NTC45 テーマディスカッション 山田先生

テーマディスカッション 冠動脈疾患の治療前後における虚血評価(シンチ・FFRCT・resting index/FFR) ①

座長

汲田 伸一郎 先生
日本医科大学

横井 宏佳 先生
福岡山王病院

演者

山田 愼一郎 先生
北播磨総合医療センター

治療前における機能的虚血評価

 冠動脈疾患の診断・治療において、各種モダリティをどのように組み合わせ活用するかは、対象とする疾患像と治療の目的により大きく異なる。臨床においてはこの事実と目的別の各手法の意義について認識しておくことが肝要である。

FFRCTの臨床的意義と活用

 近年活用が進んでいる「FFRCT」について整理する。
 「慢性冠動脈疾患診断ガイドライン(2018年改訂版)」では、「安定狭心症で中等度以上の狭窄を認められたときにFFRCTの適応が検討される」(推奨クラスIIb)に位置付けられた。FFRCTは、CTで得られる冠動脈の情報から数値流体力学を用いて、FFRを推定する方法である。プレッシャーワイヤーを使用した侵襲的な手技が必要であったFFRと類似する指標が、非侵襲的な冠動脈CTデータから算出できることの意義は大きい。
 2010年代初期に発表された国際多施設共同の大規模研究、DISCOVER-FLOW、DeFACTO、NXTを経て、FFRCTと侵襲的FFRの強い相関関係に加え、臨床的有用性を示す様々なエビデンスが確立されてきている。
 最新のNXT試験では、冠動脈造影上30~70%の狭窄を認めた患者254人を対象に実施され、FFRCTのカットオフ値0.80とした際に、50%以上の狭窄の診断が冠動脈CTのみの評価に比べて精度、特異度とも高くなることが示された1)
 また、FFRCTについては国際多施設共同のADVANCEレジストリーが構築されており、本邦の登録データからのエビデンスも蓄積されてきている。FFRCTを施行した1,758人の実際の治療を調べたところ、FFRCTにおいて陽性となる0.71未満においてもPCI施行が51.5%、CABG施行が3.8%と合わせて6割弱にとどまり、冠動脈CTを経てメディカルセラピーに移行した症例もあることが報告されている(図1)2)

 

Actual treatment at 90 days stratified by FFRCT values

【図1】本邦の臨床研究では、FFRCTのカットオフ値0.80以下においてもメディカルセラピーが適用されているケースも多かった。

 

 グローバルなADVANCEレジストリーの2020年の解析報告においてもFFRCT0.8をカットオフ値とし1年追跡した際に、陰性群においてもトータルのMACEにおける心血管イベント発生が認められており、血行再建以外の薬物療法の至適化も重要と推察できる。レジストリーにおける心血管イベントは、FFRCT値が低いほど発生率が高くなる傾向があるが、FFRCT0.75を境に差が生じる傾向が認められ、0.75~0.85では大きな差が生じていなかった。この結果を受け、FFRCTのカットオフ値は、侵襲的なFFRよりも少し低くなるのではないかと議論されている3)

 近年注目されている2つのモダリティ、FFRCTと負荷Perfusion MRIに対する血行再建術適用についての診断精度の比較試験も行われた。FFRCTは、感度97%、特異度47%、陽性的中率47%、陰性的中率97%、確度61%となっており、CTベースの検査らしい特徴が示されていた。負荷Perfusion MRIの方が特異度、確度では高い結果となったが、冠動脈主幹部の狭窄の対象を限定するとFFRCTの診断確度が負荷Perfusion MRIと差が少ない結果も示された4)。他のモダリティと同様に、FFRCTについても「どのように読影をするか」が重要となる可能性がある。
 今後のFFRCTの可能性と一つとして、虚血部位へのステント留置の影響をシミュレーションするシステムも開発されている。検証試験では実際に治療を行った際と近い予測値が算出できていると報告されており、技術の深化が期待されている。

1)Nørgaard BL, et al. J Am Coll Cardiol 2014; 63: 1145-55.
2)Shiono Y et al. Circ J. 2019; 83: 1293-1301.
3)Patel MR et al. JACC Cardiovasc Imaging 2020; 13: 97-105.
4)Rønnow Sand NP et al, JACC Cardiovasc Imaging. 2020; 13(4): 994-1004.
FFRによる機能的虚血評価

 一方、現時点の術前検査として確立されているのが侵襲的なFFRである。昨年の診療報酬改定における安定狭心症のPCI保険適用における機能的虚血の証明要件の導入以来、侵襲的FFRの施行件数が急増している。昨年1年間のプレッシャーワイヤーの日本での使用数は8万本と報告されている。
 直近のエビデンスとしては、日本人を対象にしたJ-CONFIRMレジストリーの報告がある5)。FFRでdeferした1,447人をフォローアップした調査であるが、主要評価項目の測定血管に関連したイベント発生(TVF:target-vessel failure)は、2年間で5.5%にとどまっていた。FFRで陰性となった患者群を主とする調査であり、OMTが適切に行われた可能性が示唆されている。心臓死、心筋梗塞の発生についても、2年間でそれぞれ0.41%と低値であった。

 さらにFFRが陽性である「0.75以下」群、グレーゾーンである「0.76~0.80」群、陰性群に分けてTVFの発生を調べると、陽性群が最も多く、陰性群で低くなる傾向が確認された。カットオフ値の標準的な指標とされる0.80を境に対象を2群に分けた場合もTVFに有意な差が認められており、侵襲的なFFRについては0.80が、妥当なカットオフ値と推察できる結果となっている。サブ解析では、TVFの影響因子は、FFRの値が小さいことに加え、左主幹部病変であること、が示されており、deferした際に注意すべき病変であると結論づけられている。
 さらにdeferした冠動脈の領域を、AHA分類を用いて病変部位を近位部と遠位部に分けて分析したサブスタディも報告されている。近位部ではFFRが低いほどイベントが多くなる傾向が認められた一方で、遠位部の末梢病変ではFFRとイベント発生に相関がみられないという興味深い結果が示されている(図2)。

 

Relationship  between FFR Categories and Lesion Location

【図2】FFRでdeferした患者群の研究では、冠動脈近位部の病変ではFFR低値で心イベントが発生する傾向があったものの、遠位部についてはFFR値との関連が認められなかった。

 

 この結果はFFRの一つの泣き所であるが、FFRは狭窄前後の虚血をみる方法であるが、それ自身が灌流領域を正確に表しているものではないため、やはり灌流領域を評価するのが非常に重要である。振り返ってみると、2003年にCirculationに発表された10%を超える虚血心筋量で実際に血行再建した方が予後良好という結果、また近位部ではイベントに関連があるが、抹消の比較的細い血管ではイベントと関連がないということを反映しているものと考えられる6)
 このように侵襲的FFRだけでは病変による還流領域全般への影響を測ることが難しい実態もあり、形態学的情報と機能的虚血情報を組み合わせたFFRCTのような技術が求められる一端にもなっている。しかし、現状ではFFRCTは保険請求などの利用条件が厳しく、日本全国でまだ40施設しか行われていない。そこで還流領域を含めた判断は、他のモダリティの活用し検討することになる。虚血量と範囲を表す心筋血流SPECTを用いるなど、複数のモダリティを活用して情報を得ることが重要であろう。

5)Kuramitsu S et al. Circ Cardiovasc Interv. 2020 Jan;13(1):e008355.
6)Hachamovitch R et al,Circulation.2003;107(23):2900-2907.
症例 CT/SPECT fusion画像を用いた還流領域の推定

 還流領域を推定することは治療対象を決める上でも治療のエンドポイントを決める上でも非常に重要である。一例を示す。

主訴:非典型的な労作性の息切れ症状 既往:肺気腫
 症状の原因を精査するため、冠動脈造影を施行したところ、前下行枝に狭窄を認めた。薬剤負荷を避けiFRを計測したところ狭窄部位の遠位部で0.86であり、カットオフ0.89を考慮するとグレーゾーンに近い陽性であった。
 この前下行枝の虚血が労作時症状と合致しているかを確認するため、心筋血流イメージングを施行した。当院ではCT画像と心筋血流SPECT像を組み合わせたCT/SPECT fusion画像も参照している。
 Tl washout画像と冠動脈CTのfusion画像(図3)では、前下行枝の対角枝を含めた領域に明確な再分布を認め、ボロノイ法を用いたテリトリーマップから当該還流領域の心筋量は全体53%であることが示された。当該領域の血行再建を行い、労作時の息切れの症状は改善した。

 

Territory map and CT/SPECT fusion

【図3】(図右)Tl washout画像と冠動脈CTのfusion画像
(図左)CTデータを用いボロノイ法を用いたテリトリーマップ。還流領域、虚血の分布を形態画像と合わせて確認できる

 

 このようにCT/SPECT fusion画像では、CTの形態学的な情報に心筋血流SPECTによる虚血の程度を重ね合わせることで、どの領域にどの程度の虚血が生じているかを分かりやすく把握することができる。また、テリトリーマップを用いることで、その還流領域が心機能においてどの程度の意義を持つ領域であるかも、比較的容易に理解できるようになる。近年の技術革新により様々なモダリティが登場している。今後の治療選択においては、目的に合わせて複数のモダリティを組み合わせ、治療判断に必要な情報を得る工夫が必要になるだろう。

まとめ

 虚血性心疾患の治療の目的は多岐にわたり、目的によって術前に行うべき検査は異なってくる(図4)。例えば労作性狭心症を認め、冠動脈CTにより1枝病変であることが明らかで、運動負荷心電図でSTが低下を示す場合は、それ以上の検査は必要ないかもしれない。症状を取ることを目的にするのであれば、インターベンションによりST低下の改善を図ることもできる。

 

Take Home Message

【図4】

 

 一方で症状の緩和にとどまらず、生命予後の改善を目的とするのであれば、多様なモダリティのエビデンスを踏まえ、さらなる術前検査の精査が必要となる。
 治療の目的を踏まえて、術前評価としてどの検査が適しているのか、十分に検討した上で治療にあたることが重要である。