NTC45 シンポジウム 宮内先生

シンポジウム 高齢者・心不全における心臓核医学によるアプローチ③

座長

筒井 裕之 先生
九州大学

坂田 泰史 先生
大阪大学

演者

宮内 秀行 先生
千葉大学医学部附属病院

BMIPPイメージング (TGCV)
中性脂肪蓄積心筋血管症(TGCV)とは

 TGCVは心筋細胞や冠動脈血管平滑筋細胞に中性脂肪(TG)が蓄積し、心不全や虚血性心疾患、不整脈を呈する新規疾患である。本疾患は我が国の移植待機心不全患者から見いだされた難病であるが、潜在患者数に対して確定診断数が少なく、未診断、診断遅延が課題となっている。通常の動脈硬化ではリポタンパクを貪食したマクロファージが内膜に集積することで血管壁が肥厚し、偏心性の内腔狭窄を来すが、TGCVでは中膜にある血管平滑筋細胞の細胞内にTG(中性脂肪)が蓄積し、求心性に狭窄を生じる。また、TGCVでは細胞内のTG分解が障害されることにより、細胞内にTGが蓄積する。したがって、細胞の外、すなわち間質や血液中のTGは直接関与しない。
 細胞内のTG蓄積を評価する重要なツールとしてBMIPPを用いた脂肪酸代謝SPECTがある。TGCV症例ではBMIPP洗い出し率(washout rate:WOR)が著減する特徴があるため、TGCVの鑑別に有用である。自験例を含めたwashout rateに関するこれまでの研究報告を踏まえると、正常の場合が20%程度、TGCV診断基準カットオフ値は10%である1) 2)

1)Miyauchi H et al. Ann Nud Cardiol 2018; 4(1): 094-100.
2)Li M and Hirano K et al. Orphanet J Rare Dis. 2019; 14(1): 134.
TGCV症例に対するBMIPP SPECTの有用性

 印象的なTGCV自験例を紹介する。本症例は40歳代男性で労作時易疲労感、胸痛、下腿の浮腫を主訴とする患者である。心エコー図検査では左室壁運動の高度低下、軽度心肥大、そして心筋の輝度が通常よりも若干明るめな印象があった。冠動脈造影では有意狭窄を認めないものの、よく見ると末梢が全体に狭小化している印象があった。また、心臓MRI検査では軽度の心肥大を認めるのみで、心筋性状診断につながる特記すべき所見はなかった。本症例に対し心不全治療薬(利尿薬、ACE阻害薬、β遮断薬)の投与が行われたが奏功せず、増悪と軽快を繰り返していた。このような状況で診断に難渋していたが、以前この患者に施行したBMIPP SPECTのデータを確認する機会があり、washout rateが極端に低いことが判明した。その後、心筋生検などいくつかの検査を経て、特発性TGCVの診断に至った。

TGCV症例の臨床像

 当院では2016年7月に初確診例を経験したことをきかっけに、TGCVの症例探索を行った。BMIPP WOR<10%をTGCVのカットオフ値とし、重症冠動脈疾患、原因不明の心不全・心機能低下例を中心にTGCVの症例探索を行ったところ、212例中83例がTGCVとして確定診断に至った。また、 BMIPP WORは血中脂質濃度とは相関せず、血清TG値ではTGCVを予測できないことも明らかとなった。さらに、当院ではどのようなタイプの患者にTGCVが多いのかを検討するため、「糖尿病」、「2枝以上の血行再建病変」、「血行再建歴のないびまん性の冠動脈狭窄」、「LVEF<35%の低心機能もしくはNYHA分類でⅡ度~Ⅳ度の心不全」の4つの病態の有無で患者プロファイルを作成した。その結果、心不全のみ、糖尿病のみ、冠動脈疾患のみという単一の疾患を背景に持つ場合はTGCVである割合が低く、一方で、複数の疾患を有する症例ではTGCVである割合が高いことが示唆された(図1)。臨床像を図2にまとめる。

 

自施設データ

【図1】

臨床像のまとめ

【図2】

今後の展望

 2008年に本疾患が報告されてから現在まで、本邦で226例がTGCVと診断されている。残念なことに45例の患者が既に死亡しており、TGCVは生命予後に直結する病態といえる。
 2019年8月に欧州最大の難病情報サイトであるOrphanetの学術誌「Orphanet Journal of Rare Diseases」に疾患論文がacceptされた。さらに「disorder」の分類として、ORPHA code(疾患番号)が付与され、独立した疾患として認められている。
 また、国内においては2013年2月にTGCV患者会が発足し、TGCVに関する様々な啓発活動が行われ、患者とその家族のサポートが行われている。
 治療薬の開発状況については、治験薬の第Ⅱa相臨床試験が終了し、次相試験に向けて準備が進められているところである。しかし、新規疾患として未解明部分がまだ多く、今後ますます規模を大きくして知見を集積し、検証する価値があると考える。