メタストロン®注TOPへ戻る

メタストロン注〔塩化ストロンチウム(89Sr)〕による骨転移の疼痛緩和治療

3. 臨床適応

3-1. 有痛性骨転移の緩和治療と本剤の位置づけ

骨転移痛の緩和治療では、他のがん性疼痛と同様に、単に疼痛緩和の観点からのみならず、個々の患者の病態や治療計画とともに、その患者の生活の質(QOL)や日常生活動作(ADL)などを総合的に考慮して、鎮痛剤、抗がん剤等による薬物治療、放射線療法、及び外科療法などを用いた集学的アプローチが重要です(図1)。

図 1.骨転移痛の集学的疼痛治療

WHO方式がん疼痛治療法では、主役は鎮痛薬薬物療法であるが、痛みによっては薬以外の治療法を考えるべきで、骨転移痛では放射線照射の単独又は他の治療法との併用によって、痛みの著しい緩和ないし完全消失が得られるのが普通であるとされています1)


がん性疼痛の原因療法である放射線療法は、骨転移の疼痛緩和の第一選択の手段とされます2)。放射線治療には外部照射と放射性医薬品によるRI内用療法があります。外部照射治療で困難とされている複数個所の骨転移に対して、RI内用療法は、1回の投与で、体内の骨転移部位に広く分布し、治療可能とする特徴を有します。従って、特に外部照射では効率的な治療が困難な多発性骨転移による疼痛緩和に適していると考えられます。

【参考文献】

1) がんの痛みからの解放−WHO方式がん疼痛治療法−(第2版)金原出版、10-13頁1998年

2) 日本緩和医療学会がん疼痛治療ガイドライン作成委員会・編:
がん疼痛治療ガイドライン,真興交易(株)医書出版部、2000年、東京

本剤によるRI内用療法は、WHO式三段階除痛ラダーのいずれの段階においても、外部照射や薬物療法などと効率的に組み合わせ、各治療の長所・短所を補完することにより、より質の高い骨転移痛の緩和治療の選択手段として考慮されるべきものと考えられます(図2)。

図2.有痛性骨転移の緩和治療

1) 限局性骨転移でも、外部照射が適応困難な患者には Sr-89が適応される。

2) Sr-89は、 NSAIDs又はオピオイドが投与され、疼痛コントロールが不十分な有痛性骨転移のある患者が対象。 ASCO Educational book(1997)にも、Step1から使用される鎮痛補助薬として記載されている。

本剤の臨床適応は以下のとおりです。「ストロンチウム-89適応候補患者チェックリスト」を用いて、適切にご判断下さい。また、本マニュアルの有痛性骨転移における非観血的疼痛緩和療法における本薬の位置づけについて示します。

3-2. 効能又は効果

固形癌患者における骨シンチグラフィで陽性像を呈する骨転移部位の疼痛緩和

3-3. 禁忌(次の患者には投与できません)

(1)重篤な骨髄抑制のある患者
(本剤投与により重篤な骨髄抑制が増強される可能性があります。)

(2)妊婦又は妊娠している可能性のある婦人
(本剤投与による胎児への放射線の影響が発現する可能性があります。)

3-4. その他の選択・除外基準

その他、本剤による治療の選択・除外基準は以下のとおりです。
(「ストロンチウム-89適応候補患者チェックリスト」参照)

【選択基準】

(本治療を行う対象患者は、以下のすべての基準を満たすこと。)

1) 組織学的及び細胞学的に固形癌が確認された患者。

2) 骨シンチグラフィの取込み増加部位と一致する疼痛部位を有する患者。

3) 非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)又はオピオイドの投与により、疼痛コントロールが不十分な有痛性骨転移のある患者。

4) 本剤の臨床的利益が得られる生存期間が期待できる患者
(余命が短くとも1ヵ月以上、望ましくは3ヵ月以上見込める患者)。

5) 十分な血液学的機能が保たれている患者
(化学療法後の最低値からの回復傾向を確認すること。表1の選択基準欄参照)。
なお米国核医学会ガイドラインにおける「望ましい検査値」を参考値として表1の備考欄に示した。


表1.血液学的検査値による選択基準

  選択基準 禁忌:重篤な骨髄抑制 備考1)
NCI-CTC2)の目安 Grade 1 Grade 3〜 4 Grade 0
血小板数(/mm3) ≧ 75,000 < 50,000 ≧ 100,000
白血球数(/mm3) ≧ 3,000 < 2,000 ≧ 5,000
好中球数(/mm3) ≧ 1,500 < 1,000 3)
ヘモグロビン (g/dL) ( ≧ 9.0) 4) < 8.0 ≧10.0

1) 参考値:米国核医学会ガイドラインにおける望ましい検査値。

2) NCI-CTC:NCI共通毒性規準。

3) 米国核医学会ガイドラインで望ましい好中球数に相当する値は顆粒球数>2,000/mm3

4) ヘモグロビン9.0g/dLはNCI-CTC Grade 2に相当。

【除外基準】

1) 重篤な骨髄抑制のある患者。
血液学的機能(血小板数<50,000/mm3、白血球数< 2,000/mm3、好中球数<1,000/mm3、ヘモグロビン量<8.0g/dL(NCI共通毒性規準グレード3〜4)を目安とする(表1)。

2) 前項に該当しない場合であっても、血液学的機能が安定せず急激な血液学的機能の低下が見られる患者。

3) 骨転移による疼痛緩和のため過去3ヵ月以内に本剤の投与を受けたことのある患者。

4) 播種性血管内凝固症候群(DIC)と診断された患者又は急激な血小板減少がみられる患者。
厚生労働省のDIC診断基準(表2)をもとに診断する。IC疑いの場合もできる限り除外する。
トロンビン・アンチトロンビンIII複合体(TAT)の検査も推奨される。
必要に応じ骨髄穿刺、骨髄生検等で骨髄抑制の状況を確認し、重篤な骨髄抑制がなければ慎重投与となるが、重篤な骨髄抑制のある患者への投与は禁忌である。


(厚生省特定血液凝固異常症調査研究班1988より) 表2.播種性血管内凝固症候群(DIC)診断基準

得 点 1点 2点 3点
血清FDP値( μg/mL) 10≦ < 20 20≦ < 40 40≦
血小板数( ×104/mm3 12≧ > 8 8≧ > 5 5≧
血漿フィブリノーゲン濃度(mg/dL) 150≧> 100 100≧  
プロトロンビン時間(時間比) 1.25≦< 1.67 1.67≦  
基礎疾患 あり    
出血症状 あり    
臓器症状 あり    
判 定 7点以上:DIC、6点:DIC疑い、5点以下:DICの可能性少ない

5) 重篤な腎機能障害がある患者(NCI共通毒性規準グレード3〜4の腎不全等)及び急激な腎機能の悪化が認められる患者(表3)。


表3.腎機能検査値による選択基準

  禁忌:重篤な腎機能障害 慎重投与
NCI-CTC Grade 3-4 NCI-CTC Grade 2
急性腎不全 クレアチニンがベースラインよりも> 3倍又は> 4.0 mg/dL増加; 入院を要する クレアチニンがベースラインの> 2〜 3倍に増加
慢性腎臓病 GFR推定値又はクレアチニンクリアランス < 30mL/ min/1.73m2 GFR推定値又はクレアチニンクリアランス 59-30mL/ min/1.73m2

体表面積補正をしたクレアチニンクリアランス


6) 多発性骨髄腫の患者。

7) 以下のような要因による疼痛が主たる患者。
骨折、脊髄圧迫、神経根圧迫、腫瘍の骨外浸潤、神経障害性疼痛、筋筋膜性疼痛、内臓痛、関節炎等

3-5. 慎重投与(次の患者には慎重に投与してください)

(1)骨髄抑制のある患者[骨髄抑制を増悪させるおそれがある。]

(2)感染症を合併している患者[骨髄抑制により、感染症が悪化するおそれがある。]

(3)腎障害のある患者[腎機能の低下により、副作用が強くあらわれるおそれがある。]

(4)高齢者(添付文書)の「高齢者への投与」の項参照)

3-6. 反復投与・他の治療方法との併用

骨髄抑制のある抗悪性腫瘍薬による積極的治療を実施中、又は、その予定のある患者では、本剤による骨髄抑制の増強、又は、骨髄抑制からの回復が遷延する可能性も考慮し、原疾患に対する抗がん治療への影響を考慮して慎重に患者選択を行う。

骨髄抑制のある抗悪性腫瘍薬と本剤との使用間隔は、各治療による血液学的検査値の最低値の出現時期を勘案し、使用時期、休薬期間及び使用再開時期などを慎重に決定する。

本剤と抗悪性腫瘍薬の併用に関しては、各治療による骨髄抑制の程度及び血液学的検査値の最低値の出現時期を十分考慮して慎重に決定する。

造血骨髄のある椎骨や骨盤への広範に外部放射線照射を行う場合は、本剤併用により骨髄抑制が増強する可能性があるので、併用する場合は各々の骨髄機能低下の時期を考慮して慎重に行う。

原疾患に対する治療を行っている患者、又は治療を予定している患者に対しては、本剤の骨髄抑制によって原疾患に対する治療が施行できなくなる場合があるので、慎重に患者を選択する。

ホルモン療法又はビスホスホネート剤やデノスマブなどのbone-modifying agent(骨修飾薬)との併用は可能であり、中止する必要はない。

反復投与する場合は、前回投与から少なくとも3ヵ月以上の間隔をとり、かつ骨髄機能の回復を確認した上で適応を判断する。前回投与時に無効であった患者には再投与しないこと。

3-7. 臨床適応

骨シンチグラムで疼痛に一致する部位に集積増加があり、標準的な緩和治療(鎮痛剤、鎮痛補助薬、抗がん薬物療法又は外部照射など)では、十分で質の高い疼痛管理が困難、又は、適応困難な患者における骨転移による疼痛の緩和

本剤は1回の静脈内投与で全身の治療が可能であるため、外部照射では効率的な治療が困難な複数箇所に広がった骨転移や、限局性(単発性)の骨転移においても外部照射の適応が困難な患者の疼痛緩和に応用されています。また、放射線治療は鎮痛薬による薬物療法と異なり、がん性疼痛の原因療法であり、骨転移の疼痛緩和の第一選択の手段とされています。

本剤の臨床適応と、骨転移痛の標準的な治療法である外部照射や鎮痛剤との関係からみた具体的な臨床的応用例について以下に示します。

<外部照射との関連における臨床的応用例>

多発性又は散在性の疼痛部位を有し、特に遊走性(痛みの部位が移動し変わること)の疼痛を有する患者

外部照射による治療部位で再発した疼痛を有する患者

外部照射の既往があり、治療部位が耐容線量に達した症例での疼痛
(脊髄への照射が40〜45Gyに達している場合など)

照射のための体位がとれない部位の疼痛

過照射による急性副作用が著明な危険臓器(骨盤部の腸管、頸椎での咽頭・食道及び肋骨での肺)の隣接部位での疼痛

外部照射の分割照射が必要で、通院が困難な場合

外部照射後の追加的な補助療法

外部照射実施部位以外の転移部位での新たな疼痛発生の抑制を期待する場合


<標準的鎮痛薬との関連における臨床的応用例>

標準的鎮痛薬(NSAIDs又はオピオイド)を用いても、十分で質の高い疼痛緩和が困難な患者。

特に、オピオイドが効きにくい体動痛などを軽減し、ADLの改善を目的とする場合。

非オピオイドを服用中で疼痛が悪化した患者(WHOラダー2への移行段階)。

副作用のため鎮痛薬の使用又は増量が困難な患者。

突発痛の発症を防ぐために増量しているオピオイドの服用量を減量したい場合。

NSAIDsの副作用(長期使用による胃腸障害、腎障害等)やオピオイドの副作用(便秘、嘔吐、眠気等)を低減し、QOLを改善したい場合。

3-8. 適切な患者の選択

本剤は以下のような要因で、一般に、骨転移の早期例でより効果があり、逆に末期のがん患者では除痛効果がより低く、副作用がより著明となるといわれています。

有効性に関しては、数個の骨転移病巣では、広範に広がるびまん性の骨転移と比較して、病巣当たりのSr-89の集積率が高くなること、また、組織酸素濃度が高くなるようなヘモグロビン値が高い(一般状態(PS)が良好で栄養状態がよい)患者では、β線による酸素効果が期待されています。一方、骨転移の進行した患者では、骨折、脊髄圧迫、神経根圧迫、腫瘍の骨外浸潤、神経障害性疼痛などの要因による疼痛が重なる可能性が高くなります。(適性使用マニュアル付録2 Q2-1参照

一方、安全性に関しては、骨転移の進行した患者においては、腫瘍の骨髄浸潤の伸展及び化学療法や外部照射などの治療歴による骨髄抑制により、本剤投与前からすでに骨髄機能(予備能)が著しく低下している可能性があります。また、広範な骨転移をきたしている患者では、本剤の骨における集積・保持の割合が大きくなり、それに伴う骨髄抑制が顕著となる可能性があります。このため、相乗的に骨髄抑制が増強する可能性があります。さらに、骨転移末期で潜在的な播種性血管内凝固症候群(DIC) の進行が重なった場合には、本剤による血小板低下により、その病態が遷延する可能性があります。

したがって、有痛性骨転移の疼痛緩和治療において、本剤の特徴を活かして、より有効に安全に使用するためには、骨転移痛が生じた早期の段階からの使用を考慮し、また、その治療法を患者に伝えておくことが推奨されます。また、これにあたっては米国核医学会ガイドラインにおける「望ましい検査値」は参考になるので、3-4 その他の選択・除外基準 表1の備考欄に示します。

以上の骨転移の進行と本剤の有効性及び安全性との関係について、概念的に図3に示します。

図3.骨転移の進行とSr-89治療の有効性及び安全性の関係(概念図)

(*適正使用マニュアル付録2 Q2-1参照