心臓画像解析ポケットマニュアル

はじめに

東京医科大学 循環器内科 山科 章
日本医科大学 放射線医学 汲田 伸一郎

 

冠動脈疾患は、適確な診断と治療方針の決定が最も必要とされる疾患である。様々な検査法を適切な順序ですすめ、適切な治療法を選択し、患者の個々の状態に見合った管理を行い、予後の改善やQOLの向上を図ることが大切である。

 

画像診断、なかでも非侵襲的画像診断は循環器診療に重要な情報を提供するようになり、現在では確固たる地位を占めている。
MDCTの普及によって臨床の現場において非侵襲的に鮮明な冠動脈像が得られるようになった。
一方、機能画像検査である心臓核医学は、蓄積されたデータを基にしたエビデンスが豊富である。
心臓核医学検査の中心的な存在である心筋血流シンチグラフィは、運動あるいは薬剤負荷により冠血流予備能を簡便に評価できる特徴があり、虚血の部位や程度、あるいはviability評価に基づく治療方針の決定、治療効果判定に広く用いられている。
最近では日本人の虚血性心疾患データベース(J-ACCESS)に基づいた予後評価の情報が、臨床現場で活用されるようになった。

 

近年、虚血性心疾患における治療方針の決定は冠動脈の形態と虚血の評価に基づき行うべきことが強調されている。
虚血評価に基づいて診断治療を進めることは冠動脈病変の非侵襲的診断法に関するガイドラインにも取り込まれ、臨床で実践されている(図1)。

 

日々進歩する検査を駆使して循環器疾患の診断治療にあたる今日、高度な検査技術の平易な解説が必要となっている。
本マニュアルは、循環器診療に携わる先生方の現場での疑問点を解消できるよう、携帯可能な形にした。ポケットに忍ばせ、必要に応じて、それぞれの検査の特徴、利用法、数値の読み方など、日々活用いただきたい。

図1 心筋虚血の診断アルゴリズム

 

*心電図、心エコー図所見などから冠動脈疾患が強く疑われる無症候性患者もこれに準ずる。
紫色矢印(点線矢印):明らかに冠動脈血行再建の適応と考えられる高度狭窄病変を認めた場合には冠動脈造影検査を行う。
† 運動可能な場合は運動負荷心筋シンチグラフィ、可能でない場合は薬物負荷心筋シンチグラフィを行う。
§ 心筋虚血評価法の1つとしてFFR-CTも含まれるが,2018年12月時点では保険適用になる施設は限定されている。
注)検査法の選択では、禁忌や検査に伴うリスク・副作用を十分に考慮する。

 

慢性冠動脈疾患の診断および病態把握には心筋虚血の診断が不可欠である。また,薬物治療、PCI、CABGなどの治療法の選択には冠動脈の解剖学的狭窄よりも心筋虚血の定量的ならびに部位診断が必要である。心筋虚血の存在診断には、通常、禁忌例を除き、負荷検査が行われる.非侵襲的検査法としては,簡便性,費用対効果にすぐれ,重症度,運動耐容能および予後を評価できる運動負荷心電図検査が広く用いられている。しかし,運動負荷心電図検査は虚血責任血管や虚血部位の診断に関する感度、特異度が必ずしも高くはなく、運動負荷が施行できない場合や心電図で虚血診断が難しい場合には、負荷心筋血流イメージング法や負荷心エコー法を用いる.また近年では,冠動脈CT検査の使用頻度が急速に増加している。症状および非侵襲的検査から心筋虚血の重症度が高いと考えられる高リスク例では、冠動脈血行再建術を考慮し冠動脈造影検査を行う。冠動脈造影検査は冠動脈疾患の診断を確実にし、血行再建術の必要性を判断するのに必須の検査であるが侵襲的である。冠動脈造影検査の適否については、臨床所見や各検査所見,患者の希望などを考慮し、総合的に判断する必要がある。また、わが国では欧米に比べ冠攣縮性狭心症患者が高率で、労作性狭心症患者とは病態が異なるため、ホルター心電図や冠攣縮誘発試験による診断が必要である。
さまざまな心筋虚血の評価法があるが、その目的に応じた適切な検査法を選択することが望まれる。

日本循環器学会.慢性冠動脈疾患診断ガイドライン(2018年改訂版)
http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2018_yamagishi_tamaki.pdf(2019年4月閲覧)

 


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