斎藤 史郎 先生
国立病院機構東京医療センター 泌尿器科

大橋 俊夫 先生
慶應義塾大学医学部 放射線治療科

門間 哲雄 先生
国立病院機構埼玉病院 泌尿器科

萬 篤憲 先生
国立病院機構東京医療センター 放射線科

高リスク前立腺癌を制する一手  

斎藤 史郎 先生(国立病院機構東京医療センター 泌尿器科)

高リスク前立腺癌を制する一手

限局性前立腺癌の治療には多くの選択肢があり、患者は自分の病態、年齢、生活様式等を考慮して自分に合った治療方法を選択している。解放手術もしくは腹腔鏡による前立腺全摘術、三次元原体照射やIMRTによる外照射、ヨウ素125シード線源永久挿入や高線量率イリジウムによる小線源療法などは確立した治療方法となっており、さらに粒子線治療やHIFUなどの治療も行われている。低リスク癌においてはいずれの治療法でも良好な成績が得られており、長期的にも90%以上の非再発率が期待でき、患者は安心して自分が望む治療方法が選択できる。

 

泌尿器科医はここ20年あまりの間、術後の障害をなるべく少なくしつつ根治性を高める手術の手法を工夫し技術を鍛錬してきた。その甲斐あって術後に尿失禁が継続することが少なくなり、性機能が温存される率も高まった。しかし、症例を重ね長期の成績が明らかになるにつれ、高リスク癌での再発率が高いことがわかってきた。国内だけではなく、アメリカにおいて手術を数多く手がけている施設においても、高リスク癌での非再発率が50%前後のことが多い。高リスク癌、すなわち前立腺被膜外への病巣浸潤の可能性が高い症例においては手術だけでは根治しにくいのである。最近では術後のadjuvantもしくはsalvageの外照射が行われることもあり、良好な結果が得られる症例も多い。そのような症例では、手術で切除できなかった前立腺周囲の病巣を60~66Gy程度の外照射で根治可能であったわけである。

 

一方、シード線源永久挿入小線源療法と外照射併用による治療では高リスク癌に対しても良好な成績が示されており、手術成績よりも優れていることが多い。小線源と外照射を併用した場合、それぞれ単独以上の線量の照射が可能であり、高い生物学的効果線量(BED)が得られる。高線量の照射が精嚢基部を含め前立腺にある程度のマージンを持って照射されることで、浸潤巣があっても根治が期待できるわけである。手術後に外照射を実施して根治される症例は、始めから小線源と外照射を併用した高いBEDの照射を行っていれば根治できた可能性もあり、今後、エビデンスが待たれるところである。

 

一定期間のホルモン療法を併用することで外照射の治療効果が高められることが示されており、小線源治療においてもホルモン療法との併用効果が期待される。高リスク癌に対する治療法として、小線源+外照射+ホルモンの三者併用療法は最も期待できる戦略と考えられる。それを検証すべく、今、高リスク前立腺癌に対する三者併用療法の多施設協同研究(TRIP study)が開始されている。そこでは小線源療法と45Gyの外照射を実施し、その治療前から治療中にかけて6ヶ月のCAB療法(LH-RHアゴニスト+ビカルタミド)を実施し、その後ホルモン療法を行わない群と24ヶ月継続する群にランダマイズされるプロトコルになっている。この研究成果は今後の高リスク前立腺癌治療に大きく影響するものと考えている。

 

小線源と外照射との併用療法の治療効果を左右するのは何と言ってもそれらの技術である。小線源に関しては、リアルタイムプラニングや安全に線量増加を行うための技術指導が各学術集会や前立腺シード研究会により主催する技術講習会を通して実施されており、また、外照射に関するワーキンググループが中堅放射線科医を中心に結成され、小線源療法と併用する外照射も含め前立腺癌の外照射に関する方向性が検討されている。TRIP studyにおける外照射のプロトコルもそのワーキンググループでの検討に基づいたものである。

 

国内においても前立腺癌に対する放射線治療の技術およびその成績は向上していくものと考えられ、特に手術で再発率の高い高リスク癌においてその効果が期待されている。小線源療法と外照射の併用に寄せる期待は大きく、今後、高リスク前立腺癌を制する一手となるものと考えている。