NTC45 教育講演Ⅰ 香坂先生

教育講演Ⅰ 保険診療の中で心筋SPECTを再考する③

座長

玉木 長良 先生
京都府立医科大学

中村 正人 先生
東邦大学医療センター大橋病院

演者

香坂 俊 先生
慶應義塾大学

冠動脈疾患の診断・治療戦略に関する最新のエビデンス
~ISCHEMIA Trialの結果を踏まえて~
ISCHEMIA試験のデザイン

 安定狭心症例(血管造影で有意狭窄あり)を対象としたCOURAGE試験(2007年)では、至適薬物治療(OMT)のみの群とOMTにPCIを追加した群で、死亡率、心筋梗塞発症率に有意差は認められなかった1)。さらに、短期の安定症状のコントロールはOMT+PCI群で有意に抑制されたが、長期的にはOMT単独群の非発症率がOMT+PCI群に迫っていた2)。一方、COURAGE試験のサブ解析や他の報告3)では、虚血領域が広いほど血行再建群が薬物治療群に比べて予後良好であった。
 以上の結果を踏まえ、我が国では2018年春にPCIの算定基準に虚血の評価が足されることとなった。
 この流れの中で昨秋、ISCHEMIA試験の結果が発表された(図1)4)。対象は虚血領域が10%以上の安定狭心症例で、ランダム化によりOMT単独群とOMT&カテ(PCI/CABG目的)群に振り分けられた。注目すべきは「Strategy Trial」という方式を採っている点である。単純に心カテを実施するかしないかの比較ではなく、OMT単独群に割り付けられても、経過中にACSないしACSに近い病態を呈した場合は心カテを実施する。その際のFFRの評価法なども詳細に定められている。このストラテジーに則ることで長期予後がどう変わるのか検証するというスタイルをとっている。
 全世界的な規模で約5,100例を対象に5年間追跡が行われた。当初、OMT単独群に割り付けられた患者の28%に診断カテを、23%にPCI/CABGを施行している。

 

ISCHEMIA試験のデザイン

【図1】外来でランダム化までのプロセスを行う。OMT単独群に振り分けられた患者は、虚血領域が10%以上であっても入院せず引き続き診療を継続。

 

1)Boden WE, et al. N Engl J Med. 2007; 356(15): 1503-1516.
2)Weintraub WS, et al. N Engl J Med. 2008; 359(7): 677-687.
3)Hachamovitch R, et al. Circulation. 2003; 107(23): 2900-2907.
4)Maron DJ et al. N Engl J Med. 2020; 382(15): 1395-1407.
試験結果と心筋血流シンチの今後の位置付け

 ISCHEMIA試験での心有害事象発症率は、短期では侵襲的治療群(PCI/CABG)が保存的治療群(OMT単独)よりも高いが、長期的には逆転し、全体のハザード比に有意差はなかった。
 現段階で報告されているサブグループ解析によると、狭窄が1枝のみであれ2枝、3枝以上であれ、またproximal LAD(左前下行枝近位部)の病変の有無や虚血の程度にかかわらず、侵襲的治療群と保存的治療群の間で有害事象発症率に大きな差はなかった。一方、QOLの改善については侵襲的治療群で有意に優れていた。無症状となる可能性も侵襲的治療群の方が高かった。
 当院もISCHEMIA試験に参加した。その際の印象では、中等度以上の虚血があったとしても、安定狭心症は「安定」した経過をとる。これはCOURAGE試験の結果と同等である。両試験で異なるのは、ISCHEMIA試験では侵襲的治療であれ保存的治療であれ、5年間での心有害事象発生率が15%程度に上ることである。COURAGE試験よりはるかに多く、虚血領域の定量的評価はリスク推定に依然として重要といえる。
 また「Shared decision making」として、今後はISCHEMIA試験の結果を踏まえ、患者さんの価値観に照らし合わせつつ、外来で心カテを実施するかどうかを医師・患者間でディスカッションすることが必要となる。
 心筋血流シンチの役割にも変化が求められている(図2)。「シンチが強陽性であればカテ」ではなく、予後改善に向けたより総合的な位置付けの検査になり得るのではないかという議論がなされている。そもそもこの患者さんは SIHD(安定型虚血性心疾患)なのか?SIHDであるとするとどのくらい危険なのか?ACSにどれだけ近いのか?そういったことを推し量る診断デバイスになりつつあるのではないかということをISCHEMIA試験は物語っている。

 

シンチの役割に求められる変化

【図2】たとえば患者に薬物治療の強化を提案する際、虚血の程度を説明すると同意・納得を得やすい。