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FRIENDS Live 2019 ランチョンセミナー2 講演2

座長

横井 宏佳 先生
福岡山王病院 循環器センター長

演者

中田 智明 先生
社会福祉法人函館厚生院函館五稜郭病院 病院長

講演2 予後改善に資するPCI治療のための虚血評価とは

座長コメント

安定冠動脈疾患におけるPCI算定要件に機能的虚血評価が加わり、心筋SPECTやFFRを使う機会が増えましたが、すべてがプレッシャーワイヤーで解決できるわけではないため、心カテの前の心筋SPECTによる評価も非常に重要だと思える機会が増えたのではないでしょうか?
適正なPCI治療、より良いPCI治療へ繋げていくために、今我々が理解しておくべき適切な心筋SPECTやFFRとは何なのか、お二人の先生にお話しいただきました。

PCI治療が抱える課題

 国民医療費の高騰を背景に、国民皆保険制度を有する我が国では、合理的な根拠を持った診療や医療の標準化が求められている。しかし、我が国では虚血評価に基づく適正なPCIはこれまで十分に行われてこなかった。実際に、安定冠動脈疾患患者に対しPCIを施行した226施設(15,522件)を対象とした厚生労働省の調査によると、PCI施行前に心筋虚血評価を行っていた件数は全体の37.8%で、その内訳はFFR:9.6%、負荷ECG:12.6%、負荷UCG:0.3%、トレッドミル:9.2%、SPECT:13.3%であった1)

 

 一方、近年米国では虚血診断上の非侵襲的心臓負荷試験の中で何らかの負荷イメージング試験が占める割合が増加している。米国では入院費が高いため、患者を入院させる際には明確な根拠をもって入院させる傾向が強い。そのため、重症虚血を示すようなリスクの高い症例だけを入院させ、カテーテル検査を行う。また、カテーテル検査により病変が明らかとなればPCIを同時に施行することもある。そうすることで、米国では入院期間の短縮や無駄な入院、不必要なカテーテル検査の削減に繋げているのである。

 

 我が国では、平成30年度の診療報酬制度が改定されるにあたり、安定冠動脈疾患に対する待機的PCIについて様々な議論がなされてきた。その中でも、「必ずしもPCI治療が必要ではない(かえってマイナス面もある)症例に対しPCIが安易に実施されている可能性があること」、「実際に一部の医療機関では『異常とも言える』数のPCI治療が施行されていること」、「ガイドラインに沿わない患者にもPCIを実施している可能性があること」が議論の焦点となった。その結果、医療技術に関する実態を踏まえた評価の適正化が求められることとなり、術前の検査等による機能的虚血の確認が診療報酬上の算定要件となった。

冠動脈疾患治療におけるリスク層別化の重要性

 安定虚血性心疾患診療においては近年大きなパラダイムシフトを見せている。2010年代には、機能的心筋虚血に基づくリスク層別化の重要性がさまざまな報告によって証明された。かつては視覚的冠狭窄が虚血性心疾患の中心的な評価対象とされてきたが、近年では冠狭窄は形態学的な冠動脈硬化の診断を意味するものであり、必ずしも心筋虚血の原因であったり、治療対象や予後に影響したりするものではないという認識が広まっている。

 

 米国では年間3%を超える死亡率を示すハイリスク所見として、「負荷後LVEF<35%(Tc-99m)」、「ストレス誘発性の広範な灌流欠損」、「ストレス誘発性、多発性の中等度灌流欠損」、「左室拡大あるいはTl肺野集積増加を伴う広範な固定性灌流欠損」、「左室拡大あるいはTl肺野集積増加を伴うストレス誘発性の中等度灌流欠損」が知られている2)。すなわち、「虚血の範囲・重症度」あるいは「機能的異常を伴う虚血」によってハイリスク症例を予測できるということである。したがって、中等度虚血であっても範囲が広ければハイリスクであることが疑われる。一方、重症虚血であっても、範囲が狭ければ、あるいは末梢病変であれば内科的治療を選択することもあるかもしれない。

 

 心筋虚血を評価できるモダリティとして心筋SPECTの有用性を示す様々な結果が報告されている。負荷心筋SPECTで虚血の程度が低い症例では、冠動脈疾患またはその疑いがある症例であってもイベント発生率が低いという結果が我が国で実施されたJ-ACCESSで示されている3)

 

 心筋SPECTをはじめとする非侵襲的イメージング検査は血行再建術後患者のマネジメントにおいても有用であり、2018年のESC/EACTSガイドラインにおいて、イメージング検査の活用が様々な面で推奨されている。例えば、症状のある患者で以前に血行再建術の既往がある症例に対しては負荷イメージング検査が推奨されている(図1)。また、冠動脈疾患を有し心不全のある症例、あるいはLVEFの低い症例に対しても負荷イメージング検査が推奨されている。

 

図1 血行再建術後患者のマネジメント

 

心筋SPECTによって心筋虚血の範囲を知ることは、有効な治療戦略を立てる上でも役立つ。Hachamovitchらの報告によると、心筋梗塞や血行再建術の既往のない患者では、虚血心筋量が10%以上であれば薬物療法群に比べ、血行再建群で予後が良く、虚血心筋量が10%未満の場合は薬物療法群のほうが予後は良かった4)。血行再建術では合併症や造影剤の影響が危惧されるので、このようなリスクも考慮しながら治療方法を検討することも大切である。2018年のESC/EACTSガイドラインにおいて、予後改善の観点から治療前において10%を超える機能的虚血が証明された場合、血行再建の適応であると推奨されている。

適正なPCIを施行するための留意点

 PCIを適正な症例へ施行することは医療費にも大きく影響する。図2はPCIによる合併症の件数と医療費を表したグラフであるが、特に急性腎障害(AKI)や出血などのPCI合併症が医療費の高額化に大きく関連していた。我々医師は患者予後の改善のみならず、治療の費用対効果にも十分な留意が必要と考える。

 

図2 PCIによる合併症の件数と医療費

 

安定冠動脈疾患に対するPCI治療の合理的選択・最適化のための要点を以下にまとめる。

  • 治療は適正な薬物治療が前提
  • 予後を規定する心筋虚血の重症度によるリスク層別化
  • 患者の予後改善予測だけでなく、検査・治療合併症・全身管理リスクの最小化に努めることが重要

 

すなわち、患者利益の最大化とリスク・経費最小化がPCIの治療学的・医療経済的最適化をもたらし、患者予後の改善のみならず医療資源の適正な利用に寄与すると考えられる。

 

 私は現在J-CONCIOUS Studyと名付けられた新たな前向き多施設共同研究を計画中である。今後はこの研究を通じ、心筋SPECTだけでなく、負荷心電図、心エコー図、CT、FFRなども含め、安定冠動脈疾患やその疑いのある症例への合理的な診断法・治療法を明らかにしていきたい。

 

 

1) 厚生労働科学特別研究事業「NDB・DPCデータを用いた循環器・血液領域の医療の質の評価に関する研究」. 平成28年度総括・分担研究報告書.
2) Gibbons RJ. Heart. 2000; 83: 355-360.
3) Matsuo S, et al. Circ J. 2008; 72(4): 611-617.
4) Hachamovitch R, et al. Circulation. 2003; 107(23): 2900-2907.