2.心筋SPECT製剤
・Tlは歴史的に長く心筋血流検査に用いられており、虚血の検出や心筋生存能(心筋viability)の評価に優れている。
・再分布現象があるため、1回の投与で負荷時と安静時の画像が得られ、正常と虚血と梗塞の鑑別が可能である。
・負荷時像において、冠動脈狭窄領域では冠血流が充分に増加しないため、Tlの心筋摂取量も正常領域と虚血領域で差を生じる。
・時間経過とともにTlは徐々に心筋から洗い出される(wash out)が、冠動脈狭窄領域では洗い出しが低下するため、後期像(再分布像)では正常領域と虚血領域の心筋内Tl濃度に差がなくなる。
→この現象を「再分布」といい、虚血心筋の存在を意味する。
・再分布現象はほとんどないため、負荷時と安静時で2回の投与が必要である()。
|
Tl |
TF |
MIBI |
---|---|---|---|
物理的半減期 |
73時間 |
6時間 |
6時間 |
放射線エネルギー |
低い |
好適 |
好適 |
性 状 |
水溶性 |
脂溶性 |
脂溶性 |
剤 形 |
注射液 |
注射液 |
注射液 |
集積機序 |
能動輸送 |
受動拡散 |
受動拡散 |
心筋抽出率 |
85% |
55% |
67% |
心筋摂取率 |
4% |
1.5% |
1.5% |
再分布現象 |
あり |
ほとんどなし |
ほとんどなし |
撮像開始までの時間 |
5~10分以内 |
15分以降 |
30分以降 |
食事制限 |
必要 |
不要 |
不要 |
|
Tl |
Tc(TF、MIBI) |
---|---|---|
薬剤投与回数 |
1回投与で、負荷時・再分布時の |
負荷時・安静時の2回投与が必要 |
プロトコル |
負荷先行プロトコルのみの評価 |
施設状況に合わせて、 |
投与量 |
大量投与ができない |
大量投与が可能 |
収集時間 |
収集に時間がかかる |
短時間収集が可能 |
心電図同期 |
心電図同期解析の精度はやや低い |
心電図同期解析に最適 |
画 質 |
Tcに比べて画質が悪い |
Tlに比べて画質が良好 |
食事制限 |
食事の影響を受ける |
食事の影響を受けない |
その他の特徴 |
WORの測定は、多枝病変の評価に |
TIDにより、多枝病変の評価が可能 |
WOR(wash out rate:心筋洗い出し率)
・運動負荷Tl検査で利用される心筋からの洗い出し率。
(負荷後像カウント)-(再分布像カウント) | ×100(%) |
---|---|
(負荷後像カウント) |
・3枝病変の診断に有用であり、正常部位では40~50%程度、心筋虚血部位では低下し、40%以下を異常値とすることが多い。
TID(transient ischemic dilatation:負荷時一過性虚血性内腔拡大)()
・心筋虚血の誘発により左室には気絶心筋を伴う壁運動異常が発生し容積は拡大する。
・3枝狭窄やLMT狭窄のような重症病変ではTIDが高値となる。
・TIDが正常範囲でも重症冠動脈病変は否定しきれない。
・TIDは負荷~撮像までの時間や再構成条件によって変化する。
・TIDは報告書に記載すべき数値である。
TIDの異常の目安
運動負荷Tl検査 |
1.17以上1) |
---|---|
運動/薬剤負荷Tc検査(1日法) |
1.20以上2) |
安静Tl/運動負荷Tc 2核種検査 |
1.22以上3) |
安静Tl/薬剤負荷Tc 2核種検査 |
1.36以上4) |
負荷時 |
安静時 |
TID=1.8 |
---|
・健常心筋では脂肪酸代謝が主なエネルギー源であるが、虚血心筋では脂肪酸代謝が抑制され、糖代謝が主なエネルギー源となる。
・脂肪酸代謝は虚血により容易に障害され、虚血が回復してもしばらく抑制されているため、脂肪酸代謝イメージング製剤であるBMIPPを用いて、虚血の早期診断やメモリーイメージが評価できる。
・心筋血流製剤との2核種同時撮影の集積乖離所見(ミスマッチ)も種々の病態把握に有用である。( ・ )
A.気絶心筋
(ミスマッチあり)
|
||
---|---|---|
TI | BMIPP | |
B.壊死心筋
(ミスマッチなし)
|
B:下後壁から側壁に集積欠損→ミスマッチなし
|
安静時BMIPP |
安静時Tl |
負荷時Tl |
---|---|---|---|
正常心筋 |
正常集積 |
正常集積 |
正常集積 |
虚血心筋 |
正常or低下 |
正常集積 |
集積低下 |
気絶心筋 |
集積低下 |
正常集積 |
正常or低下 |
冬眠心筋 |
集積低下 |
正常or低下 |
集積低下 |
梗塞心筋 |
高度集積低下 |
高度集積低下 |
高度集積低下 |
:ミスマッチの頻度が高い |
・MIBGを用いた心臓交感神経イメージングは心不全の重症度と予後評価、心不全の治療効果の評価に用いられている。
・MIBGの臨床的な評価法()
H/M比 : 心臓交感神経の分布・密度およびノルエピネフリンの取り込み能を反映する。
WR(WOR): 心臓交感神経活性の亢進の度合いを反映する。
H/M比とWR(WOR) (日本心臓核医学会ホームページより)
【心筋カウント】÷【上縦隔カウント】
【初期像カウント】-【後期像カウント】 | ×100(%) |
---|---|
【初期像カウント】 |
・心臓交感神経機能が障害されると、H/M比は低下し、WR(WOR)は高くなるが、H/M比やWR(WOR)の基準値は施設により異なるため、得られた値の解釈には注意を要する。
心臓核医学に用いられる放射性医薬品の被ばく線量は、Tlと比べてTc製剤の方が少なく、近年、欧米では患者さんの医療被ばくを考慮するとTc血流製剤の方が望ましいと考えられている()。
タリウム | テトロホスミン | MIBI | 123I-BMIPP | 123I-MIBG | |||
---|---|---|---|---|---|---|---|
運動 | 負荷 | 運動 | 安静 | ||||
Effective dose(mSv/MBq) | 0.14 | 0.0069 | 0.0080 | 0.0079 | 0.0090 | 0.016 | 0.013 |
投与量(MBq)※ | 111 | 418 | 660 | 523 | 660 | 111 | 111 |
投与あたりの被ばく量 | 15.54 | 2.884 | 5.28 | 4.132 | 5.94 | 1.776 | 1.443 |
1検査あたりの被ばく量(mSv) | 15.54 | 8.164 | 10.072 | 1.776 | 1.443 |
Kudo T, Ann Nucl Cardiol 2018;4(1):142-148.より改変