ブルークローバー・キャンペーン 2007シンポジウム

いま、がんは検診で防ぐ〜前立腺がんの早期発見の意味〜 パパの明日を、まもりたい。

急増する前立腺がん 治療の選択肢を広げる早期発見
前立腺がんは、2020年には日本の男性のがんの中で、罹患りかん者数が第2位になると予測されています。一方で、進行が遅く、効果的な治療法も多いため、早期に発見できれば治りやすいがんともいえます。前立腺がんの早期発見の大切さと最新の治療について共に考える「ブルークローバー・キャンペーン シンポジウム」が9月9日、大阪市のクリスタルホールで開かれました。テーマは「いま、がんは検診で防ぐ」。専門家の講演とパネルディスカッションで、早期発見がなぜ大切なのか、治療の方法、医師や病院の賢い選び方などについて話し合われました。要約してご紹介します。

予防の心がけと、年に1回の検診を 日本赤十字社熊本健康管理センター副所長  三原修一先生

日本赤十字社熊本健康管理センター副所長  三原修一先生検診医の立場から、がん検診についてお話しします。現在、日本人の死因の第一位はがんであり、3人に1人ががんで死亡しています。特に成人男性では、女性の2倍以上のがん死亡率です。がん罹患率、死亡率ともに今後もさらに増え続けると推測されています。

がんは検診で早期発見するのが一番ですが、日本人のがん検診受診率は10〜20%で、欧米の70〜80%(乳がんや子宮がん検診)に比べて格段に低いのが現状です。検診の一つとして、人間ドックがあります。人間ドックは精度の高い検診で、早期がん発見率も高いという特徴があります。

人間ドックには、新しい検査機器や診断技術が取り入れられています。例えば胃がんは、X線透視と比較して、内視鏡では2〜2・5倍発見率が高く早期がん比率も高い。大腸がんも、便潜血検査に内視鏡を併用するとがん発見率も早期がん比率も高くなる。肝臓・胆嚢たんのう膵臓すいぞう・腎臓がんの発見には超音波検査が有用です。乳がんでは、超音波とマンモグラフィーの併用が、肺がんでは胸部CT検査が有効です。前立腺がんでは、PSA検査が非常に有用です。また、新しいがん検診手法であるPET-CT(陽電子放射断層撮影)では、発見しにくいがんもあり、内視鏡や超音波など他の検査との併用が有効です。

がんは症状が出てからでは手遅れです。症状がない早期に発見することが大切であり、そのためには検診が不可欠です。年に1回の検診を必ず受診し、要精密検査といわれたら、適切な医療機関で必要な精密検査や治療を受けてください。また、生活習慣の見直しや禁煙を心がけ、普段からがんの予防に努めることも大切です。

がん死亡率


検診で早期発見・適切治療を 近畿大学医学部泌尿器科学教室教授  植村天受先生

近畿大学医学部泌尿器科学教室教授  植村天受先生前立腺がん急増の原因として、高齢化や食生活の欧米化と同時に、PSA検査の普及や診断法が進歩して発見が容易になったことも挙げられます。

前立腺がんの特徴は、高齢者に多く、進行が遅いこと。他のがんも同じですが、初期は無症状です。検診で初期に発見できれば、治療の選択肢も多く、確かな知識を持っていただきたいと思います。

検査には、ほとんどの医師にもできるPSA検査のほか、直腸診、超音波検査などがあり、がんの疑いがある場合は組織を採取し確定診断します。その上でグリーソン分類(腺の構造と増殖パターンを示すスコア)による悪性度と画像検査による病期(進行度)診断を参考にして、治療に入ります。年齢や全身状態なども総合して治療法を決めますが、最優先されるのは本人の希望です。

局所療法(手術・放射線療法)と全身療法(ホルモン療法・化学療法など)があり、早期の場合はすべての治療法が可能ですが、進行すると手術はできず、他の臓器に及んでいる場合はホルモン療法が主体となります。進行が遅いため、「無治療経過観察」も選択肢の一つです。

治療法も進化しています。 腹腔ふくくう鏡手術のほか、「小線源療法」という副作用が起こりにくい放射線療法も普及してきました。また、効果を上げている抗がん剤もあり、遺伝子治療やワクチン療法、分子標的治療などの先進医療も進んでいます。たとえどんなに進行した段階で見つかったとしても、決してあきらめないことが大切です。

いま、前立腺がんの80%が血液検査で発見されており、前立腺がんの早期発見に検診が必要なことは明らかです。かかりつけ医に「PSA値を測ってください」と気軽にご相談ください。

前立腺がんの病期別にみた生存率
PSA検査とは
前立腺がんを発見するための血液検査で、PSA(前立腺特異抗原)値が高いほど前立腺がんが疑われる。
PSAは健康な人の血液中にも存在するが、前立腺の病気になると大量のPSAが血液中に流出するため、早期発見の指標として用いられている。

セカンドオピニオンの重要性を痛感 エッセイスト 逸見晴恵氏

エッセイスト 逸見晴恵氏元フジテレビアナウンサーの逸見政孝が亡くなって14年たちました。当時はがんを公表するなど考えられない時代ですから、あのテレビ記者会見を昨日のことのように思い出してくださる方も多いことでしょう。

亡くなった後、悲しみのどん底にいる私たち家族に追い打ちをかけるように「最初の手術は失敗では」「最後の手術は不要では」とマスコミに書かれ、悩み苦しみました。夫には最初の診断時にセカンドオピニオンを勧めたのですが、受け入れてもらえず、この経験からも、いろいろなお医者さまの意見を聞くべきだと痛感しています。

私自身、半日ドックで子宮がんと診断された時はセカンドオピニオンを求めました。幸い、レーザー治療だけで完治しましたが、診断を受け止め、納得できる治療法を求め、亡くなり方も含めて自分でビジョンを描くことが大切だと思っています。

田辺

田辺 人間ドックによる検診も施設によって差があるとのこと。どんなところを選べば良いか、具体的に教えてください 藤野 邦夫氏 翻訳家
三原 専門のスタッフがそろっていて一定レベル以上の検査が受けられる、結果の説明を十分にしてくれる、適切な病院を紹介し事後管理もしてくれる、生活面でのアドバイスもしてくれる、などです。日本人間ドック学会では、一定の基準に合格した施設を認定していますから、目安になります。現在、全国で167施設が認定されています。
田辺 前立腺がんの早期発見にPSA検査が定着してきました。しかし厚生労働省の研究班が「対策型の集団検診には不向き」という指針を発表しましたが。
植村 あくまでも集団検診では成果を上げていないという中間報告にすぎません。多くの泌尿器の臨床医は効果を認めていて、欧米では死亡率が下がっているというデータもあります。
田辺 医師の腕や施設によって治療が左右されるということですが、良いお医者さんを見つけるには?
三原 私の場合は患者さんに一番適した病院と医師を紹介するようにしています。
植村 商業雑誌などによく掲載される治療成績をうのみにするのではなく、やはり医師に聞くのが一番。セカンドオピニオン、サードオピニオンと複数の意見を聞くのがいいと思います。
三原 日頃から信頼できるかかりつけ医を持つことが必要ですね。
逸見 でも、セカンドオピニオンをとりたいとは言いにくくて……。
田辺 保険点数が適用されて以来、セカンドオピニオン外来を設ける病院も増えています。意見を聞くのはまだ自由診療ですが。
植村 私も2、3カ所紹介しますが、早期がんの場合は同じ見解が多いかと思います。しかし、進行がんや再発の場合こそ選択肢が少ないので十分なセカンドオピニオンが大切。逸見さんのご主人の場合はまさにそうでしたね。
田辺 今日は検診の重要性を痛感しました。受診率に男女差はありますか。
三原 私の施設では、人間ドックは7割が健保組合との契約で、男性が多い。しかし、定年後は検診に来なくなり、老後を短くされているのでは…(笑)。一方、集団検診は圧倒的に女性が多いですね。
植村 欧米のように「自分の体は自分で守る」という意識を持つことです。
逸見 男性は病院嫌いが多いようですが、自分の命を守るためにはまず検診を受けること。周囲の人が特にご家族の方から声をかけていくことも大切ですね。 
田辺 どうか今日のお話を参考に、ぜひ検診を受けましょう。

前立腺がんの検診については、過剰医療や精密検査による不利益も指摘されています。受診時はかかりつけ医、泌尿器科専門医にご相談ください。