NTC45 シンポジウム 石黒先生

シンポジウム 高齢者・心不全における心臓核医学によるアプローチ②

座長

筒井 裕之 先生
九州大学

坂田 泰史 先生
大阪大学

演者

石黒 まや 先生
榊原記念病院

BMIPPイメージング(虚血性心不全)
虚血性心疾患と非虚血性心疾患の鑑別時における課題

 我が国では心不全パンデミック時代を迎え、心不全患者は年々増加の一途をたどっている。2030年には心不全患者は35万人を超え、また同時に65歳以上の高齢者は全体の30%以上まで増加すると予測されている1)。一方で腎機能は加齢とともに増悪するため、より低侵襲で腎機能の影響も受けない検査が望まれている。
 我々臨床医は心不全の患者を診る時にまず虚血性か非虚血性かの鑑別を考える。非虚血性心疾患の中には不整脈や心筋症、高血圧性心疾患や弁膜症、先天性心疾患などがあり、それぞれに必要とされる治療は異なってくる。一方、虚血性心疾患の場合は適切な薬物治療やPCI、冠動脈バイパス手術などの血行再建術によって、劇的な心機能の改善が期待される。したがって、虚血性か非虚血性かの鑑別は治療方針決定のために重要となる。そのために行う検査として心筋SPECT、冠動脈CT、心臓カテーテル検査等があるが、冠動脈CTや心臓カテーテル検査では造影剤を使用するため、腎機能低下症例では実施が困難である。さらに心臓カテーテル検査の場合、侵襲性が高いという問題もある。しかし、心筋SPECTにはこのような心配がない。ただし、心筋SPECTは心不全患者に対し負荷検査の実施が難しいという問題がある。そこで期待されるのが、安静時の心筋SPECTである。

1)Shimokawa H, et al. Eur J Heart Fail 2015; 17: 884-892.
BMIPPを活用したDual SPECTの有用性

 心不全患者の虚血性心疾患と非虚血性心疾患の鑑別には、Tl or TcとBMIPPによる2核種同時のSPECT検査(Dual SPECT)が有用である。SPECTは心不全が安定し胸水が減少したところで負荷をかけずに安静時に施行している。
 虚血性と非虚血性を鑑別する際のポイントはTl or TcとBMIPPとの集積乖離所見(ミスマッチ)を見ることである。虚血性心疾患による心不全患者では、非虚血性心疾患による心不全患者と比較し、より大きなTlの集積低下やBMIPPとのミスマッチの存在が報告されている2)。実際に当院においても、心不全患者に対しTlとBMIPPのDual SPECTを施行したところ、TlとBMIPPで冠動脈支配に一致した血流と代謝の顕著なミスマッチが認められた例が多い(図1)。このような症例では、虚血性心疾患の特定に繋がり、最終的にPCIや冠動脈バイパス手術などの血行再建術によって症状や心機能が改善することが期待できる。

 

虚血性心疾患の一例

【図1】虚血性心疾患の一例

 

 一方、TlとBMIPPによるDual SPECTが非虚血性心疾患の特定に繋がった自験例もある。ある症例では、TlとBMIPPのそれぞれで基部後側壁、心尖部前壁、基部中隔に集積低下を認めたが、これらは冠動脈支配から見て説明が難しい所見であった。次にTlスコア、BMIPPスコア、ミスマッチスコアについて着目してみると、それぞれ7点、8点、1点であり、ミスマッチスコアは低値を示していた(図2)。したがって、これらの結果から非虚血性心疾患を疑った。その後CAG(冠動脈造影検査)を施行したところ、有意狭窄は認められず、MRI等による追加検査によって最終的に本症例は心サルコイドーシスと診断された。

 

非虚血性心疾患(心サルコイドーシス)の一例

【図2】非虚血性心疾患(心サルコイドーシス)の一例

 

 このように、虚血性心疾患と非虚血性心疾患の鑑別では、冠動脈支配を意識し、その灌流域をイメージしながら読影することが重要である。また、虚血性心疾患の場合は冠動脈支配に一致した血流代謝のミスマッチが顕著に認められることも特徴である。
 ミスマッチの評価は心機能低下を伴う非虚血性心疾患患者の予後の評価にも有用である。当院で行った調査では、心機能低下を伴った非虚血性心疾患患者では、ミスマッチを認めなかった群に比べミスマッチを認めた群のほうがCardiac event(心不全入院)やHard event(ICD適切作動、心臓死)のリスクが高い傾向があった。これは、心筋のongoingの代謝障害を見ていると考えられ、その代謝障害の存在が予後に影響していると推測された。
 以上のことから、低侵襲で腎機能の影響も受けない心筋SPECTは、心不全の治療方針決定に有用な検査であると考えられる。

2)Abe H, et al. Int J Cardiol. 2014; 176(3): 969-974.