2002年のFDG-PET保険適用化を受け、2005年より本格稼働しているPET診断薬事業。この10年以上で市場は拡大し、需要も右肩上がりで増加してきました。供給メーカーとしての社会的責任も高まっており、安定供給体制のさらなる強化も求められるようになっています。PET診断薬を安定的にお届けするための取り組みをご紹介します。

ステークホルダーからの声

PET検査の全国普及を支える基盤
安定供給のさらなる強化を目指す

2005年のFDGスキャン注の製造販売承認取得と全国に配置したラボからの供給開始以降、サイクロトロンを持たずにFDGスキャン注を使用してPET検査を行うデリバリーPET施設が大きく増加しました。これと相まって、FDG-PET検査によるがん診断の需要が拡大してきましたが、当社ではデリバリーPET施設への安定的な供給により市場ニーズに応えてまいりました。加えて医療現場のニーズに対応するため、納入時間の見直しなど、さまざまな施策を展開してきました。FDGスキャン注のデリバリーを担う当社の社会的責務も需要の拡大とともに重くなっており、安定供給体制の強化はその根幹をなす取り組みであると考えています。

執行役員 PET事業部長
三野良二

安定供給体制の強化に向けたさまざまな施策の一つとして、富山県小矢部市に「北陸ラボ」を建設し、2019年1月から出荷を開始しました。従来の長距離輸送を解消し、北陸地域の拠点開設でより盤石な安定供給体制を構築するための取り組みです。また、万が一の生産トラブルや物流ルートの遮断等、不測の事態が発生した場合でも医療現場へ着実に製品をお届けするための体制づくりを日頃から実施しています。FDGスキャン注は半減期が約2時間と短いので、トラブル発生時の対応には一刻の猶予も許されません。「トラブルの未然防止」「想定リスクの抽出・対策・共有」「ラボ間のバックアップ」という3軸の体制を通して、供給開始以来12年間にわたり強固な安定供給体制を継続してきました。

FDG-PET検査はがんをはじめ脳・心臓などの疾患においても有用性が認められており、加えて新薬開発によるPET診断薬の品ぞろえ充実にも注力しています。医療機関や患者さんが安心してPET検査を受けていただくことがリーディングカンパニーとしての社会への貢献の一つですが、安定供給はすべての基本であり、これからもより一層の強化を図ってステークホルダーの皆様の信頼に応えていきたいと考えています。

生産部門の取り組み
ハード・ソフト両面を強化し生産の効率化・安定強化を推進

PET生産部部長
谷口 寛史

PET検査の普及により、年々高まるFDGスキャン注の需要に対して、生産部門ではFDGスキャン注の生産能力拡大に向けた取り組みを進めています。その一環で、原料である18Fを増産するために、従来の装置に比べて約2倍の生産能力を有する新型サイクロトロンをここ数年間で複数のラボに順次導入しました。これにより、FDGスキャン注の増産に加え、将来的にPET製剤の種類が増えた際にも貢献できる見込みです。並行して合成工程においても収率改善に取り組んでいます。品質を維持しつつ増産を達成することが大前提なので、ハード、ソフト両面での改良を重ねた結果、合成収率を当初の約1.6倍まで向上することができました。

近年、PET診断薬を取り巻く環境が大きく変わってきていますので、PET生産部全体として変化に柔軟かつ迅速に対応し、安定した生産供給体制を従来にも増して効率的に実践していくことが求められています。全国に配置した全ラボからの高品質な製剤を安定供給するためには、設備の異常予兆や異常回避の手順強化によるトラブル対策、リスク評価による品質への影響評価が不可欠であり、加えてラボ間のバックアップ体制を強化することも重要です。一方で、作業員のレベルアップを目的とした定期的な教育も実施しています。夜間に生産を行う交代勤務体制を敷いているため全員が顔を合わせる機会を設けにくい部分はありますが、変化する環境へ柔軟に対応できる人材育成、さらに次世代のリーダー育成にも注力していきたいと考えています。

  • 収率…原料から目的の物質を取り出す際に、理論的に取り出せる量に対して実際に得られた量の割合。

物流部門の取り組み
協力会社との信頼、連携で安定的な製品配送を実現

購買・物流部 マネージャー
本間 弘一

FDGスキャン注は全国11拠点のラボで生産され、1日3回、各地域の医療機関に配送されています。悪天候や事故などの影響が常に懸念されることもあり、輸送業務を委託している協力会社との綿密な連携が安定供給における重要な鍵と言えます。放射性医薬品を安全かつ適正に使用いただくため、必要な時刻に確実にお届けする体制を整え、定められた時刻どおりの搬入が日々行われています。

配送ルートの閉鎖や製造トラブルなど不測の事態が発生した場合も、協力会社間での連携を含め臨機応変かつ柔軟に対応しています。安定供給は、協力会社の方々が当社の事業やPET診断薬の社会的意義を理解しているからこそ成り立つので、当社では協力会社との連携強化の一環として、経営陣とは年1回の連絡会を開催、日々の協力体制への感謝の意を込めた表彰制度も取り入れています。

2016年に発生した熊本地震では、鹿児島、宮崎方面への中継点である益城分室が被災しました。分室自体は地震発生の翌日から稼働したものの、高速道路が通行止めになるなど交通網への打撃から配送に影響が及びました。全線復旧までの約3カ月間、配送遅延はありましたが、生産部門と現地輸送会社の協力により一日も途切れることなく製品納入を継続することができました。

物流部門は、安定供給のアンカーです。今後も協力会社との信頼関係のもと全国の施設に製品を安定的にお届けします。

ステークホルダーからの声
なぜPET診断薬の安定供給が求められるか

金沢大学医薬保健研究域
医学系核医学
教授 絹谷清剛先生

2017年5月23日、米国FDAは“FDA approves first cancer treatment for any solid tumor with a specific genetic feature”というプレスリリースを行いました※1。原発部位ではなく(特定のがん腫に限らず)、単一のバイオマーカーの存在(MSI-Hまたはdeficient mismatch repair, dMMR)でPD-1抗体ペムブロリズマブ使用を承認するものです。ゲノム医療の発展とともに、将来のがん化学療法(薬物療法)がこの方向に進むであろうことは明らかであると思います。闇夜に輝く希望の光のように思えますが、まだまだ問題点があります。

FDA承認に向かわせた臨床試験での奏効率は約40%に過ぎません。周知のごとく、この種の製剤は著しく高価であり、ゲノム診断のみに頼る医療を推し進めれば医療経済が破綻します。60%の患者で無効となった原因は、一部のサンプリングの限界、発現不均一性、血流等の腫瘍環境の不均一性、などなど多岐にわたるものと想像します。これの意味するところは、全身の病巣評価なしには、奏効率向上は得られないであろうということです。もう私が何を言いたいのかお分かりかと思います。全身の病巣のバイオマーカー発現を体外から検出する可能性を秘めた検査があるとすれば、私には核医学検査しかないと思えます。さらに検出感度・精度からいえばPETかと。

癌腫によっては、確定診断がついてから、待ったなしに直ちに治療を開始しなければならないことがあります。製剤供給のエラーゆえに、結果が治療方針変更をもたらすかもしれないFDG-PETによる治療前評価なしに治療に入らざるを得ないとすれば、当該患者の予後に悪影響を与えかねません。さらに、将来、前段のような方向に医療が進んだ際に製剤供給不安定性のため検査が延期されたとすれば、当該患者が被る被害は計り知れません。

放射性医薬品製造・供給を行う企業の使命の一端は、このようなことにあると感じます。

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