安定冠動脈疾患に今こそ心筋シンチを ヘッダーバナー

インターベンション医が知っておくべき心筋シンチの撮り方、使い方1

心筋シンチの課題と工夫

中村 実際に、心筋シンチを治療前に行う場合とフォローアップで行う場合、それぞれに大きなメリットがあり、治療前後2回行うことによって様々な付加価値があるということも明確になってきましたが、問題は心筋シンチの実施手順や読影方法になるかなと思います。先ほど上野先生からmultivessel diseaseではどうしても診断がグレーになってしまうケースが多いのではないかと指摘されました。また、負荷が不十分でそのために偽陰性になっているケースが少なからずあることも指摘されています。さらに、読影はやっぱりプロフェッショナルな人がやらないと正確に判断できないのではないかとも指摘されています。このような心筋シンチの課題を、実際にどのようにすればより正確に、より多くの先生が読影でき、また利用できるようになるかについて、心筋シンチに精通されていますお二人の先生からお話をお聞きしたいと思います。

松本 心筋シンチの感度・特異度が90%程度あっても、LMT病変、あるいは3枝病変では必ずしも虚血心筋が十分検出されない、そしてその重症度がリスクの指標とはならない、ということを臨床でよくお感じになるのではないかと思います。実際に読影や撮影の工夫について図8に4つあげます。これらを併用すると、80%を超えるLMT病変を検出することが可能であったという報告があります11)

 

図8心筋シンチのジレンマと工夫

 

   図9は、Heart Risk View-Sというソフトウェアによるリスク評価の1例です。左側に、負荷によって誘発された虚血心筋の量(%SDS)が出ており、本例では%SDSが14.7%でした。右上には、負荷後のEFと、ESVあるいはEDVが表示されます。そして糖尿病の有無などを加えると、J-ACCESSの4000例以上の大規模臨床研究データから患者さんの心事故発生確率が算出され、その結果を右下で確認できます。

 

図9 負荷心筋シンチによる虚血心筋量の評価(Heart Risk View-Sによる評価例)

 

   もう一つ重要なことは、運動負荷を十分に掛けることです。おおよそ目標心拍数が「220-年齢」の85%に設定されている施設が多いのではないでしょうか。負荷を十分に掛けて目標心拍数に達したあと、アイソトープを注射し、十分心筋に集積させるために、同程度の運動負荷を約1分程度続けて継続することが重要です。運動負荷をしっかり掛け、エンドポイントをきちんと達成することによって、適切な虚血心筋の検出ができます。

 

   また、近年はアデノシン負荷もかなり多く行われるようになっています。アデノシン負荷は血管拡張性負荷ですので、負荷中血圧が低下します。そのため、低容量の運動負荷を追加することによって血圧の低下を防ぐ、あるいはアデノシン負荷中の気分不快を抑える効果があります。また、低容量運動負荷を併用したほうが、肝臓からのトレーサーのWashoutが亢進して撮像までの時間を短縮することができるメリットがあります。

汲田 私からは、SPECT製剤の限界についてお話しします。初回循環時の心筋抽出率はテクネシウム製剤で60~65%です。そうすると、血管拡張薬を使ってもあまり血流上昇のない罹患冠動脈のところと正常なところの差がつきにくいんですね。一方、 PET製剤である13N-アンモニアは初回循環抽出率が高いので、よりこの差を評価しやすいんです。我々の施設では、SPECTでどうも結果が不十分だなという症例に関しては、13N-アンモニアを用いた負荷心筋血流PETを行っています。1例提示します。川崎病で3枝ともに動脈瘤あり、特にLADの動脈瘤は、LADの本幹とともに対角枝が一緒に出ている症例です。

 

図10 Stress 99mTc-TF Myocardial Perfusion SPECT

 

   図10はこの症例に99mTc-tetrofosminを用いたSPECTの結果です。前壁から心尖部、前側壁にわずかな集積低下があるので、対角枝領域の軽度の虚血ということになるかと思います。

 

図11 Stress 13N-Ammonia Myocardial Perfusion PET

 

   次に図11は同一症例の13N-アンモニアPETです。この結果では、前壁から心尖部、前壁中隔、前側壁にかけての広範囲の虚血がはっきり見て取れます。また、PETではCFRも測定できますので、LADの本幹末梢が1.25、対角枝領域が1. 85であり、LADを含めた高度の虚血であると評価できましたので、この症例はバイパスになりました。このようにSPECTでは、初回循環抽出率や空間分解能、またCTによる吸収補正等の課題もあるのが現状です。

 

 

11) Berman DS, et al. J Nucl Cardiol. 2007; 14: 521-52.