従業員座談会 核医学の未来を語る

※については「概要」ページの「用語解説」に説明を記載しています。

核医学は分子イメージングの手法の一つで、中枢性疾患への適応が注目されている

最新の核医学の話題を聞かせてください

  • Aさん

    高齢化社会が進んでいることもあり、アルツハイマー病など中枢神経系の病気に対するPETを用いた核医学の活用が期待されています。PETは、生体にダメージを与えることなく、生きたまま体内の状態を画像化して観察する分子イメージングの手法の一つです。たとえば、アルツハイマー病の患者さんでは、βアミロイド蛋白質が脳内に多く蓄積することがわかっており、これをPETで観察することによりアルツハイマー病の診断に役立つと考えられています。患者さんの脳組織を採取することは困難であり、また、今後高齢化社会が進むことを考えると、まだまだ中枢性疾患において核医学が役に立つ可能性が十分にあると考えています。

    また、最近、放射性同位元素(RI)の種類を変えて診断(Diagnosis)と治療(Therapy)を行うという「Theranostics」という言葉も登場して、注目を集めています。日本よりも海外で広く研究されており、治療の恩恵を受けられる患者さんを核医学により選別(診断)して、より効果的な治療を実施するというコンセプトです。主に、腫瘍領域で注目されており、核医学診断の個別化医療への貢献が期待されています。

  • Bさん

    2014年1月、パーキンソン症候群およびレビー小体型認知症を診断する「ダットスキャン」が上市されました。これはPETと異なるSPECT製剤で、ダットスキャンを静脈注射し、ドパミン神経に発現しているトランスポーターを検出し、ドパミン神経の変性・脱落を評価することで、パーキンソン症候群およびレビー小体型認知症の診断が可能になりました。これも分子イメージングの一つです。また、核医学は血流の評価などの機能変化の情報を画像化することにも用いられています。たとえば、脳血流シンチグラフィによりCTなどの形態学的検査では異常の現れない早期の脳血管障害の診断が可能ですし、また、先ほど話に出たアルツハイマー病でも脳血流異常が描出され、早期診断に有用です。病気の早い段階で治療できれば、効果がさらに期待できるのではないかと推測されています。

核医学ならではの分野拡大をめざします

医療における核医学の重要性、めざすことは何でしょうか

  • Oさん

    核医学は、受診した経験がある人にとっては大変有用だと感じた方もいると思います。たとえば、20歳の患者さんが核医学診断でがんが見つかり、その結果、より適切な治療ができたために治癒すれば、核医学がその方の人生を50~60年間も長くなるほど変え得たわけです。核医学のメリットを直接、享受していない人も含めて、社会全体が核医学が必要不可欠であると感じる時代にすることが、核医学のめざすところだと、私は考えています。

  • Bさん

    「他の診断方法をすべて実施しても鑑別ができない場合に核医学を使用する。」これが現在の核医学の位置づけになっています。被ばくや価格の面で難しい点もありますが、核医学を診断の早い段階から用いれば、これらの点を上回る大きな利益を生み出すことを理解してもらうことが必要です。そのためには、核医学だからこそ可能なこと、他の診断方法と差別化できる点を探し出すことがポイントになると考えています。

  • Kさん

    確かに、先生方は正しい診断をしたいと望んでおられるわけですから、核医学以外の診断方法だけでは難しいと悩まれている先生も多いと思います。その先生方に、診断の判断材料を核医学が提供する、これが核医学のめざす方向だと私も思います。

  • Tさん

    加えて、検査結果の内容が一目でわかるように表示されるソフトウエアなど、医師の先生方がこの検査が有用だと容易に判断できるものを用意することも重要ではないでしょうか。

  • Bさん

    また、当然のことながら、医療関係者の安全性への配慮も重要です。具体的には、医療関係者の被ばくの問題です。医療関係者の被ばく量をできるだけ抑えるため、シリンジタイプの製品を販売しています。これは操作が簡便で、投与する術者の被ばく量の低減が図れます。さらに、放射性廃棄物の減量化も期待できます。

核医学にはどのような未来がありますか

  • Oさん

    最近、話題になっている再生医療ですが、再生医療では再生させたい部位があらかじめわかっているので、その部位を非侵襲的に機能診断するという点で核医学の有用性が確立できるのではないでしょうか。たとえば、再生医療で移植した細胞が生きているのか、機能しているのかどうかの確認に、核医学の機能画像が使える可能性は十分にあります。

  • Aさん

    パーキンソン病の患者さんに対して、iPS細胞から分化させたドパミン神経を移植する再生医療では、移植細胞が定着しているか否かを診断するときにダットスキャンが役立つ可能性も十分に考えられます。

  • Bさん

    心臓の再生医療では、心筋血流シンチグラフィやFDG-PETを使った心筋血流および心筋バイアビリティの評価が有用である可能性があります。再生医療は、移植後、細胞ががん化する可能性が危惧されていますから、そういう場合の診断にFDG-PETが使えるかもしれません。

  • Aさん

    再生医療の他に、核医学は薬物の治療効果判定にも使用できる可能性があります。特に、FDG-PETを用いた抗悪性腫瘍薬の治療効果判定に関する研究が広く実施されています。薬物治療後の形態学的な評価には時間を要するため、より早期に核医学で機能診断を行うといった試みが既になされています。治療効果を早期に予測することにより、他の治療方法への変更や副作用の回避が期待できる可能性もあります。

  • Oさん

    また、治療薬の効果や副作用を投薬前に予測するというコンパニオン診断薬のような位置づけで核医学が役立つ可能性もあると思います。治療薬がすべての患者さんに同じような有効性や安全性を示すとは限りませんので、それを予め判断できるコンパニオン診断薬に対する期待が高まっています。核医学をコンパニオン診断として使用することができれば、全身にある病巣の薬物に対する感受性を一度にかつ、非侵襲的に評価できるため、個別化医療に貢献できる可能性が考えられます。

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