心臓画像解析ポケットマニュアル

2.心臓MRI検査(Cardiovascular MRI : CMR)

心臓MRI

心臓MRI(Cardiovascular MRI:CMR)は、虚血性心疾患や心筋疾患の心形態及び心機能評価や心筋viabilityなどの評価に用いられる。
また、冠動脈の形態評価としては、冠動脈MR angiography(MRA)が用いられる。

冠動脈MRAは

  • (1) 放射線被ばくを伴わない、
  • (2) 冠動脈高度石灰化症例でも動脈内腔の描出が可能、
  • (3) 造影剤の投与を行わない非造影検査が可能、

等の優れた特徴を有する。

しかし、現状の機器においては空間分解能と時間分解能の点でMDCTに及ばない。

 

検査実施における注意点

冠動脈ステント留置患者

留置位置への影響やステント自体の発熱などを考慮して、従来留置8週間以内の撮像が控えられていた。
しかし、現状のステントに関しては一部の製品を除き安全性が確認されており、留置直後から検査を実施しても問題がない。

 

人工弁植え込み患者

最近の製品に関しては、検査を実施しても問題がない。但し、製品によっては禁忌の場合もある(古い製品)。

 

ペースメーカーやIDC植え込み患者

原則禁忌であるが、MRI対応のペースメーカーが発売されている(2012年10月~)。

 

その他

不整脈症例はモーションアーチファクトの影響を受けるため、画質の劣化を伴い評価不可能な場合がある。
また、閉所恐怖症患者への実施は困難である。
なお、妊娠初期の患者、体内磁性体留置患者、アルミニウム等が使用されている貼付剤使用患者、カラーコンタクトレンズ装着患者、入れ墨を施している患者において、不具合事例の報告がある。

 


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CMRによる評価方法
評価方法 心筋虚血評価 形態評価
シネMRI 心筋perfusion MRI 遅延造影MRI T2強調画像 coronary MR
angiography(MRA)
特徴
  • 断層像を基に、AHA推奨の17セグメント分類を用いて局所壁運動を視覚的に評価可能。
  • 壁厚、壁運動評価、左室機能評価、右心系機能が評価できる。
  • ガドリニウム(Gd)造影剤の心筋first-passの動態から心筋血流分布を評価する。
  • 心筋虚血診断には、冠血管拡張薬による薬剤負荷を用いる。
  • 空間分解能が高く、血流の相対評価ではない。
  • 梗塞心筋では細胞外液が増加するため、細胞外液のみに分布するGd造影剤を使用し、正常心筋と対比する。
  • 造影心筋の進達度により、viability評価が可能。
  • 血流信号を抑制し、心臓の構造が評価できる。
  • AMIや急性心膜炎、心サルコイドーシス等による心筋浮腫が高信号を示す。
  • 造影剤を使わず、高度石灰化にも影響されずに形態評価が可能。
  • 呼吸同期と心電図同期によるwhole heart coronary MRAも可能。但し空間分解能は64列MDCTに劣る。
有用例
  • 心室容積
  • 収縮能評価(EF)
  • 拡張能評価(PFR)
  • 心尖部肥大型心筋症
  • 虚血性心疾患(心内膜下虚血)
  • 重症3枝病変における虚血評価
  • 心筋組織性状
  • viability
  • T2強調画像との比較により、梗塞心筋の発祥時期やarea at risk(虚血にさらされたが梗塞に至っていない領域)や気絶心筋領域の評価
  • AMIや急性心膜炎、心サルコイドーシス等による心筋浮腫
  • 心臓腫瘍
  • 血栓
  • 若年者
  • 女性
  • 腎機能障害
  • 川崎病
  • 奇形
  • 冠動脈狭窄
画像例

シネMRI 画像例

心筋perfusion MRI 画像例

遅延造影MRI 画像例

T2強調画像 画像例

coronary MR angiography(MRA)画像例

 

腎性全身性線維症(nephrogenic systematic fibrosis:NSF)

腎機能障害患者におけるGd造影剤使用後のNSFの発生に関しては、死亡例の報告もある。
そのため、欧州のガイドラインでは、重症腎不全患者(eGFR<30mL/min/1.73m2)や肝移植患者、新生児には投与してはならず、腎機能障害が存在する場合は、Gdキレート安定性の高い造影剤を必要最小限度を慎重に使用するように勧告している。
(N Engl J Med 343 (20): 1445-1453, 2000)

 

<CMRの活用に必要なこと>

 

CMRは1回約45分間の検査で、心機能・心筋血流・心筋バイアビリティの評価、さらには冠動脈の描出をも可能にする。
しかし検査の煩雑さゆえ、多くの施設で充分活用されていないのが現状である。
種々の検査モダリティが存在する中で、必要な検査を優先的に行う検査の組み合わせを症例毎に作る重要性を充分理解し、通常検査時間枠の中で行える検査として確立していくことが求められる。

 


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