NTC46_テーマディスカッション_横井先生

テーマディスカッションⅡ
慢性冠動脈疾患診療2020年度診療報酬改定を読み解く~2022年度(令和4年)診療報酬改定を見据えて~

座長

中田 智明 先生
函館五稜郭病院

伊苅 裕二 先生
東海大学

演者

横井 宏佳 先生
福岡山王病院

コメンテーター

阿古 潤哉 先生
北里大学

田倉 智之 先生
東京大学

2020年度診療報酬改定の概要と経緯

 2020年4月の診療報酬改定では慢性冠動脈疾患診療に関する領域において、冠攣縮性狭心症診断における誘発薬物負荷試験の増点(600点→800点)、経皮的冠動脈形成術(急性心筋梗塞に対するもの)のPCI手技料の増点(32,000点→36,000点)、そしてロータブレータに代表される特殊カテーテルによる経皮的冠動脈形成術の施設基準の変更が行われた。外科のバックアップのない施設においても、日本心血管インターベンション治療学会(CVIT)の認定またはその施設認定に準じた基準を備えていれば施術可能となった。
 こうした改定を実現できた背景には、行政との信頼関係を築くとともに、我々臨床側から診療報酬改定の議論の場に実臨床データに基づく根拠ある意見を挙げられたことが大きい。また学会によるPCI施術のクオリティーコントロールが可能な体制があることを示せたからこそ、施設要件緩和への理解が得られた。我々臨床現場の意見を保険報酬に反映するにはこうした実証データの裏付けが不可欠であり、翻って言えば我々が適正と捉えている診療のあり方を根拠ある形で提言することで報酬や制度をより現場に即したものに変更できることが示されたと捉えている。

改定の背景にある「適正な診療」の評価

 2020年度診療報酬改定に関する厚生労働省の資料1)では「診療ガイドライン等に基づく質の高い医療の適切な評価を進める」観点から報酬上の評価や要件を見直した、と趣旨が説明されている。
 例えば、前述の「トレッドミル検査」の増点の背景には、本邦の各種ガイドラインでトレッドミル法が負荷心肺機能検査の手法のなかで最も重要な検査に位置づけられていることにある。
 一方で、冠動脈CT検査については、撮影した医学的根拠を記載することを求める算定要件が新設され、適用条件が厳格化された。この背景には図1に示したように日本での冠動脈CT検査件数が右肩上がりで増え続けている現状がある。冠動脈造影検査(CAG)はほぼ横ばいで推移し、心筋血流SPECT検査はわずかに減少傾向にある。つまり冠動脈CTには過剰な検査が存在するのではないか、という疑義が診療報酬改定の議論の場で指摘されている訳である。

 

冠動脈CT撮影加算の算定に「医学的根拠の記載」の要件が新設された意図

【図1】2020年度診療報酬改定では冠動脈CT撮影の算定要件が厳格化された。背景には検査件数の増加がある。

 

 今後の診療報酬改定を見据えると、我々はこうした「指摘」に対して、診療行為やその結果としての検査件数の「適切さ」を示す論拠となるデータをまとめ、診療ガイドラインにも反映しながら診療報酬や制度の改正の議論に意見を挙げていく必要がある。

1) 厚生労働省保健局医療課.令和2年度診療報酬改定の概要(技術的事項), 令和2年3月5日版.
冠動脈CT検査の海外ガイドラインの位置づけ

 それでは海外の冠動脈CT検査の位置づけがどうなっているのかを振り返ってみたい。改訂されたESCの2019年の ガイドライン2)では、検査の前に胸部症状を精査し、検査前診断確率という概念によりその後の検査を判断する手法が導入された。臨床症状を「典型的な狭心症」、「非典型的 な狭心症」、「狭心症以外の症状」と「呼吸困難」に4分類し、年齢、性別を加味した検査前診断確率を算出して一定以上であれば検査を実施する診断の流れである。

 検査前診断確率の低い患者の検査の第一選択肢は、従前の運動負荷試験から冠動脈CT検査に変更された。一方で、冠動脈疾患のリスクの高い患者は虚血評価を優先する。さらに症状が頻回であるなど冠動脈疾患が強く疑われる場合には早急な血行再建に対応するCAGの実施が適切と整理している。

 冠動脈CT検査を評価する流れは米国でも同様である。近年の多くの研究結果を踏まえ、冠動脈CT検査を評価する流れがあり、米国からもレビュー論文として冠動脈CTが慢性冠症候群 (CCS)に対する検査の第一選択となりえると報告3)されている。

2) Knuuti J, et al. Eur Heart J. 2020; 41: 407-477.
3) Poon M, et al. J Am Coll Cardiol. 2020; 76(11): 1358-1362.
冠動脈CTを評価する背景

 冠動脈CTの陰性的中率の高さは従前から示されていたが、SCOT-HEART試験4)では胸部症状を有する冠動脈疾患が疑われる患者を運動負荷検査をメインとしたスタンダードケア ファースト(運動負荷心電図:86%、心筋血流SPECT:9%)と、 冠動脈CTファーストにランダマイズした結果、5年間のフォローで冠動脈CTファーストが心臓死や心筋梗塞の発症を有意に減少させた。冠動脈CTにより早期にプラークが発見でき、より早期のスタチン製剤の投与につながりプラークの安定化、急性冠症候群(ACS)発症の予防になると推察されている。

 虚血評価によるランダマイズの試験デザインではあるが、ISCHEMIA試験5)は解剖学的所見を早期に診る重要性を示したものとしても評価されている。同試験では実は対象者の組み入れの時点で全例の冠動脈CTを撮影し、LMT病変を除外する手続きがとられていた。虚血評価の前に解剖学的評価を取り入れたことで早期の侵襲的検査が低減され、OMT群を設定した長期のフォローアップ試験を実現することにつながったと評価されている。

 また、心カテ室に入る前のさまざまな検査の診断能に疑義を提起する報告も出てきている。ACCのレジストリーデータ約40万件を評価した研究では6)、CAGでは39. 2%の冠動脈は正常であったとされている。

 こうした現状を変える検査技術として冠動脈CT検査をベースとするFFRCTが注目されている。PLATFORM試験7)では胸痛を有する冠動脈疾患が疑われる患者を、従来の診療ストラテジーと必要に応じてFFRCTを加えた群でランダマイズし結果を評価している。非侵襲的な評価を行わずにCAGが計画された群(通常検査群)と冠動脈CTファースト群(必要に応じてFFRCT)で比較した場合、CAGにより冠動脈正常が確認された患者の割合は、通常検査群73.3%に対して冠動脈CTファースト群(必要に応じてFFRCT)12. 4%となり、計画されたCAGが不要となった割合が61%であったと報告されている。

 日本においても2018年12月からFFRCT検査が保険償還された。本邦における現行のガイドラインにおいては、保険償還の決定直後のガイドライン改定であったため検査の推奨度はClassⅡbである。海外のガイドラインではより高い位置づけがなされており、本邦でも今後は他の非侵襲的虚血検査とFFRCTのすみ分けについての議論が進められることになるだろう。

4) The SCOT-HEART investigators. Lancet. 2015;385(9985): 2383-2391.
5) Maron DJ et al. N Engl J Med. 2020; 382(15): 1395-1407.
6) Patel MR, et al. N Engl J Med. 2010; 362: 886-895.
7) Douglas PS, et al. Eur Heart J. 2015; 36: 3359-3367.
安定冠動脈疾患に対するPCIの診療報酬上の位置づけ

 安定冠動脈疾患に対するPCIの施行については2018年度改定で導入された「機能的虚血評価」の算定要件が大きなポイントである。2020年度改定でも算定要件の一番はじめに記述されるなど引き続き診療報酬請求上で「適正なPCI」であることを示す重要な指標となっている。この2018年度診療報酬改定の影響については、東京大学の田倉智之先生の協力を得 て、医療経済的観点からビッグデータを用いた解析をしていただいている。2018年度からの「機能的虚血評価」要件の導入による各検査件数への影響を2017年と2018年のデータを比べると、①冠動脈CTが15%程度減少、②心筋血流SPECTはほとんど変動なし、③侵襲的FFRは急増し3割程度増加、④CAGは10%程度減少――という実態が示されていた。

 またPCI件数については、1施設当たりの件数はほとんど変動がなかったものの、年間50件未満の実施件数の少ない施設で減少傾向が認められた。施術内容については、1回のPCIにおけるステント本数が1.20本から1.17本へと減少し、施術コストも減少していた。したがって、2018年度診療報酬改定によりわずかではあるがCCSの診断、治療を適正化する傾向にあったと推察されている。

 日本は米国に比べて、または世界に比べても、圧倒的にCCS患者のPCIが多い実態がある。図2左に示したようにACSとCCSの施術件数比は米国の割合と逆転している現状がある。また欧州(図2右)でもCCSのPCIの減少が確認できる。こうした本邦での施術の実態を我々はどう解釈し、今後どのようにしていくべきか、幅広い議論が必要になるであろう。

 

日本のPC治療の現状についての図

【図2】日本は米欧に比べ安定冠動脈疾患に対するPCI件数が多い実態がある。診療報酬改定の場では件数「適正」が問われる。

日本循環器学会もガイドラインを改訂へ

 欧米の近年のガイドライン改定の流れを踏まえ、日本循環器学会でのガイドライン改定作業が始まっている。「慢性冠動脈疾患の診断と治療」についてはフォーカスアップデート版として、来年3月の日本循環器学会での発表を予定し、改定内容は2022年度診療報酬改定にもインパクトを与えることが予想される。

 また、診療報酬改定の議論においては費用対効果の観点も重要な評価軸となってきている。函館五稜郭病院の中田 智明先生が研究代表者を務め、日本のCCSの実態を調べるJ-CONCIOUS研究もスタートしている。本日のテーマであるCCS診療も、治療行為の医学的な適正だけでなく社会経済的な適正を踏まえた「広い視野」を持って今後の報酬、制度改定に向けて議論していく必要があると捉えている。

 

 

 

ディスカッション
各種検査のガイドライン上の位置づけディスカッション

阿古 虚血評価や冠動脈疾患の診断において、現状のガイドライン上の運動負荷心電図検査の位置づけが高過ぎる気がしています。実臨床における虚血の評価は心筋血流SPECT検査を中心に施行されています。さらにFFRCTの登場により、CTの虚血評価への応用が進み、臨床におけるプラクティスが変わってきています。今後のガイドラインでは、その辺りをしっかりと整理していかなければならないと個人的には考えています。

吉川 阿古先生と同意見です。冠動脈CTを用いたFFRCTの普及により虚血も評価できるようになってきました。また、冠動脈CT画像については、患者に自分の冠動脈を見てもらうことによる病識理解や治療へのアドヒアランス向上に資する実臨床上の意義も見逃せません。そうした意味でもFFRCTへの期待感があり、日本国内で使いやすい環境になってもらいたいと考えています。

伊苅 運動負荷心電図の心疾患診療における位置づけの再検討については、私も同意見です。運動負荷心電図検査にともなう死亡率は1万件に1件とも報告されており、診断アルゴリズムの上流に配置し、原則的に実施する検査としてはリスクが高い検査のように感じています。欧州のガイドラインで示されたように冠動脈CTを重視した設計とする方が適切ではないかと考えています。

安定冠動脈疾患に対するPCIのあるべき姿

伊苅 PCI件数について意義に乏しい施術を止めるべきという意見には当然賛同します。一方で件数の比較対象とされた米国と日本のおかれた状況と医療基盤は大きく異なります。適切な比較対象と言えるのかご意見をいただければと考えております。

横井 日本には皆保険制度があり、各種検査の基盤がどの地域にもあります。米国をはじめとする各国に比べて心疾患の早期診断が可能な環境にあると感じています。それが結果的にACSになる前のCCS段階での治療介入が多い要因の一つと考えています。だからこそ、このCCS段階での診断・治療の適切さを追求し、さらに医療経済学的な合理性もある形でエビデンスを示し、日本が世界で一番ACSを発生させにくい安全な国であることを確立していかなければいけないと捉えています。

慢性冠症候群における虚血評価の各モダリティの使い分けと心不全に対する虚血評価の重要性

横井 今後の虚血診断におけるFFRCTと心筋血流SPECTの役割についてどのようにお考えでしょうか。

中田 両検査にもちろん期待しています。慢性冠動脈疾患の場合には検査と診断における時間的余裕があるため、虚血評価においては負荷心筋血流SPECTを施行し、心機能と虚血の範囲を確認した上で、合理的な理由を持って入院やCAGを判断したい、というのが基本的なスタンスです。
 また患者の予後を検討する際には心機能の評価を外すことはできません。心筋血流SPECTの場合には一回の検査で虚血評価から心機能評価まで可能な検査手法上のメリットがあります。各モダリティが進化して、使い分けができると素晴らしいと思います。

伊苅 高齢社会化が進み、心不全は本邦に罹患者数が120万人いるとも推計されています。対応が喫緊の課題ですが、この心不全の原因の1位は虚血です。だからこそ我々はしっかりと 虚血評価を実施し、適切な治療に結び付けていかなければいけない。虚血評価と検査のあり方は、今後も非常に重要なテーマとなってくると思います。ありがとうございました。