NTC46_シンポジウム_辻田先生

シンポジウム
心不全に潜む冠微小循環障害評価への挑戦

座長

笠井 督雄 先生
魚沼基幹病院

演者

辻田 賢一 先生
熊本大学

コメンテーター

渋谷 清貴 先生
坂総合病院

高谷 具史 先生
姫路循環器病センター

心不全に潜む冠微小循環障害の影響

 心筋虚血の評価は、冠微小循環を含めた冠循環全体の機能評価が重要である。しかし、冠循環を8割方調節している前細動脈や細動脈は、血管径が小さいため臨床的に可視化することが 難しい。そこで、CFRを活用した冠微小循環の評価が期待されてきた。

 心外膜冠動脈病変と冠微小循環障害の病変の分布は主に4つのパターンに分けられる。

パターン1
FFRを低下させるDiffuseな心外膜冠動脈狭窄病変が存在し、 心筋内の微小血管に冠微小血管抵抗指数(IMR)の高い病変を有するパターン。CFRは低値を示しやすい。

パターン2
動脈硬化の早期に見られやすく、FFRを低下させるFocalな心外膜冠動脈狭窄病変が存在し、心筋内の微小循環は良好でIMRは低いパターン。CFRは低下しにくい。

パターン3
心外膜冠動脈には病変がなくFFRは正常であるが、心筋内の微小血管に病変が存在しIMRが高いパターン。CFRは低値を示しやすい。

パターン4
スパスム(冠攣縮)に見られやすく、心外膜冠動脈にFFRを低下させるほどの動脈硬化は存在しないが、Diffuseな内膜肥厚を認め、心筋内の微小血管にはIMRを高める病変が存在するパターン。CFRは低値を示しやすい。

 我々は、心外膜冠動脈に虚血性病変を認めない患者を、冠微小循環障害あり(CFR<2.0)群と、冠微小循環障害なし(CFR ≥2.0)群で心筋障害に及ぼす影響を比較した。その結果、冠微小循環障害を有する群では、心筋障害マーカー(心筋トロポニン T)の値が有意に高いことが示された。したがって、心外膜冠動脈に虚血性病変を認めない症例であっても、冠微小循環障害が併存・潜在していれば、心筋トロポニンTの上昇が引き起こされ、 心不全の悪化に繋がる可能性があると考えられる。

CFR単独による評価の限界

 冠動脈疾患では、血管の構造的な異常や機能的な異常が影響する。我々は、様々な病態における冠血行動態の特徴を明らかにするために、アセチルコリンを用いたスパスム誘発試験を行った患者に硝酸剤を投与後、ATP負荷を行い、最大充血時の冠血行動態を冠攣縮群と非冠攣縮群で比較した。その結果、冠攣縮群では最大充血時の冠微小血管抵抗が有意に高いことを認めた。

 CFRは最大充血時の冠血流量と安静時の冠血流量の比で求められるため、CFR単独では最大充血時·安静時のどちらの異常か判別が難しい。そこで、hMR(最大充血下冠微小血管抵抗)が有用な評価指標となる。hMRは最大充血時の冠微小血管抵抗を示すパラメータであり、冠内圧/冠血流(≒平均血流速度)として算出する。CFRとhMRを組み合わせることで、冠血行動態の特徴を4つのグループに分類できる(図1)。CFRが高くhMRが低いグループは正常な冠血行動態を表している。一方で、その他の3つのグループについては冠血行動態に何らかの異常が存在しているパターンである。各グループにあてはまる主な疾患例を図2に示す。このようにCFRとhMRを同時に測定することで、冠微小循環障害について疾患特異的な血行動態を把握することができ、冠循環不全のメカニズムに基づいた新規治療法開発が期待される。

 

種々の病態における冠血行動態の特徴1
【図1】CFRやhMRは冠血流や冠内圧の動態に影響する。

 

種々の病態における冠血行動態の特徴2
【図2】冠血行動態には疾患特異的なパターンが考えられる。

 

核医学で冠循環不全を深堀する

 半導体SPECTを活用すれば、心筋血流定量の結果から非侵襲的にMPR: myocardial perfusion reserveを測定することが可能である。MPRはトレーサーが心血管から心筋へ移行する速度定数(K1)をRestとStressで測定し、Stress K1/Rest K1として算出できる。実際に当院でMPRの評価を行った事例を2例紹介する。

 1例目は、MPR正常の典型例である。この症例は労作性狭心症を有する60歳代男性で、高血圧症を抱えていたが、その他のリスクファクターは特に有していなかった。冠動脈CTでは有意狭窄は認めず、負荷心電図の結果も有意な異常はなく、心筋血流SPECTでも有意な虚血所見は認めなかった。心筋血流定量の結果では、Rest K1:0.242、Stress K1:0.739であり、MPRは 3.05を示した。この患者はその後外来でフォローしているが、1年半を経過した段階でも良好な経過をたどっている。

 2例目は、MPRが異常を示した症例である。この症例は、発作性上室性頻拍に対するアブレーションの既往がある80歳代女性で、高血圧症、糖尿病、CKDを抱えていた。バイオマーカーはBNP:49.2 pg/mL、Hb:10.1 g/dL、 Ht:30. 8%であった。負荷時の心電図ではT波の陰転化を少し認めたが、冠動脈CTでは有意狭窄病変は認めず、心筋血流SPECTでも有意虚血所見は認めなかった。心筋血流定量の結果では、Rest K1:0.437、Stress K1:0.641であり、MPRは1.47を示した。この患者のMPRが低値を示した要因としては、貧血、糖尿病、CKDなどの患者背景が考えられるが、Rest の血流が過灌流を呈していたことも あり、相乗的に血流予備能の低下につながったのではないかと思われる。冠動脈の血行動態と加齢との関連を調査した研究論文によると、FFR>0.80(高FFR)かつCFR<2.0(低 CFR)の血管は、高齢な患者ほど多く観察されている1)。このような症例では、FFRだけでは虚血を検出することが難しいため、FFRと血流予備能の両方を評価することが大切である。

 近年、INOCA: ischemia and no obstructive coronary artery diseaseという閉塞性冠動脈を有さない虚血性心疾患が重要視されている。患者の中にはCAGで異常所見を認めなかったとしても、スパスムや冠微小循環障害によって虚血を起こしている可能性があるので注意が必用である。図3は慢性冠症候群における心筋虚血の機序を表している。心筋虚血の発生は、必ずしも器質的な冠動脈の異常を伴うとは限らない。また、FFR が正常で心筋虚血が存在するようなケースでは、往々にしてIMRが上昇している。すなわち、冠微小循環障害を起こしているということである。INOCAによる心筋虚血を見逃さないためには、 侵襲的モダリティだけでなく、非侵襲的モダリティによる検査も組み合わせたマルチモダリティアプローチを意識した臨床展開 が望まれる。

 

CCS:慢性冠症候群における心筋虚血の機序

【図3】心筋虚血を見逃さない治療を展開していくには、様々な視点で虚血を評価していくことが重要である。
1) Van de Hoef TP, et al. JACC Cardiovasc Interv. 2020; 13(1): 20-29.
ディスカッション
ディスカッション

渋谷 スパスム誘発試験にはエルゴノビンも使用できると思いますが、アセチルコリンとの負荷法の違いついて教えていただけますでしょうか。

辻田 エルゴノビンはマルチベッセルスパスムを評価しにくいことが懸念されます。スパスムを強く誘発する傾向にあり、 ウェイティングをしても回復しないため、スパスムが誘発されたらニトログリセリンを投与せざるを得ません。一方で、アセチルコリンの場合はウェイティングによる回復が期待できます。冠攣縮の負荷法に関しては、それぞれの特徴、長所·短所がありますので、各々の施設で使いやすい負荷法を採用されるのが望ましいと思います。

渋谷 辻田先生の施設ではhMRの評価をどのようなワイヤーポジションで実施されていましたか。

辻田 心外膜冠動脈が正常な例を対象にhMRの評価を行っていました。冠内圧や冠血流を綺麗に測定することを優先するため、ワイヤーポジションはLADの比較的近位部としました。操作性は悪いですが、再現性が非常に高く、繰り返し綺麗なデー タが得られます。

笠井 アセチルコリンを用いたスパスム誘発試験で冠攣縮を認めず、それでもスパスムがかなり疑われるような場合には、エルゴノビンを追加して評価する必要性はありますでしょうか。

辻田 当院では、アセチルコリン単独による負荷試験がほとんどです。しかし、誘発薬剤によって誘発場所に違いが生じる可能性も考えられますので、臨床的にかなり疑わしい症例にはエルゴノビンを追加して評価することもあります。

高谷 hMRが高いような心不全症例に対しては、ニコランジルによる治療は期待できるのでしょうか。

辻田 hMRが高く、EFが低下しているような心不全症例においては、その病因が微小循環にある可能性を疑いニコランジルを投与することがありますが、確実に微小血管抵抗を改善できるというデータはまだ得ておりません。