それでは、次に心筋シンチを積極的に活用されている松本先生と、画像診断のスペシャリストである汲田先生から、心筋シンチを用いた心筋虚血評価についてご意見を伺いたいと思います。

松本 心筋シンチが有用なのは、図5で示している通り、患者さんの冠動脈疾患の検査前確率が中等度以上の患者さんと考えられます。つまり、患者さんの症状が典型的胸痛の場合、石灰化スコアが400以上の患者さんの場合などで、中等度以上のリスクがあると考えて心筋シンチを使っていくことが有用だと思います。また冠動脈CTで中等度の冠動脈 狭窄病変があった場合には、そこが機能的虚血を誘発するかどうかを、CAGに至る前であればやはり心筋シンチを使って証明していくことが重要だと思います。

 

図5 SPECT検査が有用なケース 検査前確立の推定が有用

 

   また、検査前確率が中等度以上であるが運動負荷が十分できないような患者さんには心筋シンチやドブタミン負荷エコーによる薬物負荷検査があり、これらは患者さんに非常に優しい検査と言えると思います。

汲田 まず非侵襲的な画像診断を考えた場合、やはり先ほど横井先生がおっしゃられたとおり、順番的には比較的安価で形態学的な評価ができる冠動脈CT、その次に心筋シンチという順番になりますよね。私たちは、冠動脈CTでmultivessel diseaseと判断した患者群に心筋シンチを行ってみたことがあります。両モダリティによる虚血評価がどのくらい合致するかを検討したんですけど、半分は合わなかったですね。mult ivessel diseaseの場合は狭窄度のみで虚血の責任血管を同定できません。予想しなかった側枝の虚血もありますし、狭窄の長さなども影響してきます。90%狭窄のところで出なくて70%狭窄のところに虚血が出るということもよくある話です。また面白いことに、冠動脈CTでは描出されない血管に虚血が出ることもあるんですね。冠動脈CTの空間分解能は 500μmですがカテーテルは100μmですので、細い径のものは冠動脈CTでは描出されないんです。

横井 そうですね。

汲田 そうすると、これはPCIの適用にはならないですけれど、心筋シンチによってそのようなところの虚血も別に判断できます。その処置は冠動脈バイパス術になりますけれど。そういう意味でもmultivessel diseaseの場合は冠動脈CTの後にCAGにスキップするのではなく、その間に心筋シンチを入れたほうがベターかなと思います。

上野  心筋シンチによるエリアの相対評価という観点からすると、multivessel diseaseには心筋シンチは弱いのではないかとついつい考えてしまうことがあります。何となく見にくいなという印象を持っているんですけど、それは間違いと思ってよろしいですか。

汲田 SPECTによる虚血検出の限界はもちろんあります。

中村 今のお話を伺いますと、アナトミーを早く知りたいといったときに、やはり日本においてアクセシビリティの高い冠動脈CTがあるポジションを取るのはアクセプトだろうと。しかし、そのときにmultivessel diseaseだからと言ってCAGにスキップするのではなく、たとえmultivessel diseaseであることが冠動脈CTで分かっていても心筋シンチを挟んだほうがいい。少なくとも冠動脈CTで石灰化スコア400以上などの病変には、病変があるのは間違いないけれども、ちゃんと心筋シンチで虚血の評価をしたほうがいいということをお話しいただきました。中等度以上のリスクの患者さんには虚血の評価としての心筋シンチの重要性は間違いないかなと思います。