特別対談 これからの核医学と日本メジフィジックスへの期待

03. 核医学の可能性を生かすために必要なこと

  • 竹内

    東日本大震災から2年を経過しましたが、原子力発電所の事故により、放射線被ばくへの恐怖心から核医学に対してもマイナスイメージが定着し検査を敬遠されるのではないかと大変心配しました。

  • 畑澤先生

    確かに震災直後は放射線被ばくについて患者さんからの質問が多かったのですが、その影響で検査件数が減ったかというと、決してそうではありませんでした。私たち医師もなぜこの検査が必要なのかを患者さんにできるだけ丁寧にお話しするよう心がけています。被ばくのリスクはゼロではありませんが、それを上回るメリットがあることをご説明し、納得いただいた上で検査を受けていただきます。それをきちんと行ってきたことで、放射線に対するパニックが起きた際も核医学検査はそれほど影響を受けなかったのだと理解しています。

  • 竹内

    安全性に関しては、核医学検査に用いられる放射性医薬品は、比較的半減期の短い核種が使用されていますので、短時間のうちに減衰していきますから、人体への影響はほとんどないということも含め、製薬メーカーとしても正確に丁寧に説明する責任があると思っています。同様に、当社の製造施設についても、専門知識を持つ従業員がおり、排気や排水は常時モニタリングして影響がないことを確認していますし、万一異常が確認された場合は即座に排出を停止する体制であることを、ステークホルダーの方々にご理解いただくよう心がけています。

  • 畑澤先生

    震災後、核や放射線についてさまざまな意見や議論がなされているように、原子核のエネルギーを人々の健康・医療・福祉に利用する技術である核医学についても、いろいろな意見があると思います。ですから、社会全体で核医学検査について議論する、そのような場や機会が必要だと思うのです。私たちの責任は、核医学検査を安全に行うための仕組みや、監視体制であるとか、その議論の透明性などをしっかり担保することです。社会全体に核医学を受容してもらうためには、一部の関係者だけのクローズドな論議ではなく、一般の方々も参加して議論するような場が不可欠だと思います。

  • 竹内

    製薬メーカーの立場から震災に際して考えさせられたことがもう一つありまして、それは、インフラが機能しなくなった場合にいかにして製品の安定供給を維持するか、ということです。当社の施設も震災の影響を受け、一時的に医薬品の供給が滞りご迷惑をお掛けしました。特にPET診断薬は半減期が短く、配送が難しい製品です。製薬メーカーの責務として、拠点を増やすとか製造能力を拡大するなど、安定供給の確保に向けた体制強化の必要性を改めて感じた次第です。

04. 日本メジフィジックスに期待すること

  • 竹内

    私は核医学というのは、一つの科学の総合力の結集だと思っています。トレーサーと呼ばれる医薬品だけでは十分でなく、トレーサーを検出し画像化する機器の力と結合して初めて結果が得られます。さらに、核医学の可能性のさらなる拡大をめざす上では、やはり先生方の研究成果が必要で、そこに企業がサポートできることもたくさんあると思うのです。

  • 畑澤先生

    私は医学が大きな革新を遂げるときというのは、関係するすべての分野が一体になったときだと考えています。核医学の発展の歴史を振り返ってもそれは紛れもない事実で、たとえばPET検査の普及をみましてもトレーサーだけでも機器だけでもだめで、双方が一定のレベルに達したときに大きく前進しました。そのためには、関連するすべての分野が一つの目的に向かって参集し検討する、いわばコンソーシアムのようなスキームを作るのが一番ではないかと考えています。私たち医学の分野はもちろん、トレーサーを供給する製薬メーカー、検査機器メーカー、基礎研究に従事しておられる研究者の方々、さらには厚生労働省などの規制当局などからも参画いただいて、たとえば「問題となっているこの疾患をなんとかしよう!」という共通の課題に向かってプロジェクトベースで取り組める仕組みを構築することが必要です。そのためには、ぜひ日本メジフィジックスにも協力いただきたいと思っています。企業にとって「安全なものを世の中に提供すること」が事業活動上の最優先事項だと思いますし、今後とも続けられるべきです。一方では新しいものの開発にも挑戦していくべきで、それにはリスクが伴います。そのリスクを関連する分野全体で分散できるようなスキームを構築できれば、技術革新につながる環境が得られるのではないかと思います。もちろん直近では、新しい放射性医薬品をどんどん開発し、品揃えが充実することも同時に期待しています。

  • 竹内

    当社としても、ぜひとも先生方と一緒に挑戦させていただきたいと思っています。現状では残念ながら関係分野の総力結集とまではいきませんが、先生が代表をなさっている学会や、当社が加盟している業界団体など、まずはいろいろな場を使って関係分野のできる限り多くの方々と一緒に議論を始めることが重要ではないかと思います。私は、日本の核医学分野の先生方の技術力は非常に高いと常々思っていますので、ぜひ畑澤先生を中心にオールジャパンとしての力を結集し、日本発の新薬を世界に向けて発信していけるように、当社も微力ながら協力したいと思っています。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。