NTC46_指名講演_天野先生

指名講演
糖尿病・透析患者における中性脂肪蓄積心筋血管症(TGCV)診断・治療の意義を考える

座長

平野 賢一 先生
大阪大学

演者

天野 哲也 先生
愛知医科大学

TGCV診断基準(2020年度版)の必須項目と大項目

 2020年に発表された最新のTGCV診断基準では、3項目からなる「必須項目」(図1)、同じく3項目からなる「大項目」(図2)のうち、それぞれを1つ以上満たす場合に「確定診断」、必須項目は1つ以上あるが大項目には該当しない場合に「疑診」とみなす。したがって疑診例においても、TGCVの初期段階をみている可能性があることを念頭に置く必要がある。

 

TGCV診断基準(2020年度版)の必須項目の図

【図1】TGCV診断基準(2020年度版)の必須項目。

 

TGCV診断基準(2020年度版)の大項目の図

【図2】TGCV診断基準(2020年度版)の大項目。

 

 3つの必須項目のうち、MRS(MRスペクトロスコピー)は実施可能な施設が限られるため、実臨床ではBMIPP SPECTおよび心筋生検が中心になる。その中でも非侵襲的な検査であるBMIPP SPECTにおけるWORの低下の確認が最も重要な検討項目であると考える。

 BMIPP SPECTにおけるTGCVの鑑別疾患としては、 疑陽性すなわちWORが低く出やすい広範囲の心筋壊死、 CD36欠損症、ミトコンドリア心筋症といった病態が挙げられる。ただしBMIPP SPECTは特異度の高い検査であり、むしろ偽陰性のほうが問題となる。TGCVであるにもかかわらずWORが高く出やすい代表的な臨床表現型は心筋虚血である。

 自験例において、左前下行枝(LAD)#7に亜閉塞を有し、高度虚血を伴う状態では、BMIPPのWORが24.3%と亢進していた。しかし本症例に対してLADにPCIを施行し虚血が解除されるとWORは5. 0%に低下した。このように高度虚血症例においてはTGCVの診断から漏れてしまう可能性があることを念頭に置かなければならない。

 TGCV診断基準の大項目としては、心エコーによる左室駆出率40%未満の心機能低下、冠動脈造影あるいは冠動脈CTにおけるびまん性の冠動脈硬化、採血からの典型的なJordans異常──すなわち末梢血の多核白血球の空胞化について検討を行う。

TGCV合併糖尿病例におけるPCI成績

 TGCVは基本的に稀少疾患ではあるが、糖尿病や血液透析の患者においては一般人口に比べてTGCVが高率に潜在している可能性がある。われわれが狭心症患者(400例/6年間)をBMIPP SPECTで評価したところ、TGCVの確診例 (TGCV診断基準第4版)は3.5%、疑診例は10.0%であった1)。一方、透析患者(88例/7年間)を対象とした評価では、確診例は19%、疑診例は25%であった1)

 では、このように冠動脈疾患を合併したTGCV患者にPCIを施行した場合の成績はどうなるのか。我々は糖尿病患者をTGCV合併群と非合併群(コントロール群)に分け、第2世代DES(薬物溶出性ステント)施行後のアウトカムを解析した2)(TGCV合併群:7例15ステント、コントロール群:74例 111ステント)。

 その結果、晩期内径損失はTGCV合併群が0.91mmとコントロール群の0.15mmに対して有意に大きかった。同様に、TGCV合併群では半数近い患者が再狭窄をきたし、3人に1人が再血行再建を必要としており、コントロール群に比べてPCI成績が明らかに悪かった。

 これらの結果をまとめて2020年のJAMA Network Openに報告しているが3)、その際にさらなる知見として、TGCV合併群ではコントロール群に比して再狭窄形態がびまん性ないし閉塞性である場合が多いこともわかってきた。

 自験例を示す(図3)。左がTGCV合併糖尿病例であり、右がTGCVを伴わないコントロールである。ともにPCI後の再狭窄が認められるが、コントロールの病変が限局性であるのに対し、TGCV合併例はびまん性の再狭窄を呈している。このような形態はDES後再狭窄病変としては珍しい。

 

TGCV Vs DMの図

【図3】TGCV合併糖尿病例(左)ではPCI後のびまん性再狭窄を認める。
1) Nakano Y, Amano T, et al. European Society of Cardiology 2019.
2) Nakano Y, Amano T, et al. American Heart Association 2019.
3) Nakano Y, Amano T, et al. JAMA Netw Open. 2020; 3(8): e2012583.
透析患者におけるTGCV罹患率、長期予後

血液透析を継続している患者654名のうち、冠動脈疾患が疑われる83名を解析した結果、TGCVの確診例が17名(20.5%)、疑診例が22名(26. 5%)であった4)。これらの確診例、疑診例および非TGCVコントロール群(44名)の3群における長期予後を検討した。主要評価項目を心血管死、心筋梗塞、脳梗塞としたところ、TGCV確診例、次いで 疑診例で明らかに予後が悪いことが確認された。さらに、評価項目に再血行再建および心不全入院を加えるとさらに予後の違いは顕著となり、また心血管死亡率、心不全率、全死亡率もTGCV合併群で高かった。死亡の原因を詳細にみてみると、TGCV確診例で突然死が2例あり、TGCVにおける心筋症ないし冠動脈疾患を契機としてfatal arrhythmia(致命的な不整脈)をきたした可能性が示唆される。

4) Onishi T, Amano T, et al. Heart 2021;107: 127–134.
1日でも早い難病克服を目指して

糖尿病・透析合併の心疾患患者の予後不良に深く関与している可能性のあるTGCVの治療法として、現在、中鎖脂肪酸であるトリカプリンをカプセル化した医薬品の開発に向けた臨床試験が進められている。
 Take-Home Message(図4)としては、まずはTGCVという疾患を知っていただくことが第一段階である。TGCVは必ずしも稀少疾患とはいえず、糖尿病患者、血液透析患者では 潜在率が高い可能性がある。したがってまずは診断することが重要であり、図4に示すようなケー スはTGCVを疑っていただきたい。

 

Take-Home Message

【図4】TGCVが必ずしも稀少疾患ではないことを念頭に診断を行う。その際には必須項目筆頭の BMIPP SPECTのWOR解析が非常に重要となる。

 

 特にその症例が糖尿病患者や透析患者であれば、TGCV診断基準(2020年度版)の大項目に基づき、 心エコーで心機能低下がないか、冠動脈CTあるいはCAGでびまん性の病変がないかを確認する。何よりも重要なのは、必須項目であるBMIPP SPECTにおけるWORを解析することである。それによってTGCVをより多く診断し、薬剤による改善の契機とすることで、予後の悪いこの疾患を1日でも早く克服していきたい。