NTC45 教育講演Ⅰ 立石先生

教育講演Ⅰ 保険診療の中で心筋SPECTを再考する①

座長

玉木 長良 先生
京都府立医科大学

中村 正人 先生
東邦大学医療センター大橋病院

演者

立石 恵実 先生
国立循環器病研究センター

症例から学ぶ 慢性冠動脈疾患診断ガイドライン(2018年改訂版)
患者背景や診断目的に応じた適切な検査法の選択

 2019年3月に日本循環器学会総会で「慢性冠動脈疾患診断ガイドライン」(2018年改訂版)が発表された。本ガイドラインに基づく診断の進め方を、自験例を通して紹介する。

 

■症例 約2年前に右冠動脈にPCIを受けた70歳代女性
 PCI後1年ほどは症状なく経過したが、半年ほど前から坂道歩行で息苦しさを自覚するようになった。30歳から1日10本の喫煙歴あり、現在も禁煙できていない。5年前から高血圧症と脂質異常症に対して内服加療中。
 本ガイドラインの「心筋虚血の診断アルゴリズム」によると安定冠動脈疾患が疑われる患者に対して、まずは検査前確率の推定が推奨されている。日本心臓核医学会誌に掲載されている「年齢、性別、症状から見た検査前確率」に基づくと、本例(60歳以上、女性、非狭心痛)の検査前確率は中間(10~90%)となる。
 次に本ガイドラインに従って運動負荷心電図を施行したところ、負荷開始後6分31秒で目標心拍数と症候限界に達した。Ⅱ・Ⅲ・aVF・V5-6で最大1.7mmのST低下を認めたが、胸部症状はなかった。Dukeスコアは-2となり本例は中程度リスク(-10≦Dukeスコア≦4)に該当した。中程度リスクを有する患者には冠動脈CTによる形態評価または負荷心筋血流イメージングや負荷心エコー図による心筋虚血評価が選択肢に挙がる。本例はPCI後で「PCI後(>3㎜のステント)の冠動脈CT」は推奨クラスⅡaで、「負荷心電図が異常な心筋血流イメージング」は推奨クラスⅠに分類される。本例では心筋虚血評価を選択し、検査法の中で最も推奨クラスの高い運動負荷心筋血流シンチグラフィを施行した(図1)。結果は正常であり、ガイドラインに従い経過観察となった。

図1中程度リスクの心筋虚血診断

【図1】負荷心筋血流シンチグラフィが最も推奨されている。

 

心筋血流シンチグラフィのタイミング

■症例 胸部大動脈瘤の手術を控えている80歳代男性
 市の健康診断で胸部大動脈瘤を指摘され手術予定である。12年程前から降圧剤を服用し、過去にコレステロール高値を指摘されたことがある。8年前に狭心症でPCIを受けた。毎日犬の散歩をしているがPCI後は胸部症状なく経過している。喫煙歴があるが手術が決まってからは禁煙中。
 本例(60歳以上、男性、無症状)の検査前確率は低い(5~10%)が、複数のリスク因子を有し、PCI歴があり、全身麻酔での血管外科手術を予定されていることから術前の冠動脈評価が必要と考えられた。手術を必要とする胸部大動脈瘤は運動負荷の禁忌にあたるため、冠動脈CTあるいは負荷心筋血流イメージングに進むが、本ガイドラインでは「検査前確率が中等度未満の無症候例における負荷心筋血流イメージング」は推奨されていない(クラスⅢ)。一方「心大血管手術の術前評価における冠動脈CT」はクラスⅡaに分類されていることから本例では冠動脈CTを選択した。冠動脈CTでは左冠動脈主幹部、左前下行枝、回旋枝に高度石灰化と50~75%狭窄が疑われた。
 冠動脈CTで異常が見られた場合、冠動脈造影の選択肢も示されているが、「非侵襲的検査で虚血を示す根拠がなく、無症状の症例に対するリスク評価目的の冠動脈造影」は推奨クラスⅢである。よって、「治療方針決定のための検査法」で推奨クラスⅠに分類されている薬剤負荷心筋血流シンチグラフィを施行した(図2)。

 

図2動脈CTに異常の患者の治療方針決定

【図2】冠動脈CTが異常でも、無症状の場合は負荷心筋血流シンチグラフィが第一選択となる。

 

 薬剤負荷心筋血流シンチグラフィでは下側壁領域に負荷時に軽度~中等度の血流低下、安静時にfill-inを認め虚血陽性と診断した。冠動脈CTおよび心筋虚血評価で異常が見られたため、冠動脈造影検査を施行した。冠動脈造影検査では回旋枝の完全閉塞と右冠動脈からの側副血行路を認めた。