NTC46_シンポジウム_松本先生

シンポジウム
Mega trialの結果を受けて(ISCHEMIA·COURAGE·ORBITA·J-ACCESS)

座長

笠井 督雄 先生
魚沼基幹病院

演者

松本 直也 先生
日本大学

コメンテーター

渋谷 清貴 先生
坂総合病院

高谷 具史 先生
姫路循環器病センター

冠動脈石灰化スコア(CACS)による評価の有用性

 近年、安定冠動脈疾患に対する治療戦略において、冠動脈CTの活用が進んでいる。当院では、冠動脈CTを行う前にCACSの測定を必ず実施している。CACSの測定は、低被ばくで造影剤を使わない比較的簡便な検査であるため、外来の初診患者であっても、予約無しでCACSだけを測定することが可能である。

 我々が行った研究では、心筋血流SPECTによるSSS(負荷時合計欠損スコア)の結果が正常、軽度異常、中等度異常になるにしたがい、CACSが高値を示す傾向が見られた。また、CACSが300以上を示す症例では、300未満の場合と比べ SSSが有意に高かった。多変量解析の結果では、CACSが高いほど血行再建が必用となるリスクが有意に高まることが認められた。さらに、CACSが300以上であれば、SSSが正常または軽度異常であっても、比較的晩期に血行再建になる可能性も示された(図1)。

 

Low CACS群とHigh CACS群におけるNormalSSS,Midly abnormal SSS,Moderate to severe SSS

【図1】虚血の程度で層別化したLow CACS群(CACS:300未満)と、High CACS群(CACS:300 以上)の血行再建が必要となるリスク。

 

 CACSは安定冠動脈疾患の予後予測に有用な指標であるが、この指標のみでは正確な予後予測が困難な場合がある。自験例では、CACSが0であったが、胸痛を訴えていたため、冠動脈CTで検査したところ、Noncalcified plaqueを認めた例がある。したがって、胸痛の有無は非常に重要なサインであると考えられる。なお、日本循環器学会の慢性冠動脈疾患診断ガイドライン(2018年改訂版)では、CACSの活用を胸痛のない患者(特に中等度あるいは高度の危険因子を持つ症例)において推奨している。

冠血流予備能(coronary flow reserve:CFR)の活用

 FFRと心筋血流SPECTでは判定結果に乖離が生じる場合がある。その要因の1つとして、Diffuse病変や冠微小循環障害による影響が考えられる。このような症例に対する有用な指標として、CFRが知られている。CFRは安静時と最大冠拡張時の心筋血流量の比であるため、FFRでは反映されない微小循環を含む広範な冠動脈障害を評価できる。CFRとFFRの関係の概念図を図2に示す。Aの領域は正常、Bの領域は「心外膜側血管に狭窄があるが微小循環は障害されていない場合」、Cの領域は「心外膜側血管は正常だが、微小循環が障害されている場合」、Dの領域は「心外膜側血管と微小循環の双方に障害がある場合」を表している。Bのような病態では、 心筋血流SPECTが陰性でありながらFFRは低値を示す可能性があるが、この時のCFRは、低値~正常の値を示しやすいと考えられる。一方で、Cのような病態では、心筋血流SPECTが陽性でありながら、FFRは正常値を示しやすく、この時のCFRは、低値を示しやすいと考えられる。CFRの虚血の閾値は一般的に1.7-2.0で、CFR2.0以上の症例の予後は心事故1.0%未満/年とされている。

 

Comparison of CFR and FFRの図

【図2】CFRとFFRの2つの指標を組み合わせることで、リスク評価の精度を高めることが期待できる。
ISCHEMIA試験の発表を受けて

 本邦では、安定狭心症患者へのPCIの要件として虚血心筋の証明が必要とされてきたが、ISCHEMIA試験の結果では、中等度以上の虚血を有する症例において侵襲的治療方針群と保守的方針群で長期予後に差が認められなかった。血行再建を予定している安定狭心症患者に対するインフォームドコンセントの在り方は今後変わるかもしれない。しかし、実臨床においてはISCHEMIA試験の対象として当てはまらないような不安定な症例、または不安定化する症例も存在することに留意が必要である。ISCHEMIA試験では、LMT病変の症例は対象から除外されている。LMT病変に関しては2016年に発表されたEXCEL試験で、LMTを含む病変では、PCIで15.4%/3年、CABGで 14. 7%/3年もの総死亡、脳卒中、心筋梗塞が起こることが報告されている。この報告を踏まえると、ISCHEMIA試験の対象に含まれなかった症例は、予後の悪い症例であることが推察される。また、我が国における多施設共同研究(J-ACCESS4)では、内科療法または血行再建により虚血心筋量を5%以上減少できなかった症例は予後不良であることが示されている。したがって、フォローアップ期間中に不安定化を示す症例、すなわち新たな症状、心電図変化、心機能低下が出現した症例には心筋血流 SPECTを含む検査をためらうべきではない。

 次に、手技依存性の心事故への影響について私見を述べる。ISCHEMIA試験では、Procedural MI(手技による心筋梗塞)の発生率が侵襲的治療方針群で有意に高かった。虚血性心疾患の治療では、虚血心筋量だけでなく虚血の広がり方にも着目することが大切である。心筋血流SPECT検査を活用すれば「虚血心筋が1枝領域 に10%以上あるのか」、「小さい虚血心筋が複数の血管領域にあるのか」を直感的に診断することが可能である。前者であれば1回の血行再建術で最大の治療効果を得ることができるかもしれないが、後者であれば1回の治療で完全血行再建を達成することが難しいことも予想される。そうなれば手技依存性の心事故が増える可能性もある。図3は対角枝と右冠動脈に狭窄を認める症例の心筋血流SPECT検査による結果である。虚血の広がりは、右冠動脈に比べ対角枝領域で広範囲に及んでいることを確認できる。心筋血流SPECT検査は、このような複数の狭窄病変を有する症例に対し、治療の優先順位を検討する手段として有用である。

 

Case 2: Multiple vessel case:複数回FFRを行い灌流域をイメージしますか?

【図3】心筋血流SPECTを活用することで虚血が起こっている領域と広がりを直感的にも確認することができる。

 

 血行再建の適応に関しては、心筋viabilityの検索も重要となる。梗塞が10%を越えている陳旧性心筋梗塞症例では、虚血心筋量は内科療法に対する血行再建の優位性を示す有意な因子とならなかったことが報告されている1)。心筋viabilityを評価する方法としては201Tlによる心筋血流SPECT検査が有用である。

 慢性冠動脈疾患の予後予測にはCFRによる層別化も期待されている。Murthyらの研究論文によると、CFRはSSSと独立して患者の予後(年間の死亡率)に影響を与えていることが報告さ れている2)。CFRと類似の指標となる心筋血流予備能(MFR)は半導体検出器を搭載したD-SPECTを用いて求めることができる。MFRのカットオフ値については、15O-water PETで妥当性を検証した論文の中で2.1と報告されている3)

 ISCHEMIA試験をきっかけに、今後は患者の状態やモダリティの特性を考慮した包括的なマネジメントの必要性が増す時代となるだろう。

1) Hachamovith R, et al. Eur Heart J. 2011; 32(8): 1012-1024.
2) Murthy VL, et al. Circulation. 2011; 124(20): 2215-2224.
3) Agostini D, et al. Eur J Nucl Med Mol Imaging. 2018; 45(7): 1079–1090.
ディスカッション
CACSの活用について

高谷 心筋血流SPECTが正常でCACSが高値を示すような症例に対しては、どのようにフォローアップを進めていくべきなのでしょうか。

松本 ケース·バイ·ケースではありますが、症状が増悪した場合や、外来診察時に患者が普段とは違う感じを示すような場合が重要なサインであると考えています。胸痛を訴える症例でCACSが300以上あり、心筋血流SPECTで軽度以上の虚血を示すような場合は、非常にリスクの高い症例であると考えます。そのような症例に対しては、当院では造影検査を実施することが多いです。

笠井 非常に大事な点ですね。冠動脈CTでは造影剤を使用するため、高齢者や腎機能の悪い患者に対し簡単には使えません。このような症例には初期のステップでCACSを測定し、高値であれば必要な検査·治療を行うという方法が期待できそうですね。

ISCHEMIA試験の背景について

渋谷 ISCHEMIA試験では、虚血を診断した後に3カ月経ってからランダム化が行われています。しかし3カ月間も間隔が空くと、この間にイベントが発生してしまう可能性があるかと思います。この影響について、松本先生はどのようにお考えでしょうか。

松本 ランダム化までの期間を意図的に3カ月に設定したのかどうかはわかりませんが、結果的に3カ月程の間隔が空いてしまったのではないかと思われます。ある施設では、エントリーを予定していた患者が、ランダム化までの3カ月間にunstable化してしまい、エントリーできなかったという事例もあるようです。個人的には、この3カ月間は、結果的にISCHEMIA試験における患者の良いセレクションに繋がったのではないかと考 えています。