NTC45 教育講演Ⅱ 桐山先生

教育講演Ⅱ 臨床医に伝わるレポーティングの書き方①

座長

工藤 崇 先生
長崎大学

演者

桐山 智成 先生
日本医科大学

心筋SPECTにおける読影の標準化にむけて
読影前の基礎知識

 SPECTの標準的な読影技術の習得は、SPECT検査のクオリティーコントロールを実践していく上で重要である。
 最近では機能的虚血の評価のゴールドスタンダードとしてFFRが様々な大規模多施設研究で用いられているが、FFRでは虚血と判定した症例であっても、運動負荷SPECTでは虚血が証明されないケースも報告されている1)。大動脈の圧と狭窄の先の圧の比を評価するFFRと、正常心筋をリファレンスにして狭窄血管で灌流される心筋の集積の程度を評価するSPECTは検査の原理としては類似している。しかし、前述のようにFFRとSPECTで虚血判定に乖離が生じる場合があるのは、負荷方法や虚血判定のthreshold(閾値)に違いがあるためである。
 運動負荷SPECTでは酸素需要に応じた生理的な血流上昇の差から虚血を評価する。運動負荷の場合、細動脈(抵抗血管)の拡張により正常心筋で最大2倍程度血流上昇することが知られている2)。運動負荷による血流の上昇は生理的な反応であるため、血管は必要なだけ拡張して血流を上昇させる。そのため、運動負荷SPECTにおいて正常領域よりも集積が低い部位は、生理的な血流上昇がうまく行われていない部位であり、これはischemic myocardium(虚血心筋)を見ていることになる。
 一方のFFRでは、冠血管拡張薬を用いた薬物負荷が行われ、最大で3~5倍の血流上昇が得られる2)。酸素需要に依らない非生理的な血流上昇であるため、あくまで血管拡張薬で得られる最大充血に対する血管拡張予備能の差を判定しており、直接心筋虚血を判定している訳ではなく、予備能の低下した心筋(jeopardized myocardium)である(薬剤負荷SPECTも同様)。また、SPECTでは1-2割程度の集積低下では有意な血流低下と判定しないこともあるのに対し、FFRでは正常心筋に対して75%~80%の拡張予備能の低下を虚血と定義しており、虚血の閾値が甘いため虚血を見逃すことは少ないと思われるが、原理的には偽陽性が多くなる傾向にあることは知っておく必要がある(図1)。

 

 

FFRとSPECTのthresholdの差異

【図1】

 

1)Pijls NH, et al. N Engl J Med. 1996; 334(26): 1703-1708.
2)Iskandrian AS, et al. J Nucl Cardiol. 1994; 1(1): 94-111.
読影のクオリティーコントロール

 SPECTの読影では、きちんと正常と軽度異常を判別できるかにビギナーとエキスパートの差が顕著である。誰が読影しても明らかに正常あるいは異常な症例では差が出にくい。大規模多施設研究であるJ-ACCESS studyでは、心筋SPECTの結果によって予後を層別化できることが示されたが、軽度異常群と正常群の間には予後に差が認められなかった3)。しかし、Yodaらが同様の試験を行った単施設での研究では、軽度異常群と正常群の予後に有意な差が認められた4)。この違いは、J-ACCESS studyでは各施設で読影されたビギナーからエキスパートまでを含む雑多な読影者の結果が利用されていたのに対し、Yodaらの研究では、施設内エキスパートによって標準化された読影が行われていたことに起因すると考えられる。すなわち、Yodaらの研究ではクオリティーコントロールされた読影が行われていたといえる。
 クオリティの高い標準化された読影を身につける最初の足がかりとしては適切なスコアリングを意識することが上達のコツである。スコアリング時の留意点を図2にまとめる。虚血がある人とない人では必ず予後が異なるはずであるので、SSSで4点以上を1つの区切りとして虚血を判定する。

 

エキスパートの読影

【図2】虚血や梗塞を考えるときに1セグメント当たり最低2点をつけるため、2セグメントにつければ4点すなわち左室心筋全体に対しての虚血ボリュームが約5%(軽度異常を示すSSS)となる。

 

3)Nishimura T, et al. Eur J Nucl Med Mol Imaging. 2008; 35(2): 319-328.
4)Yoda S, et al. J Cardiol 2014: 64:395–400.
読影時における画像の準備

 読影に必要な画像にはSPECT画像の3軸断面やブルズアイ画像があるが、カラースケールとグレースケールを上手に利用するコツを述べたい。グレースケールではワントーンの連続する変化のため、集積の低下の程度を直感的に判定できる。一方、カラースケールではわずかな集積の差で色調が変化するため、集積の低下を発見するという意味では非常に有用である。したがって、この特性を理解し、両スケールを使い分けることが重要となる。
 例えば脳血流SPECTではカラースケールでの読影が一般的である。その理由は、正常と異常部位の血流差のレンジが非常に狭く、血流低下の有無とその位置・範囲を判定することが重要であるが、血流低下の程度は診断的意義が高くない。そのため感度の高いカラースケールでの読影が適している。
 一方、心筋血流SPECTでは血流低下の有無、位置・範囲に加えて貫壁性か非貫壁性かといったtransmural(心筋の厚み方向)の血流低下の程度も完全欠損から正常まで5段階で判定する。それゆえ、グレースケールでの読影が基本である。実際の手順としては、感度の高いカラースケールのブルズアイ画像で異常と思われる集積低下を拾い、グレースケールで表示したSPECT3軸断面で所見を拾いすぎないよう特異度を高める読影を行うことが推奨される。ここで大事なのは集積低下の重症度を17あるいは20セグメントモデルを用いてスコアリングし、定量化することである。この作業は視覚的に認めた所見がどの程度の重症度か都度明確に認識され、読影の感覚を養うことに貢献するとともに定量化されたスコアを用いてはじめてエビデンスを利用できるからである。

最低限の読影のルール・コツ

 心筋SPECTにおける冠動脈支配領域はよく知られている図3の左のシェーマよりも右のシェーマで理解するほうがよい。PECTは左室心筋のみ描出されるため、心室間溝を走行するLADはブルズアイ上でみると中隔側にオフセットして走行し、LAD本幹の末梢はまず心尖部を走行せず、心尖部の中隔側を過ぎて遠位下壁まで達する。左室心尖部は実際には末梢の対角枝が灌流していることがほとんどである。また、RCAよりLADのほうが優勢に分布している。

 

冠動脈支配領域

【図3】冠動脈支配領域は右のシェーマのほうが実際の分布を反映している。

 

 実際の症例(図4)をもとに心筋SPECTを用いた虚血評価のプロセスを紹介する。本症例では下壁に集積低下が認められている。グレースケールのSPECT短軸断では異なる分枝血管によって灌流される隣り合う部位との間に明瞭なコントラストがあり、垂直長軸断ではLADより灌流域の狭いRCAを反映して集積低下は心尖部まで達しない。心尖部まで達している場合にはRCAの病変よりアーチファクトの可能性が高い。さらに右室接合部から中隔にかけては集積低下はなく、RCA#1-3や中隔枝を分枝するPD枝の狭窄ではなく中隔枝を分岐しないPDもしくはAVの狭窄を疑った。カテーテル検査を実施したところAV枝の狭窄が認められ、責任冠動脈として合致する結果であった。

 

AV枝の狭窄を認めた症例のSPECT画像

【図4】AV枝の狭窄を認めた症例のSPECT画像。