心臓画像解析ポケットマニュアル

2.狭心症

労作性狭心症(EAP)
症例1 60歳代、男性

典型的胸痛を自覚し来院。
冠危険因子:高血圧症、脂質異常症(両方ともに未治療)。
心電図:前胸部V1-3でT波の陰転化が認められた。
CAD精査目的で運動負荷SPECT(安静-負荷TF)を施行( s図1 )。

 

図1 PCI前SPECT
負荷時  負荷時
安静時  安静時
 
 
decision making

運動負荷中の心電図変化は、II、III、aVF においてequivocalであった。
SPECTでは、前壁・中隔・心尖部を含むLAD領域の広範な心筋梗塞症と前壁と心尖部の一部にfill-inを認め、梗塞+虚血との診断である。

 

SPECTの結果を受けて直ちにCAGが施行され、LAD近位部#6が完全閉塞(CTO)の1枝病変であり、RCAからの側副血行路が認められた( s図2 )。

 

図2 CAG所見:RAO view
#6PCI前 #6PCI後
#6 PCI #6 PCI

 

心筋虚血を伴うことから冠血行再建術(PCI:DES留置)が選択された。
本症例ではSSS=23点、% ischemic(% SDS)=14.7%と心筋虚血を表す%SDSが高値(10%以上)であったため、PCIによる胸痛症状の軽減効果と予後改善効果が期待された。PCI後の負荷心筋SPECTを示す( s図3 )。
LAD領域の虚血は改善しており、MIと考えられた部位にも一定の血流改善効果が認められた。
これらの部位は冬眠心筋であったと推定される。

 

図3 PCI後SPECT
負荷時  負荷時2
安静時  安静時2

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不安定狭心症(UAP)
症例2 50歳代、男性

 

ここ1ヵ月間で徐々に増悪する胸痛。痛みは胸の中心で労作により増悪し、最近症状寛解までに時間を要するようになった。
冠危険因子:高血圧症、糖尿病
安静時心電図:完全右脚ブロック
来院時血液検査:トロポニンT陰性
増悪する症状からUAPと診断し、CAD精査のため入院。
入院後ニトログリセリンの点滴にて症状は寛解したが負荷検査は行えないため、Tl/BMIPP 2核種同時心筋シンチグラフィを施行
s図4 )。

 

図4 Tl/BMIPP SPECT像
Tl  Tl
BMIPP  BMIPP
 
decision making

SPECTではLCX領域の代謝・血流ミスマッチが観察された。CAGの結果、LCX#13、#14に90%狭窄を認め、ステントを留置。
心電図や血清酵素に異常はなかったが、症状からUAPが疑われた。
このような胸痛以外に明らかな症状がなく、負荷検査を行えない場合、安静時BMIPP検査が有用である。

 

冠攣縮性狭心症(VSA)
症例3 50歳代、男性

早朝の安静時胸痛。
CAG:LCA#5の25%狭窄とRCA#2の25%狭窄であり、有意狭窄冠動脈はなく造影時に既に冠動脈はspasticであった。
翌日にTl/BMIPP  2核種同時心筋シンチグラフィでLCA、RCA領域の代謝/血流ミスマッチが検出された。
冠動脈攣縮の関与が強く疑われた症例である( s図5 )。

 

図5 Tl/BMIPP SPECT像
Tl  Tl
BMIPP  BMIPP
 

 

decision making

VSAでは、発作時以外の心筋血流が正常化しており、負荷検査では虚血が誘発されることが少ないと考えられるため負荷心筋血流SPECTやQGSを用いた壁運動評価では診断精度が低い。
一方、VSAに対するBMIPPの高い感度と特異性(いずれも70~90%)が報告されている。
BMIPPは重症例ほど集積低下が高頻度であり、集積低下は冠攣縮発作寛解後も持続する。
従って、発作後のBMIPP撮像でも過去に起きたVSAによる心筋虚血を検出することが可能となる(心筋虚血のメモリーイメージング)。 


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