NTC45 指名講演 坂谷先生

指名講演 血行再建の限界と薬物療法でできること
~Heart Risk View-Sを用いたリスク評価~

座長

竹石 恭知 先生
福島県立医科大学

演者

坂谷 知彦 先生
京都第二赤十字病院

血行再建の限界と薬物療法でできること
~Heart Risk View-Sを用いたリスク評価~
大規模臨床研究からのメッセージ

 COURAGE Trial、ORBITA Trial、ISCHEMIA Trialと大規模な臨床研究が海外主導で行われてる。これらのトライアルに共通するのは、「狭窄を認めればPCIをすればよいという時代から、今後は一歩踏み出していかないといけない」というメッセージであろう。Heart Risk View-S(HRV-S)を用いた、患者ごとのリスクに応じた虚血性心疾患の治療方針の決定方策について、過去の種々のエビデンスを振り返りながら検討する。
 Hachamovitchらが心筋血流SPECT画像を用いた半定量スコア「負荷時欠損スコア(SSS)」により予後が層別化できる、つまりSSSが高いほど心臓死が増えることを最初に発表したのは1998年である。このことはJ-ACCESS研究により、日本人でも実証されている1)。さらに、Hachamovitchらのその後の研究では、心筋虚血量が多いほど予後が悪化し、虚血心筋量が10%を超えると、血行再建が必要であることが示されている2)
 冒頭で紹介したCOURAGE Trialについては、「PCIが至適薬物治療に対して予後改善効果の優位性を証明できなかった」ことがよく知られている。一方で、サブ解析では「5%の虚血改善が得られた群」については予後改善が得られていた3)。つまり、研究の解釈としては、PCIを実施しても虚血の改善が乏しいケースがあるため、「実施するのであれば、インパクトがあるPCIでなければならない」というメッセージが重要と考えられる。
 本邦の多施設共同研究である「J-ACCESS 4 研究」においてもこの「5%ルール」が追試されている。PCIなど治療介入による予後を5%以上の心筋虚血を認めた群を対象に検討しているが、この結果の解析論文では、再灌流療法を受けた群の方が予後の改善が得られ、COURAGE Trialのサブ解析と同様に、「虚血心筋量5%以上の低減が得られた群」は、「それ以外の群」と比較して予後の改善が認められた。PCIを実施するのであれば、心筋虚血の評価が必須であり、「虚血心筋量5%以上の低減が求められる」ことが日本でも証明されたことを示している4)

1)Nishimura T et al. Eur J Nucl Med Mol Imaging 2008; 35(2): 319-328.
2)Hachamovitch R et al. Circulation. 2003; 107: 2900-2907.
3)Shaw LJ et al. Circulation 2008; 117: 1283-1291.
4)Nanasato M et al. Int J Cardiol.2018; 267: 202-207.
患者層別化への Heart Risk View-Sの活用

 大規模臨床研究によるエビデンスの価値は大きいが、実臨床における患者ごとのリスク因子は多様であり、単純に適用できないケースが存在する。例えば、高齢で合併症や心機能低下のある患者では、SSSが高値であっても虚血心筋量は少なく、治療判断に難渋するケースを臨床上しばしば経験する。こうした際の治療方針決定に参考指標を示すのがHRV-Sである。
 HRV-Sは、J-ACCESS研究で判明した予後規定因子である、年齢、糖尿病の罹患、負荷時 SPECT集積低下スコア、QGSにおける左室収縮末期容積の4因子を用い、それぞれのリスクの重み付けし、回帰式により、心事故発生確率を自動算出することができる。
 心筋血流SPECT像上は正常所見のケースでもHRV-Sが心事故の予測因子となり得ることが報告されている。例えば、負荷像で正常所見、SSS3点未満では、年心事故率が1%未満と非常に予後が良いことが知られている。しかし、多枝病変などによりSSSが過小評価となるケースが知られている。同群をHRV-Sにより評価したところ、スコア3.4以上では約10年のフォローで10%以上の心事故発生が認められ、予後不良な患者群を層別化できることが示された5)
 またHRV-Sで心事故発生確率20%以上とされた高リスク群は、1.6年の観察期間で27.7%の心事故が発生しており、予測の妥当性が確認できた(図1)。さらに心事故群と非心事故群の背景因子を比較したところ、血行再建術実施率のみ有意差が確認され、非心事故群で高くなっていた。両群のSSSは20.2、23.0と高い一方でSDSは1.3、1.8であり、前述した負荷時、安静時ともに大きな欠損を認めるケースである。SPECTガイドではバイアビリティが乏しいことが見込まれ血行再建術から外れる群と考えられ、CAGやFFRの検討が必要なケースが想定される。

 

HRV-Sの解析で高リスクと判定された症例群における考察

【図1】HRV-Sの解析で高リスクと判定された症例群において、高い心事故発生が確認された。イベント群に対しては血行再建適用が必要であったと考察できる。

 

 以上より、虚血性心疾患に対する治療方針決定のフローチャートを作成した(図2)。まず非侵襲的な虚血評価を用いて「心筋虚血5%以上」を認めればPCIやCABGを検討すべきであろう。一方で、「心筋虚血5%未満」であっても、SSSが低値であればHRV-Sによる患者ごとのリスクの層別化により、付加検査を行うか、薬物療法を適用するか、を検討する手順をとることが適切と考えられる。

 

血性心疾患に対する治療方針(私見)

【図2】過去の大規模検証試験のエビデンスを基に、心筋虚血量、SSS、HRV-Sを用いた治療方針の決定方法をまとめた。

 

5)Sakatani T et al. Ann Nucl Med.2016; 30(10): 716-721.