テーマディスカッション4 症例ディスカッション ~患者背景、症状などに基づく適切な検査モダリティの選択を議論~ 症例2
テーマディスカッション4
症例ディスカッション
~患者背景、症状などに基づく適切な検査モダリティの選択を議論~ 症例2

 

  • 本記録集に掲載されている薬剤の使用にあたっては当該製品の添付文書をご参照ください。
  • 紹介した症例は臨床症例の一部を紹介したもので、全ての症例が同様な結果を示すわけではありません。

テーマディスカッション4 症例ディスカッション ~患者背景、症状などに基づく適切な検査モダリティの選択を議論~ 症例2

 

座長

工藤 崇 先生
長崎大学

坂本 裕樹 先生
静岡県立総合病院

演者

橋本 暁佳 先生
札幌医科大学

当院で経験した安定冠動脈疾患に関連する症例を2例紹介する。

検査前確率 中等度(症例B)
【主な患者背景】

50歳代 男性
健康診断で、脂質異常症と心電図異常を指摘され受診。朝の散歩の歩き始めに、胸部絞扼感を感じることがあったが、そのまま歩いていると消失するので放置していた。

心電図所見:V5、V6にごく僅かな広範性の陰性T波を認めた。

心エコー検査所見:LVEFは正常(64%)、心尖部に軽度収縮能低下を認めた。

[臨床的尤度(clinical likelihood:CL)に関連する情報]脂質異常症 (+)、喫煙 (+)

 

 胸部症状を示唆する明らかな性状は認めなかったため、本症例は非狭心症性であると判断した。「2022年JCSガイドライン フォーカスアップデート版 安定冠動脈疾患の診断と治療1)(以下「同ガイドライン」と表記)」が推奨する検査前確率(pre-test probability:PTP)モデルでは非狭心症性患者の検査前確率は11%となっている。また、本症例では同ガイドラインが提唱するCLを構成する要素として、脂質異常症、喫煙歴、ST-T異常、壁運動異常を含んでいる。これらを踏まえ、検査前確率は15%超(中等度)と考えた。
 主治医の判断により本症例には冠動脈CTAが施行された。同ガイドラインの診断フローでは、検査前確率が中等度の症例に対し診断確定(除外)目的での冠動脈CTAが推奨されており、本症例においても結果的にその流れに従う方針となった。冠動脈CTAの結果からは、LAD(左前下行枝)、LCx(左回旋枝)、RCA(右冠動脈)の3枝に強い石灰化と、高度狭窄、プラークを認めた(図1)。rule-outを見込んでの冠動脈CTAであったが、閉塞性病変を多数認めたことから、同ガイドラインの診断フローに従い、心筋SPECTによる追加検査が行われた。

図1冠動脈CTAの結果。3枝病変を疑う所見を認めた。

【図1】冠動脈CTAの結果。3枝病変を疑う所見を認めた。

 図2に心筋SPECTの結果を示す。心尖部、下壁、後壁に集積低下があるものの、想定していたよりは大きな集積低下は認めなかった。しかし、心筋SPECTの機能評価では、負荷時のEF(52.5)が安静時のEF(58.1)よりも若干低下していることと、TID(一過性虚血性内腔拡大)の傾向(TID ratio:1.22)を認めたことから、balanced ischemiaや重症多枝病変の可能性を考慮し、冠動脈造影(CAG)を施行した。その結果、LAD6番は完全閉塞、LCxは12番に90%、13番に99%の狭窄、RCA2番は99%の狭窄を認め(図3)、最終的に冠動脈バイパス術(CABG)が施行された。

図2心筋SPECT画像。心尖部、下壁、後壁、中隔に集積低下を認めた

【図2】心筋SPECT画像。心尖部、下壁、後壁、中隔に集積低下を認めた。

図3CAGの結果。右室枝を介する側副血行路が認められるため、LADの虚血は想定していたよりも重症を示さなかったと推測する。

【図3】CAGの結果。右室枝を介する側副血行路が認められるため、LADの虚血は想定していたよりも重症を示さなかったと推測する。

 本症例は当初はrule-outを想定していたが、最終的にはrule-inに進む流れとなった。これには、心筋SPECTによる重症度評価が非常に重要な役割を果たしたと考える。

1) 2022年JCSガイドライン フォーカスアップデート版 安定冠動脈疾患の診断と治療. 2022年3月11日発行.

検査前確率 高度(症例C)

【主な患者背景】
60歳代 男性
〈X年Y月〉
発熱、腰痛。感染性腹部大動脈瘤破裂の診断で緊急手術施行。術後Cr 3.09mg/dl→1.79mg/dlまで改善した。
〈X年Y+4月〉
転倒し、右拇趾、第二足趾裂創。感染合併後に骨髄炎となり、切断術目的に当院入院。術前評価で心電図変化を指摘され、循環器内科紹介となった。

心電図所見:脚ブロック、Q波の異常、ST変化を認めた。

心エコー検査所見:LVEFの低下(46%)、全周性の収縮能低下を認めた。

血液検査結果の異常所見:Cre(クレアチニン)1.69mg/dl。

治療薬:ロスバスタチン5mg、フェブキソスタット10mg、ワルファリンカリウム3.25mg、インスリンデグルデク8単位×1、インスリンアスパルト8単位×3

[臨床的尤度(clinical lokelihood:CL)に関する情報]

既往歴:腹部大動脈瘤、脳梗塞、眼底出血、下肢動脈疾患、慢性腎不全

冠危険因子:高血圧 (+)、糖尿病 (+)、脂質異常症 (+)、喫煙 (+)

 

 本症例では、胸部症状の性状を認めなかったため、非狭心症性であると判断した。年齢、性別、および胸部症状の性状のみで考えると、本症例のPTPは22%となるが、CLを構成する要素を数多く含むため、高PTP(>85%)と判断し、同ガイドラインの診断フローに従い、rule-in目的での心筋SPECTを施行した。
 図4に心筋SPECTの結果を示す。Polar map画像からは、負荷時、安静時ともにRCAに強い集積低下を認め、梗塞+残存虚血を示唆する所見であった。また、心尖部から前壁にかけてはwashoutの低下を認め、LADにも病変があることが示唆された。これらの結果から、本症例は最低でも2枝病変であると考えた。さらに、心筋SPECTの機能解析の結果からは、EFの低値(安静時:40%、負荷時:23%)、TID ratioの異常(1.24)を認めたことから、本症例は非常に重症であると推察した。

図4心筋SPECT画像

【図4】心筋SPECT画像。下壁、後壁、前壁において集積低下を認めた。心筋SPECTには心筋のバイアビリティも評価できる利点があり、Polar map画像からは貫璧性梗塞を強く示唆する結果が示された。

 こうした背景を踏まえ、本症例ではLMT(左冠動脈主幹部)病変や3枝病変の存在を否定できないため、同ガイドラインの診断フローに従いCAGを施行した(図5図6)。RCAではCTO(慢性完全閉塞)と広範な残存虚血を認めたが、これ以上進行することはないと考え、下肢切断術を優先することが検討された。LADの狭窄は軽度、RCAについてはCTOであるため、少なくとも周術期のMI(心筋梗塞)の可能性は低いと判断され、下肢切断術が施行された。手術後には手術前に1.56であったCreの値が1.78まで上昇した。その後、本症例はRCAのCTOに対する再評価・PCIを目的に再入院。このときのCreは1.69に改善していた。CAGを施行してから約4カ月が経過していたが、LAD病変が進行している可能性を考慮し、リスク再評価が検討された。本症例は腎機能が低下しているため、私自身は心筋SPECTによる評価が妥当であると考えたが、主治医は冠動脈CTAを選択した。その結果、腎機能が悪化し、Creは2.18まで上昇した。患者には透析リスクを伝えた結果、PCI施行の同意を得ることができず、治療介入を断念することになった。冠動脈CTAの結果では、LADにプラークや、強い石灰化病変を認めた。

 

図5LCA左冠動脈のCAG結果。7番の狭窄は50%軽度と判断された

【図5】LCA(左冠動脈)のCAG結果。7番の狭窄は50%(軽度)と判断された。

 

図6RCAのCAG結果。2番の血管は完全閉塞であった。

【図6】RCAのCAG結果。2番の血管は完全閉塞であった。

 本症例における反省点を図7にまとめる。治療方針の決定(Decision Making)に必要な情報を的確なタイミングで患者に伝え、患者の意思確認を徹底できなかったことが非常に大きな反省点であった。CAGを施行した際にFFRによる評価を行わなかったことと、腎機能にまだ余裕があった状態の時に少しも治療できなかったことを非常に後悔している。

この症例における反省点
1.画像診断チーム、PCIチーム、腎臓チームの連携が不十分であった。
2.患者の意思確認が徹底しておらず、意思決定に必要な情報を、患者に的確なタイミングで伝えていなかった。
3.画像診断医には、画像所見を診療チーム全員と情報共有し、治療方針を決定する過程への積極的参加が求められるが、その認識と責任感が欠如していた。

【図7】より良いチーム医療の形成には、画像診断医として主張すべきことは主張していくことが大切であると考える。

 

 心筋SPECTは、安定冠動脈疾患患者の病態を評価する上で臨床上重要な検査法であるが、その有用性を活かすには効率良く適切に使用するための工夫が求められる。FFRCTなどのモダリティの発達に伴い、近年では画像検査に携わる専門家の役割が細分化されつつある。こうした状況を踏まえ、今後は専門家同士の連携を強化し、より丁寧な病態把握を目指していくことが重要と考える。