NTC45 教育講演Ⅰ 田倉先生

教育講演Ⅰ 保険診療の中で心筋SPECTを再考する④

座長

玉木 長良 先生
京都府立医科大学

中村 正人 先生
東邦大学医療センター大橋病院

演者

田倉 智之 先生
東京大学

機能的虚血評価の医療経済学的インパクト
費用対効果評価の概念と潮流

 2019年度より診療報酬制度において医薬品と医療機器を対象にした費用対効果評価の本格導入が始まった。臨床的な成果と必要な費用のバランスを論じるための基礎資料の作成が目的であり、まず薬品・機器の評価に導入され、今後は手技の評価にも拡大されるものと予想される。
 費用対効果評価の方法のうち、「費用効果分析」は心機能等の臨床指標を用いて費用とのバランスを議論するものだが、疾患特異的な指標が多く、臓器・技術横断的な比較が難しい。そこで注目されているのが「費用効用分析」であり、疾病領域の横断的な評価が可能な患者アウトカムを選択する。たとえば、患者目線から効果を推し量る指標として「質調整生存年(Qaly:Quality adjusted life year)」がある。Qalyとは、獲得された生存年数と患者のQOLの積分である。QOLを0~1で評価し、患者を完全健康で1年間延命させると1 Qalyとなる。1Qalyを獲得する費用は600万円前後が妥当であるとの社会的コンセンサスが得られている。

虚血性心疾患診療の医療経済

 従来は、①検査・診断、②治療・療養、③三次予防等はそれぞれ縦割りで診療報酬上の議論・評価がなされてきた。しかし昨今は患者のライフサイクルをトータルに評価し、全体最適化を図るという考えから、診療のバリューチェーン評価(システム論的な医療経済学)が提唱されている(図1)。 2018年度診療報酬改定でPCI算定要件に機能的虚血評価が加えられたのは、虚血評価はPCI適用の最適化や、治療精度向上のためのものという明確な位置付けのもとで費用対効果の議論を進めるためと理解している。心疾患領域の先生方の想像以上に、行政や他領域の医師は、虚血評価の結果として再入院の低減や治療成績の向上が得られるのか関心を持って注目している。

 

医療分野の生産性改善と診療報酬制度の動向から整理

【図1】虚血評価など、検査・診断の費用対効果の議論は、治療・療養、三次予防等に関する評価があって初めて成り立つ。

 

 東京大学が整備するビッグデータを用いた分析では、PCIの算定要件に虚血評価が導入されたことで、FFRが増加し、ステント本数が減少する傾向が認められた。

心臓核医学の医療経済の研究

 現在、安定冠動脈疾患の診断の臨床経済的な価値を明らかにすることを目的に「J-CONCIOUS」研究が進められている(図2)。多施設の観察研究として2,000例程度の診断選択と治療成績の検証を行う。データベースの予備的研究として、前述したビッグデータを用いた分析では、機能的虚血評価の算定要件への導入前後で各施設のPCI平均件数に統計的な差は認められなかったが、PCI 1件あたりの平均医療費(検査+治療+療養等)は在院日数短縮などにより減少する傾向が認められた。

 

J-CONCIOUSの狙い(分析の萌芽)

【図2】安定型冠動脈疾患の診療におけるアウトカムと費用対効果を検証し、包括的な画像診断戦略の医療経済学的評価を行う。

 

 今後、「J-CONCIOUS」研究などを通じて機能的虚血評価の臨床効果を検証し、社会経済とのバランス(費用対効果)を分析していくことで、冠疾患診療の適正な発展につなげていきたい。