NTC46_テーマディスカッション_吉川先生

テーマディスカッションⅠ
無症候例に対してどう診療するか?~診断から治療後フォローアップまで~

座長

中田 智明 先生
函館五稜郭病院

伊苅 裕二 先生
東海大学

演者

吉川 昌樹 先生
福山市民病院

コメンテーター

阿古 潤哉 先生
北里大学

田倉 智之 先生
東京大学

無症候性心筋虚血(SMI)の定義と概要

無症候性心筋虚血(silent myocardialischemia; SMI)は、胸痛などの狭心症を示唆する自覚症状を認めない症例において、客観的な心筋虚血所見が存在する状態と定義されている1)。狭心症治療薬を投与しても心筋虚血が十分コントロールされていない患者、糖尿病、高齢者のほか、心筋梗塞の既往や冠動脈バイパス手術(CABG)術後などに多いことが報告されており、臨床上注意が必要になる。

 SMIは一般的にCohn分類2)により

I型 心筋虚血が存在するが、まったく無症状のもの
Ⅱ型 心筋梗塞後で胸痛を伴わない心筋虚血発作がみられるもの
Ⅲ型 明らかな狭心症発作とともに無症状の心筋虚血発作がみられるもの

に3分類されている。
 出現頻度については、Ⅰ型は心筋虚血の客観的評価が必ずしも容易でなく正確な頻度は不明である。Ⅱ型は心筋梗塞例の15~30%に認められる。Ⅲ型が最も頻度が高く、安定狭心症例の20~50%、不安定狭心症例の30~40%に含まれることが本邦の「慢性冠動脈疾患診断ガイドライン(2018 年改訂版)」3)でも示されている。
 一方でSMIは見かけ上の健常成人においても存在することが報告されている。欧米の研究では運動負荷心電図検査で1.2%~6.0%、48時間ホルター心電図検査で11.4%、動脈硬化の高リスク症例では心筋血流SPECT検査で27%程度が確認されている。また無症状のボランティアを心筋血流SPECTと運動負荷心電図の両検査で評価したところ、SMIが証明された割合が70歳以上で約15%との報告3)もあり、高齢者にかなり多い傾向が示されている。
 Ⅱ型およびⅢ型は定期診療時の心電図や心筋血流SPECT等の検査により検出されるが、Ⅰ型はそもそも症状を認めないため、臨床上、検出が困難である。そのためⅠ型をどう診断に結び付けるかが臨床における課題となる。
 特に心筋梗塞例や狭心症例における出現頻度が高いことから、SMIが存在することを前提に診療を進めることが肝要である。必要に応じて24時間ホルター心電図検査、運動負荷試験、負荷心筋血流SPECT検査などの所見を統合して評価を行うことになる。

1) Conti CR, et al. J Am Coll Cardiol. 2012; 59(5): 435-441.
2) Cohn PF. Am J Med. 1985; 79(3A): 2-6.
3) 日本循環器学会. 慢性冠動脈疾患診断ガイドライン(2018年改訂版)
SMIのスクリーニングとリスク評価

 SMIのスクリーニングは、日本動脈硬化学会が作成した「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2017年版」4)の冠動脈疾患発症リスクに基づく脂質異常症のスクリーニングのフローチャートを活用することが有用である。
 LDL-C>120mg/dLの対象患者に対し、冠動脈疾患の既往があれば二次予防となる。「なし」の場合には、糖尿病、慢性腎臓病(CKD)、非心原性脳梗塞、末梢動脈疾患(PAD)が認められた場合は高リスク群に分類される。こうした疾患を認めない場合には「吹田スコア」を用いてリスク分類を行う。
 吹田スコアは年齢、性別、喫煙歴、血圧、HDL-C、LDL-C、耐糖能異常の有無、早発性冠動脈疾患家族歴の有無の危険因子をスコア化し、合計スコアによりリスクを3分類するものである。
 しかし、計算式が煩雑となるため、臨床応用のための簡易版(図1)も提唱されている。簡易版では、危険因子である喫煙、高血圧、低HDLコレステロール血症、耐糖能異常、早発性冠動脈疾患家族歴のうち当てはまる数をカウントし、性別、年齢区分と併せてリスク評価を行う。
SMIが疑われる患者についてもこうしたフローチャートによりリスク評価をし、リスクに応じて精査することが適切であろう。

 

冠動脈疾患要望から見たLDLコレステロール管理目標設定のためのフローチャート図

【図1】SMIのスクリーニングには、「冠動脈疾患発症リスクに基づく脂質異常症のスクリーニング」のフローチャートが有用である。

 

4) 日本動脈硬化学会. 動脈硬化性疾患予防ガイドライン2017年版.
SMIの診断 国内外のガイドライン

 SMIの診断は、「慢性冠動脈疾患診断ガイドライン(2018年改訂版)」3)の安定冠動脈疾患を疑う患者の心筋虚血の診断アルゴリズムに準拠して実施していくことが適切であろう。運動可能な患者は運動負荷心電図検査を実施する。運動不能の患者はDukeスコアによるリスク評価の上で各種検査により精査する。この際に同スコアは[(運動時間)-5×(最大ST降下mm)-4×(狭心症スコア0~2)]から算出するため、SMIは胸部症状がなく高リスク評価となりづらいことに留意する必要がある。
 安定冠動脈疾患を疑う患者に対する検査は、本邦のガイドライン3)において運動負荷心電図検査がClassⅠと推奨されている。運動負荷不能例や評価不能例には負荷心筋血流SPECTを実施する(ClassⅠ)。冠動脈CTはClassⅡaと評価されている。
 一方で、欧州心臓病学会(ESC)のガイドラインにおける各種検査の位置づけは異なる。冠動脈疾患の有意狭窄を見つける各種検査の感度・特異度に関するメタアナリシスでは、運動負荷心電図は感度58%、特異度62%、冠動脈CT(同97%、78%)や心筋血流SPECT(同87%、70%)に比べて低くなっていた5)。こうしたデータに基づき「ESC慢性冠症候群の診断と管理に関するガイドライン2019」6)における、負荷心電図検査は「運動耐容能、症状、不整脈、血圧反応、イベントリスクの評価のため」についてはClassⅠであるものの、基本的には虚血評価の感度、特異度が低い検査と認識した上で評価することを求めている。運動負荷心電図検査は、本邦のように安定冠動脈疾患に対して最初に適用する検査には位置づけられていない。

3) 日本循環器学会. 慢性冠動脈疾患診断ガイドライン(2018年改訂版)
5) Knuuti J, et al. European Heart Journal. 2018; 39: 3322-3330.
6) 2019 ESC Guidelines for the diagnosis and management of chronic coronary syndromes. European Heart Journal. 2020; 41: 407-477.
SMIの治療方針の決定

 SMIの治療方針は、基本的には有症候性への対応と同様になる。無症候性であることから血行再建術を施行しても主観的な改善を認めないことも想定される。各種検査法で心筋虚血の範囲や程度を十分把握した上で、QOLの向上や予後改善を目的とした治療方針を決定していくことが重要である。
 冠動脈疾患の事前診断を受けていないSMIにおける心筋虚血エリアから見た予後予測因子についての研究では、核医学検査による虚血心筋量7.5%以上で心筋梗塞や心臓死が増加することが報告されている7)。虚血領域を可能な限り低減する治療が重要である。
 また各種大規模研究の結果を踏まえ、治療の選択を検討することも有症状例と同様である。FAME2試験では、冠血流予備量比(FFR)ガイドによる虚血評価の上PCI治療を実施することが短期的にも長期的にも望ましいことが示された。また、COURAGE試験のNuclearサブ解析では、安定冠動脈疾患患者のうち虚血心筋量が10%以上の高リスク症例において、PCIで虚血領域を5%以上治療できると予後が良好であることが示された。さらにPCI後6-18カ月の残存虚血が多いと予後不良であり、特に1.0~4.9%の少量の残存虚血であっても予後に影響することが示されている。
 一方でISCHEMIA試験では10%の虚血心筋量を有する安定冠動脈疾患患者にPCI、CABGの侵襲的な治療群と至適薬物療法(OMT)を実施した群を比較したところ、初期は OMT群のイベント発生が少なく、後期は侵襲的な治療群で少なくなることが示された。結果の解釈は様々に議論されているが、どちらの群でも5年で対象患者の15%以上でイベントが発生する事実は認識する必要があるだろう。

7) Zellweger MJ, et al. J Nucl Cardiol. 2009; 16(2): 193-200.
治療後の評価とフォローアップ

 本邦のガイドライン3)において、各種リスクファクターの管理を狭心症のOMTと合わせて適切に実施することが必要とされている。
 SMIの存在確認のために定期検査を実施することに対しての十分なエビデンスは示されていないが、併存疾患やリスクファクターの進行・増悪が疑われた場合には、治療効果判定を行うことが望ましいとされている。また再狭窄における虚血例の半数以上が無症状であることが知られている。有症状例より予後は悪くはないものの、虚血範囲が広ければ心イベントリスクは高くなる。治療後の無症候性の再狭窄のリスクは常に念頭に置きフォローアップにあたるべきであろう。
 治療評価の指標としては、負荷心電図、ホルター心電図、負荷心エコー、負荷心筋血流SPECTの各検査が中心となる。特に糖尿病患者はSMIを合併することが多い。心筋梗塞を合併する糖尿病患者の予後は悪く特段の注意を要する。
 治療効果に関しても、安定冠動脈疾患の治療に準じることが適切であろう。心筋梗塞の有無により、まず生存心筋や心筋壊死の評価を実施する。心筋梗塞があれば負荷心筋血流 SPECTや心臓MRIの検査を実施する。SMIに関しては、運動負荷心電図、負荷心筋血流SPECT、冠動脈CT、冠動脈造影など各種のモダリティを活用して良いとされている。

3) 日本循環器学会. 慢性冠動脈疾患診断ガイドライン(2018年改訂版)
3) 日本循環器学会. 慢性冠動脈疾患診断ガイドライン(2018年改訂版)

 治療効果判定と予後予測については、私見ではあるが中等度狭窄病変に関してはできるだけ全てPCI術中にFFRによる評価をし、術後のフォローアップ方針につながる情報を得ておくことが適切と捉えている。
 日常生活における無症状の発作を捉えるにはホルター心電図検査が有用であるが、疑陽性例が平均10%程度存在することに留意が必要である。また、実臨床で頻繁に実施するのは難しい検査でもある。そのため、他の方法でSMIを疑う所見を捉えることが重要となる。
 当院でのSMI発見の契機は、定期受診時の陳旧性心筋梗塞や狭心症の確認、かかりつけ医からの紹介、PADの精査で冠動脈疾患が認められたケースが多かった。かかりつけ医の先生方の「いつもと違う心電図変化」など違和感のご指摘が非常に重要な契機となっている。そのため、かかりつけ医と高リスク患者の評価方法を再確認しておくことが大切と考えている。
 当院では心筋虚血の判読可能な心電図結果を呈し、十分量の運動が可能な患者については、運動負荷心電図により負荷をかけすぎない形でフォローアップしている。治療効果判定は半年後を目途に、運動負荷心筋血流SPECT検査を実施し、その後2年ごとにフォローアップする方針を採っている。
 注意すべき事項の一つには、症状を有しない疾患の特性を背景とする治療からのドロップアウトがある。当院のデータでも、PCI後の外来虚血評価によるフォローアップのドロップアウト(治療離脱)が1割弱存在していた(図2)。無症状の患者は治療離脱率が高いことが予測されるため、治療継続の働きかけも重要であろう。その点では病識を持っていただくために冠動脈CT画像を用いてご自身のプラークの状況を見てもらうことも有用である。もし検査が可能であれば、その際に必要に応じてFFRCTの解析を行い、侵襲的な検査の必要性を検討することも有用であろう。

 

PCI後の外来時 虚血評価6-12カ月(自験例)の円グラフ

【図2】2019年1年間のSMI患者のPCI後の検査状況。無症状のため、定期通院もされなくなる患者(ドロップアウト)も多く留意が必要である。

 

ディスカッション
ISCHEMIA試験を踏まえたSMIの治療選択

中田 思い起こせば1990年代、無症候性心筋虚血(SMI)が日本循環器学会などでも大きなテーマとなり、その機序、診断法、予後に関する議論が随分なされました。超高齢社会に入り、慢性腎臓病、あるいは糖尿病の患者が増える中で、無症候性の患者も増えています。心筋虚血を背景とした典型的な症状を生じることなく心不全などを起こし、心疾患で亡くなる方もいる中で、もう一度このSMIに焦点を当ててご講演いただきました。

阿古 ISCHEMIA試験では10%以上の比較的大きな心筋虚血のある患者においても、PCI施行とOMTによる予後の差が認められなかったと報告されています。従来の大規模検証研究結果との整合性に悩んでいる現状があります。何かお考えがありましたらお聞かせいただければと思います。

吉川 薬物療法がしっかり適用され、心筋血流SPECTによる評価で虚血心筋量の減少が認められれば予後が悪くないことが別の各種研究で報告されています。ISCHEMIA試験でもそうした側面があるのかと思いますが、そうでないのであれば、まだ何とも評価しきれないというのが現状です。

中田 ISCHEMIA試験における、虚血領域の程度と予後の関係性についてはCOURAGE試験のNuclearサブ解析ほどは詳細な検討が進んでない現状があります。
 COURAGE試験は、安定狭心症例における早期の血行再建が予後改善に寄与しないという結果でした。一方でNuclearサブ解析では治療前後に心筋血流SPECT検査を施行していた症例を抽出して分析すると、5%以上虚血領域の改善があれば予後改善につながることが示唆されていました。COURAGE試験全体では虚血心筋量が5%未満の軽症例も対象に含まれているため、虚血領域の変化と治療介入の実態を明らかにするという点では、試験の対象患者の組み入れ基準が甘かった側面もあるのかもしれません。
 それに対してISCHEMIA試験では虚血心筋量10%以上の明らかな虚血がある患者を対象にしています。心疾患リスクが明らかな患者群であり対象群は明確です。どの程度の虚血レベルにより患者をインターベンションとOMTに選別すべきかについては、今後のサブ解析でもう少し詳しいデータが示されるのではないかと考えています。
 一方で、虚血心筋量が大きいほど血行再建による予後改善効果が大きいことは、Hachamovitchらの報告に代表されるように従来から明確に示されています。内科療法が進歩する中でOMTによる予後改善を示す報告が数多く出てきていますが、どこかに血行再建術施行の方が適切となるクリティカルなポイントがあるはずです。それが虚血領域10%以上なのか、15%以上、または20%以上なのか、今後の研究によりこの数値以上であればPCI施行が適切というデータが示されるのではないかと期待してます。
 近年の大規模研究により、PCIが不必要という評価がされたわけではありません。COURAGE試験やISCHEMIA試験においても、アンコントローラブルな狭心症の場合には適切に虚血評価した上でPCIを検討するよう記述されています。きちんとケースを選別して至適治療を目指そう、ということが研究の趣旨であることを理解しておく必要があると感じています。

阿古 ありがとうございます。SMIでも心不全を認め、左心室機能不全があれば血行再建群の方が予後良好という報告もなされています。ISCHEMIA試験については、今後のSMIなどでのサブ解析に期待したいと思います。

中田 阿古先生のおっしゃる通り、SMIでは狭心症症状の有無にこだわるよりも、心機能の状態に目を向けた方が治療上適切な判断が可能であるように感じています。実際にSMIにおける心機能不全、例えば運動耐容能や労作時呼吸困難感などの結果が予後に影響するというデータが数多く報告されています。今後はそうした影響因子も加味した研究を進める必要があると思います。皆さんありがとうございました。