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有痛性骨転移について

1.はじめに

骨転移は進行癌の患者において高頻度にみられ、激しい疼痛、脊髄圧迫、病的骨折などの合併症をもたらします。骨転移の初発症状の85%は疼痛であり、これらの合併症は患者の日常行動の制限と睡眠の障害をもたらすため、患者のQOLを著しく低下させます。
加えて近年の癌の治療法の進歩により、進行癌患者の生存期間の延長が、逆に骨転移に苦しむ患者数の増加をもたらす結果ともなっています。
骨転移は全身転移を起こした前立腺癌及び乳癌患者の約70%、また、肺癌、膀胱癌及び甲状腺癌患者の約30%に見られるといわれています。前立腺癌、乳癌及び肺癌の患者で癌全体の約45%を占めることから、骨転移はそれに苦しむ患者数の多さからも極めて重要な問題となっています。

【参考文献】

・ Finlay IG, et.al.. Radioisotopes for the palliation of metastatic bone cancer: a systematic review.
Lancet Oncol. 2005 Jun;6(6):392-400

・ Lewington VJ.; Bone-seeking radionuclides for therapy. J Nucl Med. 2005;46 :38S-47S

・ 若林弘樹、平賀 徹、米田俊之:悪性腫瘍の骨病変に伴う疼痛とその発生機序.CLINICAL CALCIUM 16:605-611, 2006

・ 骨転移 臨床腫瘍学 第3版 日本臨床腫瘍学会編 癌と化学療法社 2003年 東京

2.悪性腫瘍の骨転移に伴う疼痛の発生機序

骨転移による疼痛の発生機序は、まだ十分に解明はされてはいませんが、現在、主に以下のような要因が関与すると考えられています。

1) 癌細胞浸潤に伴う物理的刺激

癌の浸潤のために脆弱となった海綿体の微少骨折による痛み、骨髄内での癌の増大に伴う骨膜上の痛覚神経の刺激および癌の直接的な痛覚神経の損傷、破壊などによる痛み、あるいは脊椎転移に伴う脊髄圧迫による痛みなどがあります。

2) 腫瘍組織が産生する各種サイトカインの刺激

腫瘍間質内のマクロファージなどの免疫細胞から産生される炎症性のサイトカイン(プロスタグランディン、腫瘍壊死因子α、エンドセリン、インターロイキンなど)などの発痛物質も痛みの原因となっていると考えられています。

3) 局所のpH低下に伴う酸による刺激

腫瘍組織内の免疫細胞が産生する酸、アポトーシスに陥った腫瘍細胞が放出する細胞内イオン、あるいは破骨細胞が骨吸収を行う際に酸を産生し細胞外の環境を pH4〜5に維持することなどから、腫瘍組織は酸性環境となり、酸感受性受容体を介して骨膜上の知覚神経が刺激を受け、痛みが生じるとも考えられています。

【参考文献】

・ 若林弘樹、平賀 徹、米田俊之:悪性腫瘍の骨病変に伴う疼痛とその発生機序.CLINICAL CALCIUM 16:605-611, 2006

・ 平賀 徹、米田俊之:骨痛メカニズム.癌と骨病変(松本俊夫、福永仁夫、米田俊之 編)
メディカルレビュー社、東京、2004,pp39-48

・ 山本達郎:骨転移痛の機序 がん患者と対症療法18:6-10,2007

3.骨転移痛の疼痛緩和治療

有痛性の骨転移の疼痛緩和治療には、鎮痛薬による治療、放射線治療(外照射療法、放射性同位元素内用療法)、外科療法、化学療法、ホルモン療法及びビスホスホネート療法などによる集学的なアプローチが必要とされています1-2)。なお、放射性同位元素内用療法はアイソトープ(RI)内用療法、内照射療法ともいいます。

1) 鎮痛薬による治療

癌性疼痛の薬物療法は、一般にWHO方式3段階除痛ラダーに従い、痛みの強さに応じて非オピオイド、弱オピオイド及び強オピオイドの順に使用していきます3-4)
ただし、骨転移による痛みはオピオイドが効きにくい痛みのひとつです4)。また、便秘、悪心・嘔吐及び眠気など、患者のQOLを低下させる副作用を発現させる場合があり5)、副作用の対策が十分でなければ、時には疼痛そのものよりもQOL悪化の大きな要因となる場合もあるといわれています6)

2) Bone-modifying agent(骨修飾薬)

破骨細胞による骨吸収を抑制して、骨転移における骨関連事象の頻度を減らし、その発症を遅らせる作用があるbone-modifying agent(骨修飾薬)があります。
骨修飾薬は、骨表面に特異的に吸着するパミドロネート、ゾレドロン酸などのビスホスホネート系薬剤と、デノスマブなどのRANKL**を標的としたモノクローナル抗体に大別されます。
骨性疼痛の治療における骨修飾薬の役割に関し、米国臨床腫瘍学会の乳癌骨転移に対するガイドラインでは、乳癌での鎮痛効果は軽度(moderate)とされており、骨性疼痛に対しては骨修飾薬による治療期間を通じて、癌性疼痛の標準的治療(放射性同位元素内用療法を含む)を行なうことが推奨されています7)
実際にビスホスホネートと放射性同位元素内用療法(ストロンチウム-89)の併用により、鎮痛効果が著しく向上したという報告があります8)

* 骨関連事象:骨病変の進展により生じる病的骨折、放射線治療、外科的手術、脊髄圧迫などの総称。
** RANKL(NFκB活性化受容体リガンド):破骨細胞の分化と活性化を誘導する因子。

3) ホルモン療法と化学療法

癌性疼痛の薬物療法として、ホルモン療法又は化学療法が鎮痛効果を有する場合もあります。しかし、その鎮痛効果に関しては、即効性や確実性に乏しいなどの問題が指摘されています。また、ホルモン療法は乳癌及び前立腺癌にのみにしか施行されず、いずれの治療法もホルモン抵抗性あるいは多剤耐性におちいった場合には疼痛が再燃してきます3)

4) 外科療法4)

外科療法は病巣の切除及び固定などにより、骨転移の疼痛治療のみならず、患者のQOLを著しく低下させる荷重骨の骨折予防などの目的にも実施されます。
しかし、一般に手術の侵襲が大きく、部位によってはかなり危険を伴うことから、病巣に対する初期治療としては、外照射療法を考慮すべきであるとされています。

5) 放射線治療

骨転移に対する放射線治療には、外照射療法と放射性同位元素内用療法(内照射療法)があります。

5)-1 外照射療法

放射線治療は、骨転移に対して最も有力な手段の一つであり、限局性の骨転移病巣には、局所的な外照射療法が標準的に行われます。特に病的骨折のリスクが高い場合や、骨転移により神経症状を伴う場合は外照射療法が第一選択と考えられています3)8)
しかし、多発性骨転移や広範囲に広がった有痛性骨転移に対しては、外照射療法には限界があります。

5)-2 放射性同位元素内用療法(内照射療法)1-3)5)

骨に集まる性質のある治療用の放射性医薬品は、静脈内投与により全身の骨転移病巣における骨形成部位に集積し、放射性同位元素(ストロンチウム-89)から放出されるβ線により、転移病巣を局所的に照射します。ストロンチウム-89は造骨性骨転移病巣のみならず、混合型あるいは溶骨性骨転移病巣の周囲に存在する骨形成部位にも集積し、周辺の細胞を照射します。
単回の静脈投与のため外来治療が可能で、また、比較的長期間にわたって鎮痛効果が得られます。特に外照射の適応が困難な1) 多発性の骨転移患者2) 外部照射のための体位が取れない患者3) 分割照射が必要な外部照射に際し通院による治療が困難な患者3) リスク臓器である脳・脊髄に接する椎体等の転移病巣において、既に外部照射を施行している再増悪例の患者等の疼痛緩和治療に適しています。

【参考文献】

1)  Finlay IG, et.al.. Radioisotopes for the palliation of metastatic bone cancer: a systematic review. Lancet Oncol. 2005 Jun;6(6):392-400

2)  Serafi AN,et al. J Nucl Med. 2001 42(6):895-906

3)  厚生労働省がん研究助成金 がんの骨転移に対する予後予測方法の確立と集中的治療法の開発班 編:骨転移治療ハンドブック.金原出版,東京, 60-75頁, 2004年

4)  日本緩和医療学会 がん疼痛治療ガイドライン作成委員会・編:がん疼痛治療ガイドライン, 真興交易(株)医書出版部, 東京, 82-87頁, 118頁, 2000年

5)  Silberstein EB. Teletherapy and radiopharmaceutical therapy of painful bone metastases. Semin Nucl Med. 2005 Apr;35(2):152-8

6)  Coleman RE. Skeletal complications of malignancy.Cancer. 1997 Oct 15;80(8 Suppl):1588-94

7)  Van Poznak CH, Von Roenn JH, Temin S.J; Oncol Pract. 2011 7:117-21

8)  Storto G, Klain M, Paone G, Liuzzi R, et.al.; Bone. 2006; 39:35-41

9)  癌性疼痛治療のガイドライン−アメリカ合衆国での公式ガイドライン

4.放射線治療による骨性疼痛の緩和機序

放射線治療による骨性疼痛の緩和機序は、腫瘍細胞や破骨(前駆)細胞への照射に基づく、腫瘍の縮小による神経圧迫や消骨膜伸展による疼痛の抑制などのmass effectと神経終末の破壊や、これらの細胞から放出されるサイトカイン産生の抑制や痛覚閾値の低下・感受性の改善などに生化学的な機序が考えられます1)
RI内用療法においても、吸収線量とその生物学的効果には外照射と違いがあるものの、疼痛緩和の機序としては基本的に外照射と同様のものであると考えられています。

下図に骨転移病巣における、疼痛発現の機序、放射線治療(外照射及び内照射療法)における吸収線量2)3)と、疼痛緩和機序を概念的にまとめました。物理的刺激(mass effect)による疼痛発現に対しては、腫瘍縮小をもたらす十分な線量が必要で、また、その効果発現にも時間を要し、一方、生化学的な機序に基づくものは、より早期に、また、より低い線量でもおこりうると考えられます。

【参考文献】

1)  伊藤芳紀: 有痛性骨転移に対する一回照射・再照射. 医学のあゆみ 2008, 227:830-4

2)  Blake GM, et al.: Strontium-89 therapy: Measurement of absorbed dose to skeletal metastases. J Nucl Med, 1988 29: 549-57

3)  Ben-Josef E, et.al.: A direct measurement of strontium-89 activity in bone metastases. Nucl Med Commun. 1995,16:452-6

骨転移の疼痛発生機序と放射線治療(外照射・内照射)の疼痛緩和機序