NTC46_シンポジウム_総合ディスカッション

シンポジウム
総合ディスカッション

座長

笠井 督雄 先生
魚沼基幹病院

ディスカッサー

渋谷 清貴 先生
坂総合病院

辻田 賢一 先生
熊本大学

高谷 具史 先生
姫路循環器病センター

松本 直也先生
日本大学

ISCHEMIA試験に関して

笠井  討論に先立ちまして、いくつか私見を述べさせていただきます。
 ISCHEMIA試験では、中等度から重度の虚血が証明された安定狭心症患者を対象に行われていますが、その虚血の評価に使用されたモダリティの内訳は負荷心筋血流イメージングが4分の3、運動負荷心電図検査が4分の1でした。つまり負荷心電図だけで中等度以上の虚血と評価された症例も含まれているということです。負荷心電図は偽陽性の問題が指摘されており、重度虚血として判定された患者の5分の1程度は過大評価となる可能性があります。これを踏まえますと、ISCHEMIA試験では、中等度以下の虚血であった患者が、実際にはさらに11%程度存在していたのではないかと推察されます。
 Hachamovitchらの報告では固定欠損が10%未満であれば、虚血心筋量15%以上の場合で血行再建によってイベントを抑制することが示されています(図1)。

 

血行再建の予後改善効果には、虚血の程度だけでなく、患者の背景も影響する図

 

    さらにHachamovitchらは、内科療法群と早期の血行再建群の予後改善効果の比較についても2003年と2011年に報告しております。2003年の報告では虚血の程度が約10%の際に両群は同等の予後を示しました1)。一方で2011年の報告では、両群が同等の予後となる虚血の程度が約12.5%に上昇していました(図2)。その要因として、内科療法の進歩によりコ ントロールが良くなった可能性が考えられます。

 

中等度虚血であっても、内科療法群の予後改善効果が血行再建群を上回る場合が考えられる図

 

    これらを踏まえますと、ISCHEMIA試験において実際に中等度以上の虚血を有する症例数が判定された結果よりも少なかったとすれば、イベント発生率自体が低下していた可能性が考えられます。そうなれば、内科療法群と冠血行再建術群の予後改善効果に差が現れにくくなると思われます。先生方のISCHEMIA試験に関するご感想はいかがでしょうか。

渋谷 私はISCHEMIA試験の結果を最初に見たときに、心筋血流SPECTの診断精度が、思いのほか低いと感じました。しかし、日常診療では心筋血流SPECTで10%以上の虚血心筋量を認めた患者にカテーテル検査を行っても、虚血陰性であることは経験的に少ないです。適切な方法で心筋血流SPECTの判読を行えば、冠動脈正常症例を中等度以上虚血と診断する可能性は低いと考えます。

高谷 今回の先生方のご発表を受けまして、試験データの受け止め方が非常に勉強になりました。特にISCHEMIA試験のようなエビデンスは、背景をしっかりと読み込まなければ、実臨床で適切な判断ができないということをあらためて実感しました。

松本 ISCHEMIA試験のように米国で計画される研究では、検査方法に運動負荷試験が採用されることが多いと感じています。また、ISCHEMIA試験に参加できた施設のクオリティは高いと言われており、各参加施設の負荷心筋血流SPECTやトレッドミルテストの読影スキルはしっかりと担保されているように思われます。ただし、ISCHEMIA試験ではエントリー 時に負荷心筋血流SPECT検査で虚血を評価された症例と、 運動負荷心電図検査で虚血を評価された症例が存在することに留意すべきと考えます。

辻田 ISCHEMIA試験の結果を受けまして、私は「中等度以上の虚血でもPCIによる予後改善は期待できない」という風潮が高まることを懸念しておりました。しかし、先程の笠井先生のご指摘をお聞きし、ISCHEMIA試験の患者背景に重要な意味が含まれていることを確認できました。今後はISCHEMIA試験の負荷心筋血流SPECTを対象としたサブ解析が発表されることに期待したいと思います。

笠井 私もそのようなサブ解析の結果が発表されることを非常に楽しみにしております。「虚血心筋量が多ければイベントの発生率が高まる」という心筋血流SPECTのエビデンスはこれまでにたくさん報告されていますので、今後も心筋血流SPECTは decision makingに生かすことのできるモダリティであると思います。

実臨床に活かすモダリティの選択と運用の工夫

笠井 辻田先生がご経験された心筋血流SPECTで2枝病変を認めた症例についてですが、高位側壁枝(ハイラテラル)の PCIをまず行った後に、LADの残存狭窄に対しFFRで生理的に虚血の評価を行うというアプローチは非常に合理的であると思いました。心筋血流SPECTは相対的な血流評価であるため、多枝病変例においては虚血が最も強い病変を治療するだけではリスクを残してしまう可能性があります。しかし、こ のような症例では既にInvasiveな状態に入っていますので、 PCI 後に他の病変をFFRで評価することは非常に有用であると思います。辻田先生は日常診療でもそのようなアプローチをなさっているのでしょうか。

辻田 ハイラテラルのような領域は血管がそれほど太くありませんので、先程の症例の場合では、もし事前に虚血が証明されていなければ内科療法を選択していたかもしれません。当院では、最近は冠動脈CTにゲートキーパーが移行しつつあるのですが、PCI治療を実施する前には心筋血流SPECTを行うことを基本原則としています。

笠井 CFRやMFRといったFlow reserveについて今回お二人の先生方からご発表がありましたが、実際には特にどのような症例に対しFlow reserveの測定を行うのが望ましいのでしょうか?

松本 様々なリスクファクターが累積し、冠動脈CTの結果では大きな動脈硬化を認めないが、何ともいえない胸痛症状を訴えるような症例には、Flow reserveの測定をおすすめします。Flow reserveを測定して特に問題がなければ、イベントを起こす可能性は低いと考えます。

笠井 ホルター心電図でST低下を示すような症例の場合はいかがでしょうか。

松本 そのような場合も、通常の判断ではうまく説明がつかない症例にはFlow reserveを測定してみるとよいかもしれません。

高谷 当院でもD-SPECTを使用していますが、時間的な問題からMFRにはなかなか手を出せていません。松本先生の施設では、どのぐらいの時間枠を設定されているのでしょうか。

松本 当院のMFR測定の検査は一人あたり55分の時間がかかりますので、午前中に最大で3件となります。検査の枠を圧迫させないために、曜日指定で行っています。

笠井 ありがとうございました。以上をもちまして本セッションを終了させていただきます。おかげさまで、非常に有意義なディスカッションとなりました。演者の松本先生、辻田先生、そしてコメンテーターの高谷先生、渋谷先生、本日は誠にありがとうございました。

1) Hachamovitch R, et al. Circulation. 2003; 107(23): 2900-2907.